センシング技術で
冷却温度を自動調整
さらにスマートさを高めた
『REON POCKET 3』
※画像はイメージです。
地球温暖化など、否応なく変化していく地球環境に対して、ソニーとして何かソリューションを提案したいという想いから生まれた、ウェアラブルサーモデバイス「REON POCKET」。2019年夏にクラウドファンディングというかたちで第一歩を踏み出したこの製品が、この夏、いよいよ第3世代に。新モデル『REON POCKET 3』では心臓部のサーモエンジンの進化に加え、センシング技術を駆使した賢い温度制御によって、より個人に合わせた冷却の温度体験を提供できるようになりました。その進化について、初代モデルから製品開発を担ってきた2人のエンジニアが解説します。
伊藤(健):REON POCKETは、スマートフォンと連携して使用するウェアラブルサーモデバイスです。基本的な使い方としては専用ネックバンドや専用ウェアを使って首元に密着させ、その部分を直接冷たくしたり、温かくしたりすることで、暑さ、寒さに対策するというものになります。
伊藤(健):身に着けていることが見た目からほとんどわからないというのが最大のメリットです。REON POCKETはクラウドファンディングに出させていただいた時から、ソニーならではの小型化・薄型化技術を駆使して、スーツ姿のビジネスパーソンが装着していても違和感のないスタイリングを追求し、特にこだわってきました。実際、現在のユーザーの多くが都市部で働くビジネスパーソンで、通勤のお供に使っていただけているようです。
さらに今回お話させていただく最新モデル『REON POCKET 3』では、より高度なセンシング技術を組み込むことで、環境温度やユーザーの行動に合わせた適切な冷却を自動的に提供する機能を実現しました。これもほかにない、オリジナリティのある先進的な取り組みではないかと考えています。
伊藤(健):『REON POCKET 3』は、これまでのREON POCKETと見た目は一緒ですが、ハードウェアの面でも、ソフトウェアの面でも飛躍的に進化しています。まず、ハードウェアのお話をしますと、本機の心臓部であり、冷却と加温を担うサーモエンジンを、これまでのモデルで得た知見を踏まえて作り替えました。
サーモエンジンには小型冷蔵庫などにも使われているペルチェ素子と呼ばれる、電流を流すと片側が冷え、反対側が温まる性質を備えた半導体を使っています。その際、どうしても抵抗による無駄な発熱がおきてしまうのですが、新しいサーモエンジンでは、素子の抵抗率を大幅に下げることで、発熱を最大約40%カットすることができました。これによって、前モデル『REON POCKET 2』では約1時間だった「COOLレベル4」時の駆動時間を約2時間にまで延ばすことができました。
※1 従来モデルRNP-2とCOOLレベル4時の駆動時間を比較した場合。
※2 従来モデルRNP-2と最大冷却レベルの吸熱性能(動作開始60分の平均吸熱量)を比較した場合。使用状況、環境により変動します。
伊藤(健):さらに、発熱を抑えられるようになったことでこれまで以上にパワーをかけて冷やすことも可能になりました。市販のモバイルバッテリーと接続することで、従来比最大約1.5倍の強力な冷却能力を発揮する「COOLレベル4+」をご利用いただけます。お客さまの中には、より強力な冷却レベルをお求めの方もいらっしゃいましたので、そのニーズに応えたものになります。
伊藤(健):はい。こうしたデバイスの熱設計では、発熱を下げることに加え、どう効率良く放熱していくのかも重要です。REON POCKETの放熱部には櫛歯状の放熱フィンが仕込まれており、ペルチェ素子から受け取った熱を冷却ファンで外部に放出しています。『REON POCKET 3』では内部の構造を工夫して、外観を変えることなく放熱フィンの高さを約20%増やすことに成功。冷却能力を高めました。
伊藤(健):いえ、その心配はありません。サーモエンジンの効率が高まり、発熱自体が減っているため、「COOLレベル4+」時の発熱量は、『REON POCKET 2』の「COOLレベル4」と同程度にまで抑えられているんです。ですので逆に「COOLレベル4」で使う分には、これまでよりも排熱を抑えられ、より快適にお使いいただけます。
