「打ち込みやパソコンで音楽をつくることに明け暮れていたころに、あらためて生演奏の大切さを教えてくれたのがザ・バンド、とくにこのライブ盤でした。今回選んだのはドラマーのリヴォン・ヘルムがボーカルをとっている曲なのですが、僕は、彼のドラムの熱量がすごく好きで。自由で大胆な抑揚のつけ方にも、親近感を覚えます。1976年のライブ音源ということで、おそらく録音環境も厳しかっただろうと思いますが、ハイレゾ音源では、彼らのパフォーマンスのすばらしさが、より伝わってきます。音そのものも、余裕をもって聴こえてくるというか。このウォークマンとイヤホンで聴くと、大きな器で鳴っているように感じられる。当時の会場にいたら、こんな音の広がりに聴こえたのかなと想像できますね」
「このアルバムは自分でミックスをしているのですが、その全体の方向性を決めるにあたって、最初に仕上げた曲です。低音域を、多すぎず、少なすぎずという加減にしたり、自分のボーカルの出方なども試行錯誤しました。今回あらためてハイレゾで聴いてみて、そのバランスは間違いなかったと再確認できた。オーディオで聴いているような、気持ちのいいレンジの広がりを感じられたので安心しました。日本語の歌詞も、自分の中ではずっとチャレンジしたかったもの。前々からRopesというユニットのファンだったのですが、そのボーカルのAchicoさんにも歌ってもらえてうれしかった。フェスの帰りなどに車を運転していると、山に夜霧が立ち込めていたりして。そんなときのことをイメージしてつくった曲です」
「ブギーっぽいダンスミュージックも、いつかやってみたいと思っていたのですが、ライムスターと一緒につくれたことは、僕にとって本当に願ってもないことでした。しかも、ヒップホップの歴史をリリックで伝えることによって、曲の魅力が何倍にもなったというか。長くその道を歩んできたライムスターだからこそ、そうしたことを語る資格もあるのだと思います。自分が歌っているパートもあるのですが、そこには、先輩たちについていこう、という思いを込めました(笑)。ハイレゾで聴いてみると、低音域に量感はあるけれど、モワモワしていない。業界的な言葉でいうと、“引き締まった低音”という感じで。音がよりシャープに、耳に入ってくるような印象を受けますね」
「5月に来日したニック・ハキムのライブは最高でした。2019年に見た海外ミュージシャンのライブでは、ダントツによかった。けっして派手な音楽ではないのですが、打ち込みと生演奏の音がうまく混じり合っていて。ロックともヒップホップともソウルともいいきれない、雑種的な感じもすごく好みに合う。しかも僕は、うますぎて非の打ちどころがないようなボーカルはあまり好きではなくて、彼のように個性の塊みたいな声のほうが魅力を感じるんです。何度か聴いてみることで、わかってくる面白さもあって。曲の所々で、音がゆがんだり、ちょっとヘンな音があちこちで鳴っていたりしますよね。そういう仕掛けも、ハイレゾで聴くとより鮮明にわかる。つくり手の意図する音像が伝わりやすいと思います」
「中学生のころに、短い期間なのですが、イギリスのスワネージという田舎の港町にホームステイをしたことがあります。日本を発つ前に友だちが薦めてくれたオアシスの曲を、そこでバスに乗りながら聴いたときの感触が忘れられなくて。とくにこの曲が、景色とぴったり合っていたんです。いまでこそ、こうしたギターミュージックを聴く機会は減っていますが、ハイレゾで聴くと、迫力のあるギターの音はやっぱりいい。中音域がしっかり再現されて、余裕のある鳴り方をしているので、それほどボリュームを上げなくても聴きごたえがありますね。サビのところで入るファルセットのバックコーラスなども、リバーブの質感が重要なのですが、ハイレゾではそれがすごく生きていて、気持ちよく聴こえました」
※音楽配信サイト「mora」で配信されている曲の中から選曲をしています
※「mora」でのハイレゾ商品の試聴再生はAAC-LC 320kbpsとなります。
試聴再生は実際のハイレゾ音質とは異なります
※ハイレゾで聴く場合は「mora」で購入する必要があります
※取材時にはハイレゾ対応のウォークマン「NW-ZX507」、イヤホン「IER-M7」で試聴しました
mabanua(マバヌア) プロデューサー、ドラマー、シンガーなどとして、多岐にわたって音楽活動を続ける。ドラムのほかにも、さまざまな楽器を演奏するマルチプレーヤーである。これまでに、Chara、ライムスター、米津玄師、向井太一をはじめ、数多くのミュージシャンとコラボレーション。トロ・イ・モワ、チェット・フェイカー、マッドリブ、サンダーキャットといった海外アーティストとも共演を果たした。プロデュースした楽曲は、CM、映画、ドラマ、アニメなどにも提供している。現在は、Shingo Suzuki、関口シンゴとともにバンド“Ovall”としても活動。加えて、ビートメイカー・Budamunkとのユニット“Green Butter”、タブラ奏者・U-zhaan とのプロジェクト“U-zhaan × mabanua”、ASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文による“Gotch Band”にも参加。ソロ作品としては、2018年に3rdアルバム『Blurred』をリリースした。Ovallの3rdアルバム『Ovall』が、2019年12月4日(水)にリリースされた。
mabanua オフィシャルホームページ
http://mabanua.com/
※本ページに掲載している情報は2019年12月18日時点のものであり、予告なく変更される場合があります
Edit by EATer / Photography by Kiyotaka Hatanaka(UM) / Design by BROWN:DESIGN
DJ Licaxxxさんがハイレゾで聴きたかった10曲(後編)
DJを主軸としながら、ラジオパーソナリティーやウェブメディアの編集長を務めるなど、さまざまな活動を続けるLicaxxx(リカックス)さんが、原点である電子音楽の進化を続ける楽しさを感じれる10曲を紹介します。アーティストのためのサウンドをその手に 『IER-M9』『IER-M7』
ミュージシャンが演奏時に装着したり、エンジニアがステージ音響を確認するために作られているインイヤーモニターヘッドホン。この秋、ソニーが新開発のステージモニター『IER-M9』『IER-M7』。そこに込めた設計者のこだわりを紹介します。開発者インタビュー アナログレコード特有の音響現象をデジタルで再現「バイナルプロセッサー」
「アナログレコードも音が良い」という声が、近年、古くからのオーディオファンだけでなく、デジタル世代の若いファンからも聞かれるようになってきました。そんな中、2018年秋からソニー製品に搭載されはじめたのが、アナログレコード再生時の、音楽をより好ましい音で聞かせる音響現象を科学的に再現した「バイナルプロセッサー」です。単なるノスタルジーではない、その真の高音質を、長らく“音”と向き合ってきた、ソニーのベテランエンジニアが語ります。開発者インタビュー さらにハイレゾに迫った「DSEE HX」が登場
楽曲データが本来持っている情報を予測・復元することで、CDや圧縮音源にハイレゾ品質の臨場感をもたらす「DSEE HX」。この技術が2018年秋、ディープ・ニューラル・ネットワークによって、さらなる進化を遂げました。その進化の詳細を、開発に関わったエンジニアたちが紹介します。