映画などの音を立体的に響かせるDolby Atmos®(ドルビーアトモス)などの優れた音響技術で多くのAVファンから支持を集めるドルビーラボラトリーズが開発し、今や多くの映画作品で採用されている映像技術「Dolby Vision®(ドルビービジョン)」。ソニーのテレビ、ブラビアは早い時期からこの技術を積極的に搭載し、映画館の映像美をテレビでもそのまま楽しめるようにしてきました。ここでは、そんなブラビアのDolby Vision体験がどれほどのレベルに達しているのかを、Sony's Spider-Man Universe最新作『モービウス』の映像美をもとに、ドルビーラボラトリーズでDolby Vision認証を担当している高橋氏に語っていただきます。
ドルビージャパン株式会社
シニアスタッフフィールドアプリケーションエンジニア
高橋 氏
― まずは「Dolby Vision」がどんな技術なのかを教えてください。
高橋:Dolby VisionはHDR(High Dynamic Range)と呼ばれる映像の輝度表現を拡張する技術(規格)のひとつで、従来の映像(Standard Dynamic Range)と比べて、40倍以上明るい色と、10分の1以下の暗い色を表示できるようにするものです。これによって今まで見たことがないような鮮やかな色彩を表現できるようになりました。Dolby Visionは元々はシアター向けの技術で、Dolby Cinema™(ドルビーシネマ) という映画館で名前をお聞きになったことがあるという人も多いのではないでしょうか。現在、Dolby Visionはテレビにも普及が進んでおり、ブラビアのようにDolby Visionに対応する製品が多数販売されています。
― Dolby Visionによって映像体験はどのように変わるのでしょうか?
高橋:映像のリアリティが、誰が見てもはっきりわかるほどに変わります。Dolby Visionではより明るい映像、より暗い映像が表現できるようになるだけでなく、その中間の色もより細かく描写できるようになるのですが、それによって映像が、実際に目で見た印象に近い、高いリアリティを持って感じられるようになるのです。
たとえば、これまで10本の色鉛筆でむりやり全ての色を表現していたとするのならば、Dolby Visionでは、数百本、数千本の色鉛筆で微妙な色の違いなどをきちんと描き分けられるようになったというとわかりやすいかもしれません。一見すると同じ赤に見える色でも明るい赤から暗い赤、少し青っぽい赤など、微妙な違いがあり、Dolby Visionではそうした違いを正確に表現することが可能になります。そんな違い、自分にはわからないよと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、人間の目は肌のちょっとした色味の違いなどにものすごく敏感なので、実際に見比べていただければ、どなたでもその違いを実感していただけると思いますよ。
― そこまで変わってくると、映像作りそのものが変わってきそうですね
高橋:そうなんです。現場のクリエイターの皆さんからも、Dolby Visionの登場によって、これまで表現できなかったような映像を作れるようになったとご好評をいただいています。たとえば、ものすごく強い逆光のシーンでこちらを向いて人が立っているようなシーンがあったとします。これまでそうした明暗差の極端なシーンでは背景が真っ白に飛んでしまうか、人の顔が真っ黒に潰れてしまっていたのですが、Dolby Visionならば逆光のまばゆさはそのままに背景も人の顔もきちんと描写することができるようになります。
― ちなみに、HDR技術(規格)にはほかにもさまざまなものがありますが、その中でDolby Visionにはどういったアドバンテージがあるのでしょうか?
高橋:私たちドルビーラボラトリーズは、映像コンテンツ制作の現場から、コンテンツの配信サービス、テレビ・映画館での再生までの全工程にDolby Visionの技術を提供しています。たとえば、カラーグレーディングと呼ばれる映像の色を調整する工程で使われるツールにDolby Visionの技術を組み込んでもらうことで、画作りのパラメーターが映像データに組み込まれるようにしました。Dolby Vision対応テレビでの再生時には設定したパラメーターが適切に機能し、どのメーカーのどの製品であっても、コンテンツ制作者の意図する映像を等しく表示できるように機種ごとの製品認証も行っています。この一連のエコシステムを構築できていることがDolby Visionの最も大きな特長のひとつだと考えています。
― 先ほどの色鉛筆の例で言うと、映像をよりリアルに再現するにあたって、どのように色鉛筆を使いわけるかを、制作から再生までの全工程できちんと共有できるようにしているということですね。コンテンツ制作者の意図をそのまま視聴者に届けるという考え方は、ソニーも大切にしているところです。
ところで先ほど、Dolby Visionはシアター向けの技術だとおっしゃっていましたが、そうするとやはり対応するコンテンツも映画だけということになるのでしょうか?
高橋:いいえ、Dolby Visionはコンテンツの種類を問いません。映画やドラマのみならず、音楽やスポーツ番組、そしてゲームなどまで幅広く対応し、映像の魅力を引き出すことが可能です。
― 映画だけではないのですね。個人的にはスポーツ番組にDolby Visionが使われているということに驚かされました。スポーツでもDolby Visionの映像美が役立つということなのですか?