伊藤(健):ただ、その開発はやっぱり大変で……。実はペルチェ素子は使いこなすのがとても難しいデバイスで、そのパフォーマンスを引き出すのにはかなりの試行錯誤が求められました。
伊藤(陽):『REON POCKET2』同等の冷却能力を維持しつつ発熱は同等以下に抑えるため、どのようにペルチェ素子にパワーをかけていくのが効率的なのか、冷却ファンをどのように駆動させるかの組み合わせも考えつつ、最も効率的でバランスの取れた設定を見つけだすのが大変でした。さらにREON POCKETのような熱を扱うデバイスは検証環境を揃えるのがとても難しく、その点にも苦しめられましたね。
伊藤(健):サーモエンジンの設計は私が行ったのですが、当初は思ったような成果がでず「こんなパフォーマンスじゃないはずだ!」って、何度もやり直しを指示し、苦労をかけました(苦笑)。
伊藤(陽):自動車のエンジンなどと同様、ペルチェ素子にも最も効率よくパフォーマンスを引き出せるスイートスポットがあります。当初は従来のサーモエンジンでの経験から強いパワーをかけながらそれを探っていたのですが、新しいサーモエンジンはパワーを抑えた方が良い性能がでるとわかったんです。それに気がついたことで一気に、バッテリー駆動時間2倍などの見通しが立っていきました。
あともう1つ、大きな変更点として冷却ファンの制御を大きく変えています。これまでの製品は内部の発熱量に合わせて数段階にしかファンの速度をコントロールしていなかったのですが、『REON POCKET 3』ではほぼシームレスに風量を変えるように進化させています。これによって必要以上にファンが回らなくなり、バッテリー駆動時間の延長と、耳障りなファンノイズの低減に成功しています。
伊藤(健):その上で、今回はバッテリーの急速充電にも対応。約1時間の充電で90%まで充電できるようになったので、外回りから帰ってきて、また出かけるまでの少しの間でバッテリー残量を充分なレベルまで回復させられます。
伊藤(陽):REON POCKETが3代目を迎えるにあたって、REON POCKETを今後どうしていきたいのかということをプロジェクト内で時間をかけて議論しました。その中で、キーワードの1つになったのが「センシング」です。これまでのREON POCKETはスマートフォンと連動するというところが先進的だったのですが、実際に自分たちでも使い続け、お客さまの声なども分析していった結果、我々が目指すべき体験は、装着したら自動的に動き始め、温度もおまかせで最適に調整してくれるものなのではないかという結論に達し、それを『REON POCKET 3』の新しい商品コンセプトにしています。
伊藤(陽):実はそうなんです。それで今回、内蔵されたセンサーから得た情報を利用して冷却温度を自動調整する「SMART COOL MODE」と、脱着状態に合わせて動作を開始/停止する「AUTO START/STOP」機能を新開発しました。
伊藤(陽):「SMART COOL MODE」は『REON POCKET 3』がユーザーの行動や環境に合わせた適切な温度設定を自動的に行ってくれるというものです。初代『REON POCKET』発売以降、私たちのもとに集まったフィードバックを分析していった結果、多くの人が快適と感じる温度帯にはそこまで大きな違いがないということがわかってきました。具体的には26〜27℃くらいですね。そこで「SMART COOL MODE」ではこの温度帯をキープすることを最初の目標にしました。
伊藤(陽):実際にその状態でいろいろな人に使ってもらったところ、とても評判が良かったのですが、気温が高い時にはふだんよりも強めに冷やして欲しいとか、動いたあとは暑さを感じやすくなるので熱が引くまでの少しの間冷却を強めて欲しいといった声があり、環境温度や行動をセンシングして動作モードを調整するようアップデートしています。
4つの温度センサーと、加速度センサー
伊藤(陽):2基から4基に増やした温度センサーのほか、加速度センサーも利用して検知しています。
伊藤(陽):これまでの2基の温度センサーはペルチェ素子の表面温度とその背面の冷却時に熱くなる部分の温度を取得していました。これに対し、追加した温度センサーは服の中の温度を計測していて、それによってユーザーが暑いところにいるのか、涼しいところにいるのかを検知できるようにしています。
