コンスーマー・プロフェッショナル&デバイスグループ ホームエンタテインメント事業本部第2事業部
金井 隆 (主幹技師)
コンスーマー・プロフェッショナル&デバイスグループ ホームエンタテインメント事業本部第2事業部
佐藤正規 (エレクトリカルマネージャー)
今回発売した「TA-DA5600ES」は、昨年発売した「TA-DA5500ES」の後継モデルに当たりますが、機能的にはフルモデルチェンジと言っていいくらい充実しています。その進化の中でも大きな柱となっているのが「スピーカーリロケーション」です。
サラウンド作品をきちんと楽しみたいと思っても、いざ、自宅の部屋にサラウンドスピーカーを設置しようとすると、置きたい位置にはドアがある、窓があるなどで、なかなか理想的に配置できません。ましてサラウンドバックスピーカーともなると、自分の後ろは壁で、基本的に置けないというケースも多いと思います。このような設置の問題を技術の力で解決するのが「スピーカーリロケーション」です。実はアイデアとしてはずっと以前からありました。しかし実用的なものが完成できなかった。その理由はいくつかありますが、もっとも大きい理由はスピーカーの位相特性が同じでないため、音の「再配置」が自由にできないことでした。ところがこの問題が昨年、別の技術で解決していました。
それが自動位相マッチング技術「A.P.M.」(Automatic Phase Matching)で、フロントと違うスピーカーを購入してサラウンドを組むときになかなかうまくいかない最大の原因を取り除く技術です。この「A.P.M.」は今年の「TA-DA5600ES」はもちろん、弟モデルの「TA-DA3600ES」にも搭載してあります。「A.P.M.」は自動音場補正機能「D.C.A.C.」(Digita Cinema Auto Calibration)の一部として動作し、すべてのスピーカーの位相の周波数特性をフロントスピーカーに揃えますが、フロントを一切いじらずに位相特性の差分だけを補正できるのはソニーが世界で初めて*完成した独自技術です。
*マルチチャンネルインテグレートアンプとして、サラウンド・センタースピーカーの位相特性をフロントに合わせた上で、ファントム定位によりスピーカーの音源を理想の位置・角度へ再配置する技術として世界初。(2010年8月25日現在、ソニー調べ)
ステレオの左右に違うスピーカーを使う人はまずいませんが、サラウンドスピーカーをフロントと同じにするのは現実的ではありません。でもこれが本当はまずいんです。サラウンドが普及するためには、なんとしてもこの問題を解決しなくてはいけないという強い思いがありました。そこで酒井さんに開発をお願いしたんです。
いくつものアルゴリズムを試作し、実際に人の耳で聴いて確認する聴感評価を繰り返しながら最適なものにしてゆきました。最終的には「最適デジタルフィルターの自動生成」という技術として完成しました。「D.C.A.C.」の測定中にAVアンプのDSPは高速コンピューターとしてデジタルフィルターを計算で作りだします。この計算は精度のよい測定値がないと停止してしまうんです。実際の商品ではそういうことは一切起こりませんが、それはソニー独自の「D.C.A.C.」の測定精度の高さに支えられているといえます。
そして 「スピーカーリロケーション」へと駒を進めることができました。リロケーションのアイデアは古くからあったのにうまくいかなかったのは、スピーカーの位相特性を揃え、サラウンドの構築とスピーカー間の音のつながりを実現する「A.P.M.」が存在しないとサラウンドが成功しないのとまったく同じ理由です。「A.P.M.」を実現できた今、スピーカーの音源を理想の位置に移動させるリロケーションもうまくいくはず、と思いましたので、昨年モデルが発売されてからというとんでもない時期に、酒井さんに「やってよ」とお願いしました(笑)。