高橋:日本ではまだこれからなのですが、海外ではスポーツ番組にDolby Visionを使うという事例が増えているんですよ。Dolby Visionを導入することで、たとえばゴルフ番組では暗い木陰でのアプローチから太陽光が照り返すグリーン上までを一切情報を損なうことなく表現できるようになります。これまではボールが暗いところを飛び出した瞬間に一瞬映像が見えにくくなってしまっていたのですが、Dolby Visionを使えばそういったことはおきません。
― そんな映画だけではない、今後の普及も楽しみなDolby Visionを家庭で楽しむためには何が必要なのかを教えてください。
高橋:Dolby Visionに対応したテレビのほか、Dolby Visionで制作されたコンテンツとプレイヤーが必要です。プレイヤーというのは、UltraHDブルーレイプレイヤーや、動画配信サービスのセットトップボックスなどですね。
― 後者はブラビアのようなAndroid TVの場合、アプリで代用できますね。ちなみに今現在、Dolby Visionで作られているコンテンツはどれくらいあるのですか?
高橋:ご家庭のテレビで楽しめるコンテンツで言いますと、映画が1500本以上、テレビドラマのエピソードは6000本以上になっています。また、音楽ライブ映像なども、動画配信サービスを中心にたくさんのコンテンツがDolby Visionに対応しています。もちろん、今後、さらにコンテンツ数が増加していく見込みです。Dolby Visionでの映像配信を行う動画配信サービスも、Netflix、Apple TV+、Amazon Primeビデオ、U-NEXT、Disney+などどんどん増え続けています。
― 今回、そうしたたくさんのDolby Vision対応コンテンツ群の中から、映画『モービウス』を、Dolby Vision対応の最新ブラビアでご覧になっていただきました。その感想を聞かせていただく前に『モービウス』が映像としてどういった特性を備えているのかを教えていただけますか?
高橋: 『モービウス』は、マーベルのヒーロー映画としては珍しい、ダークな雰囲気を持つキャラクターが主人公の映画です。一概に、ヒーローともヴィランとも言い切れない、多面的で深みのあるマイケル・モービウスのキャラクターがストーリーに深みを与えています。そうした雰囲気を引き立てるよう、全体として暗い映像が多く、暗部表現を得意とするDolby Visionの効果を多くのシーンで実感できるコンテンツと言えるでしょう。色使いも独特で、テレビの表現力が試される作品でもあります。
アメリカ | 2022年 | アクション・SF
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ストーリー
天才医師マイケル・モービウスは幼い頃から血液の難病を患っていた。同じ病に苦しみ、兄弟のように育った親友マイロのためにも治療法を見つけ出そうと、コウモリの血清を投与するという危険な方法を試すことに―。彼の身体は驚くべき変化を遂げ、超人的な筋力、スピード、飛行力に加え、周囲の状況を感知するレーダー能力まで手にするが、その代償として得たのが抑えきれない“血への渇望”だった。人工血液を飲みながら、<人間>としての意識を保とうとするマイケルの前に、生きるために血清を投与してほしいと懇願するマイロが現れる。
スタッフ
監督 :ダニエル・エスピノーサ
脚本 :マット・サザマ
脚本 :バーク・シャープレス
キャスト
マイケル・モービウス :ジャレッド・レト(中村 悠一)
マイロ :マット・スミス(杉田 智和)
マルティーヌ :アドリア・アルホナ(小林 ゆう)
ニコラス :ジャレッド・ハリス(佐々木 勝彦)
ロドリゲス :アル・マドリガル(牛山 茂)
ストラウド :タイリース・ギブソン(楠 大典)
エイドリアン・トゥームス :マイケル・キートン(大川 透)
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― まずは、4K有機ELを搭載した最新ブラビア『XRJ-65A95K』で『モービウス』をご覧になった感想を聞かせていただけますか?
高橋:薄暗いシーンの多い『モービウス』の映像は、それを表示するテレビの側に暗部の表現力が備わっていないと暗いところがほとんど見えず、何が映っているのかがわかりにくくなってしまいます。その点、『XRJ-65A95K』は暗い部分もしっかりと階調豊かに描き出してくれるので、映像の隅々まで楽しむことができました。
― 高橋さんはお仕事がら『XRJ-65A95K』以外にもたくさんの有機ELテレビを試聴されていると思うのですが、これまでの有機ELテレビと比べて本製品の画質をどのように感じられましたか?
高橋:まず、これまでの有機ELテレビと比べて最高輝度が高い、つまり明るく感じました。これによって明るい色がより鮮やかに描き出されており、全体のコントラスト感を大きく高めています。
― 『モービウス』で言うと、具体的にはどのあたりでその効果を感じることができましたか?