この際、服の中からでも環境温度を推定できるよう、いろいろなケースで温度の上がり方を計測・分析し、それを元に細かく補正をかけるソフトウェアを開発することで精度を高めています。
伊藤(陽):内蔵された加速度センサーと温度センサーから得た情報を元に、『REON POCKET 3』を首元に装着すると自動的に動作がスタートし、首元から外してデスクに置くと動作がストップするというシンプルな機能なのですが、やはりこれを精度高く実現するのに苦労しました。もちろん、内蔵するセンサーを増やしてあげれば、簡単に精度を高めることができるのですが、そうすると本体が大きくなり、消費電力も製造コストも増えてしまいます。今あるセンサーだけでどのように着脱状態を識別するのかが工夫のしどころでした。そこで、こちらも温度センサー同様、さまざまな利用シーンでデータを取得し、ソフトウェアの処理で精度を高めるようにしています。
伊藤(健):今回、『REON POCKET 3』では、これまでREON POCKETを使ってくださっていた都市部のビジネスパーソンの満足度を高めるという部分にフォーカスしています。実は都市部って、場所による温度差がものすごく大きいんですよ。室内や電車の中はエアコンがしっかり効いているのに、外に出るとビルの放射熱でものすごく暑かったり……。
伊藤(健):『REON POCKET 3』では「SMART COOL MODE」と「AUTO START/STOP」機能でこの問題に対処しました。実際、私も今、通勤時に『REON POCKET 3』を使っているのですが、朝、家を出る前に装着すると、それだけで自動的に動作がスタートし、歩いている時の身体の火照りに合わせて徐々に強くなり、しばらく歩いて止まった時にさらに強めるといった感じに冷却を自動でコントロールしてくれます。会社に着いた後も、まだ身体が火照っている間は強めに冷やしてくれるので、ドッと汗をかくということもありません。これによって、初代モデルの開発当初から提供したかった“体験”がワンランク上がったのではないかと考えています。
「SMART COOL」停止時のアプリ画面
「SMART COOL」稼働時のアプリ画面
伊藤(健):ネックバンドは我々の想像していた以上に支持をいただき、本当に多くの方に使っていただけています。ただ、初代『専用ネックバンド RNPB-N1(以下、初代ネックバンド)』はシンプルな構造である反面、人それぞれ異なる体格の全てには対応しきれていないところがありました。そこで新しい『ネックバンド 2』では、構造を見直し、アーム部分を閉じたり開いたり、傾けたり、360度自由に動かせるようにしています。
伊藤(健):内部に形状を記憶できる合金製の細い棒を組み込むことで、自由に角度を変えられ、かつ、状態をしっかり維持できるようにしています。
自由に角度を変え、
状態を維持できるネックバンド
伊藤(健):『初代ネックバンド』はTシャツのような襟のないカジュアルシャツを着る方の利用を想定していたのですが、蓋を開けてみると、インナーの上に襟付きシャツを着ている方の利用が圧倒的に多いことがわかりました。ただ、そのスタイルですとインナーがREON POCKETの吸気口に張り付くかたちで塞いでしまい、排気も襟で邪魔されてしまうんですね。
そこで『ネックバンド 2』では、ケース上部を少し高くすることで、空気の流れをしっかり確保できるようにしています。また、襟の高いビジネスシャツを着ている人でもお使いいただけるよう、着脱可能なエアフローシートも同梱しました。シートは柔らかい素材を採用しているので、上を向くなどしても首筋に食い込むことがありません。
『ネックバンド2』の形状
伊藤(健):こうした工夫は『初代ネックバンド』をご購入いただいたお客さまからのフィードバックを元に実現しています。ですので、私としてはお客さまと一緒になって完成度を高めていったという気持ちです。
伊藤(健):昨年、『初代ネックバンド』を投入したことで、ほとんどの服に対応できるようになったと考えているのですが、唯一対応できずにいたのが、ワイシャツとネクタイの組み合わせです。ネクタイで首元を締められてしまうと排気の行き場がなく、REON POCKETがパフォーマンスを発揮しにくくなる問題がありました。
