機材を都度スタジオに持ち込んで柔軟に適用する従来のスタイル、オペレーションに対応したDWXシリーズの充実したラインナップを評価
株式会社フジテレビジョン様は、特定ラジオマイクの周波数移行に合わせて、新周波数帯対応DWXシリーズを採用され、2015年3月30日からスタートした新編成の生番組などで、1日に13時間を超える本格運用を開始しました。同社 総合技術局 制作技術センター 報道技術部、制作技術部のエンジニアの方々に、DWXシリーズ導入までの経緯と決め手、運用状況と成果、今後の本格稼働での期待などを伺いました。
なお、記事は4月下旬に取材した内容を、編集部でまとめたものです。
放送局内でのマイクロホンシステムの運用は、レシーバーをスタジオサブに常設し、ミキサーがコントロールするのが一般的だと思います。しかし当社は、この常設スタイルではなく、機材を保管庫で一括管理し、番組ごとにスタジオに持ち出して運用するスタイルをとっています。番組に合わせて一定の波数を割り当て、制作サイドの要望で増やしたり、あるいは技術サイドから上限を指定するといった柔軟な運用スタイルで、機材管理の効率性も高めています。
本社V1スタジオ。朝や午後のワイドショーなどで使用されています。ポータブルベースユニットPB-01などを持ち込んで運用、必要に応じて機材を増やして使用波数を増やせる点など、DWX シリーズのポータブルタイプは好評です。
今回の周波数移行に伴う機種選定でも、この運用スタイルを継承できることを更新コンセプトの一つとしました。特に、ソニーに対しては、800MHz帯のアナログワイヤレスの時代から使用してきた経緯もあり、対応への期待が大きく、具体的な要望として伝えていました。結果的に、デジタルワイヤレスマイクロホンシステムDWXシリーズが、こうした当社の要望に応えるラインアップを提供してくれたことが、導入の決め手の一つとなりました。
実際、ホワイトスペース帯(以下、WS帯)、1.2GHz帯の移行周波数すべてに対応しているのはソニーだけでした。特に、1.2GHz帯はチャンネルリストの運用といった不便さがなく最大38波が使えますので、当社の運用スタイルにも最適です。トランスミッター186式のうち、1.2GHz帯を20式としたのもそうした点を評価した結果でした。
また、機器やアクセサリーのラインアップも魅力です。中でも、単三形バッテリー駆動を実現したデジタルワイヤレスレシーバーDWR-P01DNや、1台で最大6ch運用を可能にしたポータブルベースユニットPB-01などの充実したポータブルタイプは、当社の運用に大きく貢献してくれます。PB-01は、長年愛用してきたPB-860をそのまま継承する形で運用できます。
もちろん、機種の選定では音質、伝送系の安定性、多チャンネル運用など、放送業務用マイクロホンシステムに不可欠な条件についても詳細な検証テストを実施しました。DWXシリーズは、こうした点でも優秀であると評価しました。
特に、デジタルならではのメリットとして評価したのが音質です。アナログワイヤレスの音と比較すると、非常にクリアで聴き取りやすく、しかも自然な響きで違和感もなく、クオリティーの高さを実感しました。また、多チャンネル同時運用をサポートする制御ソフトWirelessStudioやCross Remote機能などにも期待するところが多くあります。今後の本格運用の中で伝送系の安定性を含めて検証していきたいと思っています。
当社は、2015年春の番組改編で「LIFE !S LIVE」をキーワードに、生放送に注力した番組編成を行い、3月30日からオンエアを開始しました。DWXシリーズもこの日から本格運用をスタートしました。早朝の「めざましテレビアクア」から始まり、「めざましテレビ」、「とくダネ!」、「ノンストップ!」、「FNNスピーク」、「バイキング」、「直撃LIVE グッディ!」、「みんなのニュース」、「こんやのニュース」、「LIVE2015 あしたのニュース&すぽると!」など、1日に13時間を超える生番組でフル稼働しています。また、屋外でも「フジサンケイ レディスクラシック」のゴルフ中継で1.2GHz帯を活用しました。