高橋:冒頭でお話しした逆光の表現については、物語の中盤、主人公・マイケルとマルティーヌがカフェで会話するシーンがとてもわかりやすいと思います。このシーンでは薄暗いカフェの中で、マルティーヌの顔の半分が外光で照らし出されているのですが、その明暗のコントラストがとてもよく表現されているんです。光の反射を強く感じさせながら、影になっている顔の表情もしっかり確認できるのは有機ELならではのメリットと言えるのではないでしょうか。このシーンをコントラストの低いテレビで見ると微細な目の表情などが潰れてしまって、マルティーヌの抱えている不安感が伝わりにくくなってしまいます。その点『XRJ-65A95K』では店の雰囲気も彼女の表情もどちらもきちんと描写してくれていますね。
このほか、夜の海に浮かぶ船のシーンなどでもこうした明暗描写の巧みさを感じることができました。このシーンでは真っ暗な波間に月明かりが細かく反射してキラキラと輝いているのですが、こうした映像は自発光の有機ELの本領が発揮されるところ。光が当たっていない部分は暗いまま、反射の部分だけを美しく輝かせてくれます。この辺りはぜひ実機でご確認いただきたいですね。
― 発色の良さについて感じられるシーンについても教えていただけますか?
高橋:発色の良さについては、カフェのシーンの直前、マルティーヌがある人物から追い立てられながら街の売店を通過するシーンで感じることができます。売店にはアメリカらしい、原色や蛍光色を多用した色とりどりのパッケージの商品が並べられているんですが、そのシーンのケバケバしさを『XRJ-65A95K』が実に良く描写しているんです。特にビビッドな赤の表現がものすごく印象的で、それによってシーンの異質さ、緊張感が上手に表現されています。
― 作品全体では色調が抑え気味なだけに、より強く印象に残りますね。
高橋:QD-OLEDを搭載した『XRJ-65A95K』では有機ELの赤の波長がより長く、波形が急峻になっており、それによって全ての色の純度が高まっているのですが、それがとても強く感じられます。
それに加えて、繊細な色味も上手に表現できるようになったのも『XRJ-65A95K』の良いところ。個人的に印象に残っているのは、序盤のマイケルと親友のマイロが公園で話し込むシーンです。『XRJ-65A95K』の正確な色彩表現力によって、土気色になったマイロの顔色がとても弱々しく、死の淵にいる恐怖をものすごく感じてしまいました。背後の芝生が生き生きとした明るいグリーンで描かれていることも、マイロの顔色の悪さを強調しています。
― 先ほどお話ししていた、人間の目が肌の血色の違いに敏感だという話、こういうシーンを見ると本当によくわかりますね。
高橋:あと、有機ELらしさが最も強く感じられるシーンとしておすすめなのが、夜の病院のシーンです。真っ暗な中、電灯の付いた部分だけがぼうっと浮かび上がる映像が印象的なのですが、『XRJ-65A95K』ではその暗い部分が完全な黒になっており、ものすごく恐怖感を煽ってくれます。暗い部屋で観ると、映像との境界線がなくなって、まるで自分がその空間にいるかのような気分になってしまうほどです。
― 時折、映像が完全に漆黒の暗闇になってしまうのも怖いですよね。これはぜひ、読者の皆さんにも体験してほしい映像です。そのほか、『XRJ-65A95K』の画質面で気付かれたことはありますか?
高橋:一般的な有機ELテレビと比べて視野角が広いですよね。実は液晶テレビほどではないにせよ、有機ELテレビにも視野角の問題があり、斜め方向からテレビを見ると正面で見るのとはわずかに色味が違ってしまう現象がありました。しかし、『XRJ-65A95K』は全くと言っていいほど視野角による画質変化がありません。家族みんなで映画を観るときや、テレビの近くに座ってじっくり映像を楽しむ時でも視野角による画質の変化がないのはうれしいですね。
― 今回、ソニーの最新ブラビアをお試しいただきましたが、ソニーのテレビについて、高橋さんはどのような印象をお持ちになられていますか?
高橋:ブラビアが初めてDolby Visionに対応したのは約4年ほど前で、実はその時からずっと私が映像の評価を担当しています。今回の製品に限らずいつも感心するのが、多くのソニーの製品がDolby Visionの認証に必要な画質のテストをスムーズにパスするレベルまで画質を仕上げていること。自社のことながら我々が求めるDolby Visionの画質基準は非常に高いので、ソニーのエンジニアの皆さんはさすがと思います。しかも年々画質が良くなっていて、我々が基準として使っている、何百万円もするようなプロフェッショナル向けのリファレンスモニターにどんどん近づいていっているんです。
― 有機ELを搭載した最新ブラビア『XRJ-65A95K』は、どういった人におすすめでしょうか?
高橋:『モービウス』の映像を観ていただければ一目瞭然なのですが、有機ELテレビは黒の表現力が本当に優れています。ですので、映画など暗い映像の多いコンテンツをたくさん観るという人には有機ELを搭載した『XRJ-65A95K』がおすすめです。ぜひ、お部屋を暗くして、映画の映像に没入してください。
Dolby、ドルビー、Dolby Atmos、Dolby Cinema、Dolby Vision、およびダブルD記号は、アメリカ合衆国と/またはその他の国におけるドルビーラボラトリーズの商標または登録商標です。