そこで『専用ビジネスシャツ』では、本体を収納するポケットに加え、外側に吸排気口を設け、ネクタイをした状態でもREON POCKETをお使いいただけるようにしています。
伊藤(健):ちなみに、この『専用ビジネスシャツ』を作るにあたっては、ソニーグループ内の金融系企業で働く社員からたくさんのアドバイスをいただきました。彼らはクールビズの中でも、きちんとネクタイをしたフォーマルな格好でいることが求められますので、かねてよりREON POCKETに注目してくれていたんですよね。また、それ以外にも過去モデルでは多くの企業と協力するかたちで実証実験を行っており、そこで得た知見も踏まえて、さまざまな工夫を行っています。
伊藤(健):まず、外回りの営業マンからの声で最も大きかったのが、バッテリーを丸一日持たせてほしいというもの。これを受けて『専用ビジネスシャツ』には、背面ポケットにREON POCKETを装着した状態で外付けのモバイルバッテリーを接続できるよう、ケーブルを目立たない位置から外に出し、そのままズボンのポケットに入れられるよう腰の辺りに穴を追加しています。
この際、シャツの内部でケーブルが体の動きを阻害しないよう、首元から腰までケーブルをきれいに這わせるためのゴムループを配置しています。
『専用ビジネスシャツ』を着用している様子
伊藤(健):また、インナーレスでも快適に着用していただけるよう、首筋周辺と脇から胸にかけて下地をメッシュとした二層構造とし、汗で生地が張り付いてしまうことを防いでいます。なお、メッシュ素材については部位ごとに最適な生地を厳選しており、首周りは通気性に優れたものを、胸回りは透けないようにきめの細かいものを採用しました。
伊藤(健):このあたりは製造をお願いしたパートナーさんのお力ですね。当初私が考えていたものよりも光沢感があり、手触りの良い生地を提案してくださいました。柔らかくも適度なハリ感があり、通気性にも優れているのでオールシーズンお使いいただけます。価格もがんばりましたので、ぜひお試しいただきたいです。
伊藤(健):まず、大きな展開として、今年、2022年4月に初の海外展開となる香港進出を果たしました。おかげさまで現地の皆さんの評価も高く、好調な滑り出しとなっています。当たり前の話、暑さ、寒さは日本だけの問題ではありませんから、今後もさまざまな国にREON POCKETを拡げていければな、と。
また、今回は冷却機能を中心としたお話をさせていただきましたが、我々はREON POCKETを、夏の暑い時期だけに使うようなアイテムにはしたくないと考えています。暑い時は涼しく、寒い時は暖かく、室内の冷暖房に頼ることなく、個々人がベストに感じる温度環境を実現していくというのがREON POCKETのミッションなのです。そうすることで、個人の快適さだけでなく、今、世界が直面しているエネルギー問題にも貢献できるのではないかと考えています。
伊藤(陽):前回、このFEATUREのインタビューをお受けした時に、多くのユーザーの方からご感想、ご要望をいただきたいというお話をさせていただきました。そして、実際、多くの方々からさまざまなフィードバックをいただき、それが『REON POCKET 3』に生かされています。文字通り集大成となる完成度の高い製品に仕上がったと思っていますので、ぜひ、通勤時の暑さ寒さに悩まされているビジネスパーソンの方を初め、多くの方々にお試しいただきたいですね。
伊藤(健):ここまでで『REON POCKET 3』のたくさんの進化についてお話しさせていただきましたが、我々はクラウドファンディングの時期からREON POCKETを支えてくださっているファンの皆さまのことも大切に考えており、初代モデルでも本体ソフトウェアをアップデート*することで、「AUTO START/STOP」など、いくつかの機能をお使いいただけるようにしています。新モデルが出たから旧モデルはそこでおしまいということはありません。今後も可能な限り快適に使い続けられるようにしていきますので、末永くご愛顧いただければと思います。その上で、新製品が気に入っていただけたようであれば、ぜひ『REON POCKET 3』をお買い求めください。よろしくお願いいたします。
*本体ソフトウェアは、最新アプリと接続することで自動的にアップデートされます。