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「ベータカム」は、それまで放送局のENG取材の中心であった「U-matic」から、より小型・軽量で放送局の性能を満たすシステムが要望され、それに応える新たなENGフォーマットとして発売されました。
以来、20年間、テープ幅1/2インチのベータカムシリーズは、メタルテープ採用、デジタルテープ開発、HDフォーマットへの対応等、テープ製造技術の向上と共にラインアップを拡充し、プロユースのスタンダードとして広くお客様にご使用頂いております。
プロメディア部
商品設計2課
畑井聡 課長
ソニーの放送・業務用テープは全て、宮城県多賀城市にある仙台テクノロジーセンターで開発・設計が行われています。今回は、ベータカム発売当時からテープ設計に携わってきた、レコーディングメディアカンパニー・プロメディア部商品設計2課の畑井課長に、コメントを貰いながらベータカムテープの歴史を振り返ります。
それまでの放送局ENG取材の主流であった「U-matic」はカメラマンの他にVTRを操作する人やサウンドエンジニア等、少なくとも3〜4人が必要でした。 「人手が要らず、小型軽量のシステムが欲しい」といった声が放送局の方々から寄せられ、そこで登場したのが「ベータカム」です。

当初、81年のNABで発表された1号機の「BVW-1」のテープにはベータマックスが使用されていましたが、放送用の高画質を実現する為の磁性粉開発や1インチテープで培ったバインダー技術を活用して信頼性向上に努め、82年に初の1/2インチ、放送・業務用テープ「ベータカムHG」を発売しました。ベータカムテープはビデオS/N向上により、画質に対する高評価を頂く事が出来ました。また、ハードもユーザーの撮影機動性が向上した結果、飛躍的に普及し、この頃からアメリカでは撮影を1人で行うフリーランスカメラマン等も多数存在するようになりました。
ベータカムHGシリーズ
ベータカムHGシリーズ

ベータカムKシリーズ
ベータカムKシリーズ

ベータカムGシリーズ
ベータカムGシリーズ
ソニーでは80年代初めから、デジタルVTR用テープの開発に着手していました。 デジタル信号処理では膨大な情報量を取り扱いますので、それまでのオキサイドテープではなく、高性能のメタルテープの開発が必要でした。

ちょうどその頃、ベータカムを使用しているお客様から、1/2インチサイズで1インチの後継となる高画質フォーマットの要望も出されていました。 86年に発表したベータカムSPの1号機「BVW-505」には、それまで開発・設計を進めていたメタルテープ技術を採用したベータカムメタルシリーズをラインアップしました。

メタルテープでは、高画質を図る為の新規磁性分の開発は勿論ですが、業務用VTRヘッドとの速い相対速度に対応する為に耐久性・信頼性の向上が図られています。 新規バインダー技術により、粉落ちやスチル特性が向上した高性能メタルテープのベータカムメタルシリーズは、画質において高い評価を頂き、加えてハードがベータカムオキサイトテープとの互換性を保った事によりユーザーに受け入れられたと思います。

また、当時、編集もベータカムで行いたいとユーザーからの要望が高まり、撮影から編集、送出までの機材がベータカムSPでラインアップされ、ベータカムメタルテープも大量にお客様にご使用頂くようになりました。

また、それまで業務用領域で「U-matic」を継続使用していたお客様も、BCT-MAの低価格モデルUVWTシリーズの導入により、1/2インチ「ベータカムシリーズ」は放送用から業務用まで幅広く、お客様にご使用頂くようになりました。
ベータカムMAシリーズ
ベータカムMAシリーズ
90年に技術開発関係社に与えられるアメリカで最も権威ある「エミー賞」を受賞しました。今後のテープ開発・設計の大きな励みとなりました。 エミー賞
エミー賞
ベータカム→ベータカムSPと発展した1/2インチビデオテープは、当然デジタル化へと向かいます。 1/2インチ以外のフォーマットでは既にデジタル化は進んでおり、ソニーでは国際標準仕様のD-1VTRを86年、次いでD-2VTRを88年に発売しておりましたが、特にヨーロッパを中心に屋外取材用の分野においても1/2インチサイズでのデジタルフォーマットが要望されるようになりました。

93年、1/2インチ・コンポーネントデジタル「デジタルベータカム」を商品化しました。 当初は画像圧縮技術を不安視されるお客様もいましたがデジタルコンポーネントの画質に高い評価を頂き、また、ベータカムと同サイズ、低価格化、互換性を実現した事により、多くのお客様に受け入れて頂く事が出来ました。

デジタルベータカムは膨大なデジタル信号をテープに記録しますので、精度の高いトラッキングが必要です。 その為にテープも形状変化の防止、テープ寸法を維持し、再生互換を保つ必要性がありますが、デジタルベータカムテープはベータカムSPテープと比較して約1/3のテープ収縮率を実現しています。 またデジタル圧縮技術の採用により、それまでラージカセットで90分の記録時間が最大124分までの記録時間が実現しました。

94年のリレハンメルオリンピック国際放送センターのメインフォーマットに採用されるなど、デジタルベータカムも、多くのお客様から高い評価を頂いたと思います。
デジタルベータカム
デジタルベータカム
既にデジタルベータカムによって1/2インチカセットのデジタル化は行われていましたが、近年、経済環境も変化し、ENG/EFPの分野においては更なる低コスト化が必要とされてきました。 その要望に応えて商品化されたのがベータカムSXです。

SXはMPEG圧縮方式を採用する事により低転送レートでも、高画質を実現するフォーマットが採用されています。 また、エラー訂正能力は非常に高く、低ランニングコストのメリットと合わせてお客様から評価を頂いた商品です。
ベータカムSX
ベータカムSX
それまでのHDTV対応フォーマットは、1インチオープンリールのテープでした。 従来のフォーマットがそうであったようにHDTVに関しても小型・軽量でHD画質として十分、通用するフォーマットが求められていました。

すでにソニーでは80年代より、HD画質を表現する高性能メタルテープの開発に着手しておりました。 HD信号は従来のフォーマットと比較して記録波長が短くなる為、デジタルベータカムよりも更に細かい超微粒子磁性紛が採用されました。 信号を記録する磁性紛は、テープ上に均等に塗布される必要がありますので、磁性紛が細かくなるほどその分散処理技術の向上も必要となってきます。 画質向上の為の微粒子磁性紛開発と信頼性向上の為の対応バインダーの開発を繰り返し行い97年にHD対応フォーマット「HDCAM・BCT-HDシリーズ」を商品化致しました。

HDCAMのカムコーダー・VTRは、デジタル放送時代のスタンダードフォーマットとして、全国の放送局、プロダクションのお客様にご採用頂いております。 2003年から開始の地上波デジタル放送の開始と共に、撮影から編集・送出まで、全てHDCAMによって行われる事により広く普及していくと確信しております。
HDCAM
HDCAM
デジタル放送をはじめ、家庭用映像ソフトのDVDやストリーミング等のインターネット映像配信等、映像分野におけるデジタル圧縮フォーマットは全て「MPEG」が主流となっています。 ソニーにおいても高画質でネットワークとの親和性の高いMPEG環境での制作システム「MPEG・IMX」が商品化されました。 一足速く、デジタル放送が開始されているヨーロッパに「MPEG・IMX」は採用され、テープにおいてもドイツ・オーストリア・スイス等を中心にご使用頂いております。

ソニープロフェッショナルメディアは、ベータカムシリーズ2億巻の出荷の実績を基本ベースとし、これからもお客様の信頼性・ご要望に応える商品作りを実施していきたいと考えております。
MPEG・IMX
MPEG・IMX