僕にとって、ファインダーの中は舞台のようなもの。舞台の端から端まで使うか、真ん中だけにスポットを当てるかで、スケール感が変ってくるんです。16:9っていうサイズは、より空間を遊ぶことができるサイズですね。
(4)は、16:9を生かし、2頭の馬にほどよい距離感をもたせて撮影しました。一般的な写真の縦横比である3:2だと、空や地面に余分な空間が出てしまいます。
(5)は、16:9の縦位置を生かして、まだ空の青さが残る頭上から、赤く染まる地平線までのグラデーションを撮りました。16:9の縦位置は、見慣れていないせいもあって、実際の比率以上に縦に長く見える。空の高さを表現するのに、この縦位置はとてもいいですね。
“αレンズ”のなかで僕のお気に入りは「
Vario-Sonnar T* DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA」です。他に何本かレンズを持って行きましたが、モンゴルでは、ほとんどこのVario-Sonnar一本で撮影していました。もともとこれぐらいの焦点距離のレンズって、目で見たイメージに近い撮影ができるので好きだったんですけど、16:9の比率に、特にちょうどいい焦点距離なんじゃないかな。被写体と普通の距離にいながら、しっかりと主役が浮かび上がるような感じの大きさになる。16:9サイズなら、超広角レンズじゃなくても、ワイド感が出ますし。
16:9で撮影すると、上下に不要なものが入らないので、僕が伝えたいモンゴルのイメージを表現するのにぴったりのサイズです。
(6)のような写真でも感じます。無駄がなくて、心地いい。まさに、僕が表現したかったモンゴルの空のイメージです。
(7)は、モンゴルのドンドゴビ県にあるツァガーン・ソーラガという渓谷です。アメリカのグランドキャニオンほどではないにしても、壮大な景色です。この日は、草木がないので一見穏やかそうに見えますが、実は飛ばされてしまいそうなほどの強風が吹き荒れていました。
16:9の面白いところは、広角レンズでの撮影とは、また違ったワイド感が得られるということ。
(8)の横位置ではワイドに、
(9)の縦位置では、落差を強調してより緊張感が生まれます。
もちろん、16:9ばかりではなく、3:2の方が写真が生きる場合もあります。例えば、16:9で撮影した
(10)よりも、3:2の
(11)のほうが画面に無駄がなく、迫ってくるような力強さを感じます。
また、16:9の
(12)と3:2の
(13)では、奥行きの印象が変化するので、
(13)ではこのようにラクダに近づいて撮りたくなります。画面の切り方ひとつで表情はいくらでも変ってくるんです。今回の撮影旅行では16:9という縦横比が加わったことによる新しい絵づくりを、夢中になって楽しむことができました。