運用を開始してまだ1ヶ月あまりの段階ですので、総合的な評価には時間を要しますが、手応えを感じている点はあります。たとえば、アナログからデジタルへスムーズに移行できたことです。同じソニー製であることや、運用開始の際にソニーの担当者に立ち会っていただき、サポートしてもらったことで、スタッフ、オペレーターもストレスを感じることなく、移行できたと思っています。
また、運用スタイルも従来の持ち込みスタイルをそのまま継承できています。スタジオに持ち込んで電源をONにするだけで使用できます。モード設定は、移行期ということもあり、安定性優先でMODE3をデフォルトにしています。遅延や音質の面でも不満を覚えることはありませんし、必要に応じて1.5msの低遅延、高音質のMODE2を選択することもできます。
早朝から深夜までのニュース番組などで使用されている本社V9 スタジオ。DWX シリーズは稼働を開始して間もない段階ですが、デジタルならではの高音質、PB-01( オカモチ)の見やすい一覧監視体制、MODE 3 の安定した伝送はスタッフの皆さんに好評です。
機材保管庫(写真・左)。番組に合わせてスタジオに持ち込んで運用しています(写真・中央/右)。デジタルワイヤレストランスミッターDWT-B01Nを186式(1.2GHz帯120式、WS帯66式)、デジタルワイヤレスマイクロホンDWM-02Nを60式、デジタルワイヤレスレシーバーDWR-P01DNを90式、ポータブルベースユニットPB-01を23式導入し、本社各スタジオで計246波での運用が可能になっています。
さらに、多チャンネル同時運用をサポートする制御ソフトWirelessStudioなどについても利便性を感じています。現在は主に監視用として運用していますが、出演者が装着したボディパック送信機のスイッチを誤って切ってしまうといった場合でも、すぐに対応することができ、信頼性・安定性の確保に貢献しています。今後、CrossRemote機能を含めて、スタジオ運用でさらに有効に使えるように検証作業を通してノウハウを蓄積したいと考えています。
採用の決め手のひとつとなった高音質も、実際の運用でもその魅力を発揮してくれています。歌番組に出演するアーティストの方々にも視聴していただきましたが、音色の好みは別にして、DWXシリーズの音質は好評でした。まもなくボーカル仕様のカプセルユニットもラインアップされるとのことなので、歌番組でもDWXシリーズを運用してみたいと考えています。
本社のスタジオに続き、バラエティー番組などの収録に使用している湾岸スタジオでも、今年度に更新を予定しています。機材庫に保管して収録に合わせて各スタジオに持ち込むという運用スタイルは本社と同じです。その意味では、DWXシリーズならスムーズに移行でき、効率的な運用ができるのではないかと、期待しています。
本社スタジオ、そして今後の屋外でのスポーツ中継などでの本格的な運用を通して、DWXシリーズの特長である高音質、安定した伝送系、多チャンネル同時運用などを有効に活用して、より魅力的な番組制作に貢献していきたいと考えています。
もちろん、実際にオペレーションを行う立場からしますと、これから取り組むべきテーマも少なくありません。たとえば、モード選択もその一つです。MODE2とMODE3の有効な使い分けを模索していく必要があります。また、Wireless StudioやCross Remote機能の使い方もあります。非常に高機能で、周波数の集中管理や各種設定をワイヤレスで一括・個別コントロールが可能ですので、これらの多彩な機能をスタジオ運用でいかに有効に活用するかを模索していく必要があります。
これからノウハウを蓄積して、たとえば技術側から制作側へアドバイスする、逆に制作側の要望に技術側が具体的に応える、といった密なコミュニケーション、情報・ノウハウの共有が大事になると考えています。
ソニーには、これまでと同様に、現場で実際に運用する立場からの意見や問い合わせに柔軟に対応していただき、また必要なソリューション、アクセサリー、ソフトウェアのアップデートなど、一層のラインアップの拡充、機能強化に取り組んでほしいと思います。
2016年1月掲載