「この曲は、オケ自体はシンプルなのですが、じつはバックコーラスにかなり手が込んでいて。ファルセットのうっすらと伸びるコーラスが入っていたり、声楽が多重になるアレンジがすごい。ハイレゾでは、そうしたバックコーラスもしっかり聴こえて、それによって曲の印象が大きく変わってきます。Rhyeにも参加していたロビン・ハンニバルのバランス感覚が、僕は好きです。アメリカナイズされていなくて、ヨーロッパ的な洗練や、アシッドジャズに通じるニュアンスを感じる。ビートに対して、声楽やメロディのちょっとしたズレを残すところにも魅力を感じます。そうしたわずかな違いの中で、いかに個性を出していくかが、プロデューサーとしての大切な役目でもありますね」
「往年のソウルやR&Bの系譜ながら、リオン・ブリッジズの歌声はほどよく素朴で新鮮。ピッチをちょっと低くして歌ったり、ビブラートをあいまいにしてみたりと、人間味のようなものをコントロールするのもうまい。こうしたオーセンティックな音楽を追求する若いアーティストが登場してくるところが、アメリカの層の厚さですね。この曲については、贅沢に予算をかけた映画音楽のような音像にも驚きました。とくにストリングスの奥行きのある響きを、ハイレゾで確かめてほしいです。ストリングスに関しては、鳴っているすぐそばで録音すると、いい音に録れません。かなり広い空間で、反響も含めて、離れたところから録るのが基本。実際の録音環境まではわからないのですが、広々とした空気感が実現されていると思います」
「最近のヒップホップに多用されている、エレクトリックな機材だけでつくられたトラックは、どうしても同じように聴こえてしまって。やっぱり、サンプリングをベースにしていたり、なにかしら有機的な要素を取り入れたヒップホップのほうが、僕にはグッときますね。スクールボーイQやJ・コール、ケンドリック・ラマーなどは、そういうアプローチを続けている、メジャーでは数少ないアーティストだと思います。この曲にも、アナログレコードを再生したときのような、サーっていうノイズが入っていて、あえて汚しを入れた質感であることが、ハイレゾで聴くとよりわかりやすい。歌詞はたしかにハードコアですけれど、メロウなコードに移るところがあって、あぁ来た来た…と情感があふれてくる、にくい曲です」
「ミュージシャンを実際にスタジオに呼んで、演奏してもらった音源を使って、トラックをつくっていく。J・コールのそうしたメイキング映像を見たことがあって、シンパシーを感じました。ラッパーであるだけでなく、自分でトラックをつくることができ、プロデュースしていく才もある。彼のように、音楽づくりのさまざまなプロセスを自分でできる人が増えてくると、もっと面白くなるのかなと。今回選んだのは、とくに引っかかる一曲というか。音楽のつくり的に、発見がある。少ない音数で、ずっとループしているトラックに、リリックのリズムだけで抑揚がつけられています。ハイレゾで聴くと、その少ない一音一音の質感が、いっそう際立ちますね。パワフルではあるけれど過剰ではない、ギリギリのところで抑制された絶妙なミックスであることがわかります」
「カーリー・レイ・ジェプセンの曲は、ポップミュージックとして、すごくクオリティが高い。どの曲もキャッチーで、メロディメイカーとしてのセンスが並外れています。しかも、シカゴで開催されているピッチフォーク(・ミュージック・フェスティバル)に出演していたりと、音楽通の人たちにも受け入れられているところがあって。シンディ・ローパーの魅力にも通じるというか。曲にまるで嫌みがないところも、すごいと思います。この曲もとてもポップで、パンパンに音が詰め込まれていますが、再生されている器が大きく感じられると、やっぱり聴きやすい。それほどボリュームを上げなくても、聴きごたえがあります。声で遊んでいる感じ、はしゃいでいるような感じも、よく伝わってきました」
※音楽配信サイト「mora」で配信されている曲の中から選曲をしています
※「mora」でのハイレゾ商品の試聴再生はAAC-LC 320kbpsとなります。
試聴再生は実際のハイレゾ音質とは異なります
※ハイレゾで聴く場合は「mora」で購入する必要があります
※取材時にはハイレゾ対応のウォークマン「NW-ZX507」、イヤホン「IER-M7」で試聴しました
mabanua(マバヌア) プロデューサー、ドラマー、シンガーなどとして、多岐にわたって音楽活動を続ける。ドラムのほかにも、さまざまな楽器を演奏するマルチプレーヤーである。これまでに、Chara、ライムスター、米津玄師、向井太一をはじめ、数多くのミュージシャンとコラボレーション。トロ・イ・モワ、チェット・フェイカー、マッドリブ、サンダーキャットといった海外アーティストとも共演を果たした。プロデュースした楽曲は、CM、映画、ドラマ、アニメなどにも提供している。現在は、Shingo Suzuki、関口シンゴとともにバンド“Ovall”としても活動。加えて、ビートメイカー・Budamunkとのユニット“Green Butter”、タブラ奏者・U-zhaan とのプロジェクト“U-zhaan × mabanua”、ASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文による“Gotch Band”にも参加。ソロ作品としては、2018年に3rdアルバム『Blurred』をリリースした。Ovallの3rdアルバム『Ovall』が、2019年12月4日(水)にリリースされた。
mabanua オフィシャルホームページ
http://mabanua.com/
※本ページに掲載している情報は2020年1月15日時点のものであり、予告なく変更される場合があります
Edit by EATer / Photography by Kiyotaka Hatanaka(UM) / Design by BROWN:DESIGN
DJ Licaxxxさんがハイレゾで聴きたかった10曲(後編)
DJを主軸としながら、ラジオパーソナリティーやウェブメディアの編集長を務めるなど、さまざまな活動を続けるLicaxxx(リカックス)さんが、原点である電子音楽の進化を続ける楽しさを感じれる10曲を紹介します。アーティストのためのサウンドをその手に 『IER-M9』『IER-M7』
ミュージシャンが演奏時に装着したり、エンジニアがステージ音響を確認するために作られているインイヤーモニターヘッドホン。この秋、ソニーが新開発のステージモニター『IER-M9』『IER-M7』。そこに込めた設計者のこだわりを紹介します。開発者インタビュー アナログレコード特有の音響現象をデジタルで再現「バイナルプロセッサー」
「アナログレコードも音が良い」という声が、近年、古くからのオーディオファンだけでなく、デジタル世代の若いファンからも聞かれるようになってきました。そんな中、2018年秋からソニー製品に搭載されはじめたのが、アナログレコード再生時の、音楽をより好ましい音で聞かせる音響現象を科学的に再現した「バイナルプロセッサー」です。単なるノスタルジーではない、その真の高音質を、長らく“音”と向き合ってきた、ソニーのベテランエンジニアが語ります。開発者インタビュー さらにハイレゾに迫った「DSEE HX」が登場
楽曲データが本来持っている情報を予測・復元することで、CDや圧縮音源にハイレゾ品質の臨場感をもたらす「DSEE HX」。この技術が2018年秋、ディープ・ニューラル・ネットワークによって、さらなる進化を遂げました。その進化の詳細を、開発に関わったエンジニアたちが紹介します。