監督 Hiroya Brian Nakano 様
撮影監督 田中 伸吾 様
映像がギュッと詰まり
惚れ惚れするほどに綺麗なFX9
感度の高さや可変NDでライブ撮影に最適
2021年2月11日にZEPP TOKYOで行われた、Creepy Nutsの全国ライブツアー「かつて天才だった俺たちへ」のライブ収録ならびにCSでの生中継において、XDCAMメモリーカムコーダー FX9を中心とした、オールフルサイズEマウントカメラによる撮影が行われました。
監督
Hiroya Brian Nakano 様
撮影監督
田中 伸吾 様
今回XDCAMメモリーカムコーダーFX9を使用したのは、ZEPP TOKYOでのライブコンサート収録とCSテレ朝チャンネルでの生中継でした。カメラ構成はFX9をメインとして6台、さらにCinema LineカメラFX6 2台、ジンバル用にデジタル一眼カメラα7S III、DJ卓の固定仕込みカメラとして業務用4K対応ビデオカメラUMC-S3CAを1台使用しました。
それぞれのカメラを選んだポイントとしては、カメラマンが直接触るカメラは基本的にFX9で固めつつ、新しいFX6も使ってみたいということで2台を加えた形です。カメラマンが直接触れるカメラやクレーンは基本的にB4-Eマウント変換アダプターを介す形で、4K対応のB4ズームレンズを使用しました。客席内の1台のみEマウントパワーズームレンズFE PZ 28-135mm F4 G OSSを装着しています。固定カメラやジンバルについては、全てEマウントレンズのFE 16-35mm F2.8 GM を使用し、全てのカメラにはブラックプロミストフィルターを装着しました。
UMC-S3CAの使用については、舞台上に仕込むカメラの存在感を極力消したいことから、監督が「小さいEマウントのカメラはないかな…」ということで、ネット上で検索したところ発見したのがきっかけです。カテゴリーとしては監視用途がメインの製品のようで、本体には操作パネルや液晶表示部などは一切持たないカメラです。しかし、S-Log3や23.98Pに対応しているフルサイズカメラということで、FX9を中心としたシステムで一体運用できると考えて採用を決めました。
制作自体はフルHD 23.98Pですが、HD圧縮時の画質を求めて収録については全て4Kで行っています。
全てのカメラをソニーで揃えた理由にもつながりますが、全てのカメラはS-Log3で撮影をしています。私たちがライブ収録を行う際は、いつもS-Log3を使っています。スイッチャー出力、マルチビュー、配信用出力にLUT(ルックアップテーブル)ボックスを入れることで、S-Log3から変換をしてモニタリングや配信を行っています。LUTについては、監督が持ってきたり、現場で微調整を行ったり、いくつか用意しておいたものをリハーサルの際に切り替えて、画を見て決めています。編集については、各々のカメラの映像に、ベースとなる調整を予め適用してからLUTをあてていますが、カメラが異なっていても違和感なく色は揃います。ただ、ここに他社のカメラを混ぜると、ポストでの調整に手間がかかるのと、配信ではライブでさらに難しくなりますので、カメラは全てソニーで揃えています。
今回のカメラは全てがフルサイズEマウントカメラとなりました。フルサイズのカメラはそのままの画質が優れるだけでなく、ダイナミックレンジの広さから来る照明の感じの伝わりやすさや、編集やグレーディングで色を入れたときの気持ちよさなどもあり、編集がしやすいと感じています。フルサイズは被写界深度の幅が広いので、カメラマンにとっても表現の余地が広がります。システムカメラ的な運用ができないところに不便さはありますが、補って余りある魅力から今回の構成を選択しました。
これまでもライブ収録では、大きく寄る必要がないポジションにはFS7やFS5、ジンバルにはαなどのラージセンサーカメラを使っていました。
FX9の画質を見てみると、今まで使ってきたFS7やFS5とは明らかに違います。FS7、 FS5もとても綺麗なのですが、さらに上を行っている感じですね。今回一緒に使用したFX6と比べても違いがわかります。なんというかFX9は画がギュッと詰まっているような感じです。色にも鮮やかさを感じました。
αレンズのクオリティも素晴らしいです。FE 16-35mm F2.8 GM は広角でもボカせますし、絞り開放でもシャープネスが極めて高い。すごいレンズだと感じます。
FX9はデュアルベースISO機能でISO800とISO4000の2つの感度が選べますが、今回は基本的にISO4000で撮影を行いました。ライブは真っ暗なところから明るいところまであるので、まず感度が大事で、次に感度を上げた状態で色が残っていることが大事です。ISO800とISO4000の差についてですが、オリジナルのクリップでよく見ると確かに暗部にわずかながらの差は感じられます。しかしポストでデノイズなどもしますので、結果的に大きな差異はなく、編集中や仕上がりでも気になることはありませんでした。FX6のISO12800もいいですが暗部のノイズ感などからFX9のISO4000という感度はバランスが取れていて、とても使いやすいと思います。またLUTを載せた時に想定どおりの色が残っている点もFX9の良いところです。ISO4000の高感度できれいに撮れるカメラというのは他に無いのでライブ撮影においてとても貴重な存在です。
電子式可変NDフィルターもフルに活用しています。クレーンでは絞りを予め固定しておき、リモートコントロールユニットRM-30BPなどを使い、可変NDを手元でコントロールしています。そうすることによって、被写界深度を固定で撮影することができます。カメラマンとしては被写界深度を決めて撮りたいので、カメラポジションに関わらず可変NDがあると使いやすいです。
ライブスイッチング現場においては従来のようなターレット型NDフィルターの場合、カメラの映像が使われている最中にカメラマンがNDを切り替えてしまい、それが映像に出てしまう場合があります。その点でも可変NDは安心につながる装備です。
またISO感度オート機能を使う場合もあるのですが、非常に優秀ですね。ハイライトの頭にきれいに合わせるところやレスポンスなど、この辺りは他社カメラと比較して段違いの良さです。
※別会場 撮影画像
FX9をライブコンサート収録に使う上での課題としてはシステムカメラ的な運用が難しいことでした。2021年中にリリースされるというバージョン3.0では、S700PTPプロトコルに対応し、RCPリモコンが使用可能になるということで、ライブ収録に一層適したカメラになると期待しています。また、専用アダプターによるB4レンズへの正式な対応や、2Kセンタースキャンモードも予定されているということで、とても楽しみにしています。バージョン3.0がリリースされたら、一層FX9に頼りっきりになるんじゃないでしょうか。使うたびに「惚れ惚れするほどに綺麗だなぁ…」と思うカメラで、これからも使い続けていきたいですね。