NANTEN2望遠鏡で観測したデータの管理にオプティカルディスク・アーカイブを採用。取得したデータの物理輸送と長期管理を実現。
名古屋大学大学院理学研究科様では、研究室で独自に開発した、超伝導を利用した世界最高感度の受信機をもつ望遠鏡「NANTEN2」を用いて、サーベイ観測*を行っています。
NANTEN2は、非常に乾燥し大気が澄み、晴天率の高いという天体観測に好条件な、チリ北部にあるアタカマ砂漠に設置されており、初代設置からすでに20年が経ちました。現在は、分子雲の分布を全天に渡って高速に観測する、超大規模な分子雲のサーベイ観測*プロジェクトNANTEN2 Super CO Survey as legacy(NASCO)を計画し、開発を進めています。
本計画のアーカイブデータ管理に、2018年にオプティカルディスク・アーカイブ(以下ODA)が採用されました。
この記事は2019年3月中旬に、同大学 立原研悟准教授、西村淳博士に取材した内容を弊社にてまとめたものです。
電波望遠鏡(NANTEN2)についてはこちら⇒http://www.a.phys.nagoya-u.ac.jp/ae/index.html
* サーベイ観測:天空の広い範囲を観測し、対象の天体がどこに存在し、どのような分布をしているかを調べる方法。
従来のNANTEN2に搭載されている受信機で広い空をすべて網羅した観測を行うためには、数十年の歳月が必要となってしまいますが、名古屋大学では、観測能力をさらに向上した受信機を開発し、約10倍程度まで飛躍的にサーベイ観測*速度を向上させることに成功しました。これにより、観測期間を大幅に短縮することができます。
一方で、全天に渡る観測データを短期間に取得することから、保管すべき生データは巨大になり、年間数百TB(テラバイト)に膨張すると予測されます。現地と日本を結ぶネットワーク回線は狭幅であり転送が困難なことから、データ輸送および管理方法について、いくつかの課題が浮き彫りになりました。
1つ目は可搬性です。毎月数十TBにおよぶ生データを物理輸送しなければならず、データをロスすることなく持ち帰る必要があり、長距離の輸送は非常にシビアな問題です。
2つ目は長期保存性です。NANTEN2で観測可能なデータは世界で唯一のデータであり、本プロジェクトが終了しても保管し続ける必要があります。研究室で管理するにあたり、劣化なく安定して保管できるメディアであることは必須要件でした。
その結果、データ保管するメディアには、高い堅牢性を持つことを前提に検討しました。
大容量かつ安全な運搬が必要な条件に対し、一般的なHDD、データテープ、光ディスクで比較検討を行った結果、最終的にODAを採用することになりました。過去にはHDD本体やRAIDシステムの故障によりデータロスを経験したことがあります。
研究室単位でデータを長期保管するという観点では、チリより持ち帰った貴重なデータは研究室に設置した棚に陳列して管理する前提でしたが、光ディスクの特長である棚保管時の堅牢性(保存特性)は魅力的でした。
また、使用感については、付属ドライバーをインストールして接続したところ、ポータブルHDDのような外部ドライブとして違和感がなく、使い勝手が高評価で、採用に至りました。Linux OSで利用する前提でしたが、標準でサポートされ問題なく利用できています。
チリの拠点に設置されたオプティカルディスク・アーカイブ ドライブユニット ODS-D280U
なお、今後チリ現地から持ち帰ったデータは、ODAから名古屋大学情報基盤センターが所有するスーパーコンピューターにデータコピーする計画です。その後、リダクション(天体信号の抽出および画像処理)を実行し成果物としてデータを完成させます。
今回紹介したNASCOプロジェクトによって進化したNANTEN2は、2019年後半に本格稼働を予定しています。観測データはオープンサイエンスの考えに基づき、インターネットなどを通じ、全世界に公開され始めます。観測したデータは世界中の研究者の共通の財産として、失くすことのできない貴重なものです。データの利活用に際し、名古屋大学が過去から積み重ねてきた観測データは、重要なアーカイブの位置づけであり、データ共有することで、研究者との共同研究や関係構築が活発に行われるようになりました。
ODAには、貴重なデータを安心して保存できることを証明いただくとともに、運用においては運搬する巻数を削減できることから、大容量化を要望します。また、関連機関とのデータ交換において、ODAカートリッジが汎用的なデータ交換メディアとして利用できるようになることを期待しています。