報道・アーカイブシステムをリニューアル。XDCAM Stationとオプティカルディスク・アーカイブで全社統一の完全ファイルベース化へ段階的に更新。
静岡放送株式会社様は、地上波の報道システムを、全社的な完全ファイルベース・共通ワークフローに向けてリニューアルすると同時に、オプティカルディスク・アーカイブを中心としたアーカイブシステムを導入。過去の番組アーカイブから報道素材までのワークフローの統一を実現しました。また、自社制作番組も含めた統一に向けて、継続したリニューアルも進行中です。 同社技術局 技術センター 放送技術担当 兼 総合メディア局 メディア事業部 副部長 兼 報道局 ライブセンター web企画担当 高橋 聡様、技術局 技術センター 制作技術担当 西尾圭介様、技術局 技術センター 送信技術担当 須貝光彦様、報道局 ライブラリー室 橋ケ谷みち代様に、システムリニューアルの目的、コンセプト、成果や評価などを伺いました。
なお、記事は2016年4月上旬に取材した内容を弊社にてまとめたものです。
報道サブ内の3式の送出用XDCAM Station XDS-1000(左ラック)と、XDS-1000へのファイル転送の制御を行うPC端末(右)。報道サブはXDCAM Stationの導入を除いてシステム変更を行わなかったことで、スムーズで混乱のない移行を実現しました。
報道フロア内の回線収録・インジェストブース。XDCAM Station XDS-1000を5式使用し、さまざまなフォーマットの報道取材映像のインジェストならびに回線収録を行います(左)。同時に、メタデータの付加作業を端末で行います(右)。
従来利用していた、ソニーのSonapsを中心としたファイルベース報道編集システムが更新の時期を迎える2年程前から、今回のリニューアルの検討に入りました。3年かけて段階的に取り組む計画とし、無理なく入口から出口まで完全なファイルベースシステムへ移行することと、報道、制作、アーカイブまでを含めた、全社的な共通ワークフローにすることがコンセプトです。従来の Sonaps をベースとするシステムは完成度が大変高いものでしたが、今回は報道系と制作系の共通化も考慮し、どちらのスタッフも馴染みやすいワークフローと汎用性の高さ、ローカル局に適したシステムサイズがポイントでした。また、大きな規模のシステムになりますので、一部で障害が発生した場合でも、それぞれのシステムが独立して稼働できる構成も必要でした。計画を段階的にスタートし、アーカイブシステムの更新から実施しました。2015年3月にメタデータ検索システム、7月に過去番組のアーカイブ、9月にオプティカルディスク・アーカイブのシステムが稼働開始し、2016年3月に報道系システムの稼働を開始しました。今年の8月には制作系のインジェストから送出までのシステムが稼働する予定です。
当社では、報道系だけでも複数のフォーマットのカムコーダーを使用しているため、ワークフローの統一が課題でした。ネイティブ素材管理、ネイティブ編集の検討もしましたが、送出直前のレンダリングが運用に与える影響は大きいため、インジェストや回線収録、送出の部分でXDCAM Station XDS-1000を採用し、さまざまなフォーマットの素材をXDCAMのMPEG HD 422 50Mbps MXF Op1aに統一しました。プロキシも自動生成されます。ソニーのコンテンツ管理システム「Media Backbone Ensemble」を広く活用し、素材やアーカイブの検索から、プロキシ再生までを全社どこでも行えるようにしました。従来からファイルベースシステムは導入しており、今回の更新で3代目となりますが、その中での課題は、便利になるにしたがって、現場の負荷が増大している部分があるという矛盾でした。今回は、その問題への対処も課題の一つでした。そのため、あえて部分的に不便にする試みを取り入れています。それは「ファイルベースなのだから、ファイルでしっかりと書き出しましょう」、「書き出すファイルフォーマットは全員が意識しましょう」といった部分です。この結果、ファイルへの意識や、データ量、素材の管理に対する意識向上に成功したと思います。
ODS-L30MとODS-L60Eを利用し、ドライブユニットODS-D77Fを合計4式併用、合計91巻のオプティカルディスク・アーカイブカートリッジを格納でき、最大約136.5TBの内蔵ストレージ容量を確保しています。
ライブラリー室内のインジェストブース(上)とライブラリー室内でのメタデータ付加作業の様子(下)。VTRを自動制御し、過去のテープアーカイブをMXFファイルに自動的にデジタイズ。その後、ファイル化されたアーカイブ映像を見ながら、メタデータの付加作業を行います。
アーカイブメディアとして何を選定するか、ということも長い時間をかけて検討をしてきました。当初は LTO も検討しましたが、特に沿岸部に近い当社では、津波などの水災害も含めた耐久性や長期保存性を考え、テープよりも光ディスクであるオプティカルディスク・アーカイブを選択しました。同録や過去の自社制作番組、スポーツ番組などの番組単位のアーカイブの他に、報道素材もアーカイブを行っています。システム構成としては、PetaSite 拡張型ライブラリーマスターユニット ODS-L30M、ドライブ拡張ユニットODS-L60Eをベースに、報道素材アーカイブ用とライブラリー室のオフィス内に、オプティカルディスク・アーカイブドライブユニット ODS-D77Uを使用しています。当社はローカル局の中でも開局が早く、全国に先駆け夕方のローカルワイド番組を立ち上げるなど自社制作番組が多いため、過去素材も数多く残っています。従来のライブラリーでは、同録や番組完パケ、報道素材などがバラバラのメディアであったため、手順の集約もできず不便が伴っていました。しかし、今回のリニューアルで、メタデータの記録のほか、メディアやワークフローを共通化でき、アーカイブの検索性が飛躍的に向上し、アーカイブ素材の利用が格段に増えました。約23,000本あるテープアーカイブを、オプティカルディスク・アーカイブにメタデータと共に順次変換・紐付け作業をしており、あと 4 〜 5年ほどで終えられる見通しです。
報道システムの移行は、重要なポイントになる部分のワークフローを極力変えない前提で設計をお願いしていましたので、移行当日にも、特に混乱はなくスムーズに移行できました。今回のリニューアルでは、アジャイル開発手法の提案をいただきました。その結果、開発中も潮流の変化や状況変化にきめ細やかな対応をしてもらえたことが、よいシステム構築につながったと感じています。現場をよく理解してもらい、さまざまな提案をいただけたことが現在の運用につながっているものと思います。また、アーカイブシステムの更新を最初に着手したことで、データの出口が整備され、その後の更新やワークフローの移行が大変スムーズになりました。この選択はとてもよかったと思います。その他にも、ファイルベースシステムならではの特長を生かした、ネット配信への応用も実現しました。編集機から出力されたファイルは、自動的にトランスコードされ、ウォーターマークを付加し、ネット配信向けコンテンツとなります。
ソニーには今後も、ニーズや状況変化に対応したバージョンアップなどを継続的にお願いしたいと考えています。