大分朝日放送株式会社様は、地方から全国、そして海外へのコンテンツ事業展開を強化することを目的に、2015年7月より4Kコンテンツ制作設備を導入されました。4K番組のレギュラー放送である「豊の国をゆく」や「新・にほん風景遺産」、「司馬遼太郎の世界 豊後水道への道」は、BS試験放送や全国のケーブルテレビ局などに提供されました。現在ではタイ、台湾、香港を中心にアジア諸外国へのコンテンツ提供を積極的に行なわれています。同社 代表取締役社長 上野輝幸様、技術局長 塩川秀明様に、導入の目的、選定ポイント、運用状況や今後の期待などを伺いました。
なお、記事は2016年10月に取材した内容を弊社にてまとめたものです。
4K番組制作を開始することになったのは、2015年に総務省が実施した「放送コンテンツ海外展開事業」が契機でした。地方局における4Kコンテンツ制作は、リソースの確保や業務効率の変化などから、チャレンジしにくいように思われがちですが、当社は6年ほど前から社内の意識改革を行い、全社員へのタブレット端末配布や、クラウドベースのグループウェアといったIT技術の導入など、新しい技術へのチャレンジを積極的に行っており、こういった変化に対して、社員が柔軟に対応できる社風が根付いておりました。今回の4Kコンテンツ制作については2014年夏ごろから検討を開始しました。4Kコンテンツ制作と聞くと、投資面のリスクや、制作の難しさに目が行きます。導入に向けた調査を進めていたところ、従来の放送機器と比較して4K制作機器の導入は手が届きやすいことがわかりました。また、リソースを大幅に変えることなく質を高められることも確認できました。関係するメンバーの作業負担の増加や、投資回収計画といった経営面を社内で協議した結果、「放送コンテンツ海外展開事業」に応募し、企画が採用され、2015年に「地方局 NO.1」を目標に、4Kコンテンツ制作設備の運用を開始することを決定しました。
大分県内の温泉施設やグルメ、九州全域の自然風景をPMW-F55やPXW-Z100の特長を生かして取材を行っています。
「放送コンテンツ海外展開事業」は、訪日外国人(インバウンド)の誘致が大きな目的となっており、大分県内の温泉施設やグルメ、九州全域の自然風景のコンテンツを制作しています。より高品位な4K映像を大判センサー搭載のCineAlta 4Kカメラ PMW-F55で撮影したり、機動力が必要なケースではXDCAMメモリーカムコーダー PXW-Z100を使用するなど、それぞれの特長を生かした取材を行っています。 最近では、日本百名山の一つに数えられる「くじゅう連山」に咲く天然記念物「ミヤマキリシマ」や「神楽女湖の菖蒲」を題材に制作を行いました。また、4K対応のドローンを使用した空撮など、新しい技術への挑戦も行っています。
しかしながら、こういったコンテンツは一度撮影が終わってしまうと、それっきりとなってしまう可能性があります。また、海外から、日本国内の4Kコンテンツへの需要も高いため、継続的なコンテンツ制作がカギとなります。そこで、コンテンツの蓄積に向けて、2016年8月より4K HDR(High Dynamic Range、以下HDR)に対応した4K制作システムを新たに導入しました。
PMW-F55は2台体制となり、編集室にはHDRに対応した30型4K有機ELマスターモニターBVM-X300を導入しました。制作過程ではソニーや関連メーカーとも協議を重ね、S-Log3ワークフローの一貫した4K HDR制作を行っています。ここまでHDRにこだわったのは、SDR(Standard Dynamic Range、以下SDR)と比較した際の圧倒的な臨場感でした。当社内で比較したところ、4Kがもつ高解像度とともに、ダイナミックレンジの広さがもたらすリアリティーは、一目見れば誰もが得られる感動体験だと考えました。この差は大きく、4K制作のスタンダードになることを想定し、HDRを前提としたワークフローを構築しました。取材については、ショルダーカムコーダーに慣れたカメラマンも当初は苦戦していましたが、ベテランの匠の技か、早い段階で使いこなすことができています。
4Kコンテンツ制作は、想定していたよりも早めに良い結果がでました。現在では保有する4Kコンテンツは70作品にのぼり、年間50本を目標に制作を行っています。
順調に進む4Kコンテンツ制作は、社内全体のスキルが向上する一方で課題も出てきました。コンテンツの保管場所です。気が付けば、大量のポータブルHDDがたまっていました。これから本格化する4K放送に向けたコンテンツの蓄積には、アーカイブ管理が必要となります。そこで、HDDにかわる大容量アーカイブメディアの検討を進め、2016年9月にオプティカルディスク・アーカイブ第2世代のドライブユニットODS-D280Uの導入を決めました。
オプティカルディスク・アーカイブ第2世代を選択したポイントは大きく2点です。一つ目はマイグレーションです。今後、4K放送が本格化するまでに、コンテンツの蓄積を進めていますが、HDDなどは、従来の放送業務用メディアと比較し、保存寿命が短い点が課題でした。世代間互換については、新しいドライブが過去の光ディスクを読み出しできるオプティカルディスク・アーカイブの後方互換性が、ITメディアと比較し、特にメリットがあると考えました。
4Kコンテンツのアーカイブ用に導入するODS-D280U。
二つ目は操作性です。初めてオプティカルディスク・アーカイブ第2世代を目にしたのは九州放送機器展でしたが、第2世代のODS-D280Uになり、4K運用に耐えうる高速転送を実現していました。また、メディア内に格納されたXAVC 4Kファイルの直接再生や、トランスコードすることができる「Catalyst Browse」が利用可能で、ドライブユニットを持ち運べばどのPC端末でも利用できる点は大きく、HDDからの置き換えのイメージが、運用者にもわかりやすかったです。また、データベース管理についても検討していましたが、付属する「Content Manager」で、簡単に管理できる点も評価しました。こういった運用に必要なアプリケーションを利用できる点はソニーらしく、ドライブユニットのみ導入したい当社にも適していました。
今回の4Kコンテンツ制作へのチャレンジは、当社内にとどまりません。全国の放送局、ケーブルテレビ局や関連機関のみなさまが、当社の4Kコンテンツ制作設備の見学に来られています。また、大分県内のプロダクションと連携し、制作に関するスキル向上をともに進めています。苦労話も多分にありますが、一地方局のチャレンジが業界全体の意欲向上につながり、地方から全国へ、そして海外へと貢献できることが大きな成果だと考えています。
今後も4Kコンテンツ制作は広がると確信していますが、ソニーには、一層4Kを身近に制作できるよう、商品の開発や改善を行い、業界を引っ張っていただきたいと思います。