ホームシアターシステム編
今や、多くの映画館でプレミアムな立体音響体験を味わわせてくれる代表的な技術として認知されるようになった「Dolby Atmos®(ドルビーアトモス)」。ソニーは、その没入感あふれる立体的なサウンド体験を家庭でも手軽に楽しみたいという声を受け、BRAVIA XRやサウンドバーなど多くの機器でDolby Atmos対応を進めています。ここではそんなソニーのDolby Atmos対応製品がどれほど忠実に映画館のシネマ体験を再現できているのかを、Dolby Atmosを生み出したドルビーラボラトリーズの担当者に試してもらいました(全3回)。
第2回目はテレビのサウンドを強化する最新サウンドバー『HT-A7000』と、ホームシアターシステム『HT-A9』でのDolby Atmos体験について。テレビ単体との体験の違いを聞いていきます。
※Dolby、ドルビー、Dolby Atmos、およびダブルD記号は、
アメリカ合衆国と/またはその他の国におけるドルビーラボラトリーズの商標または登録商標です。
ドルビージャパン株式会社
フィールドアプリケーションエンジニア
黒岩 氏
2012年ドルビージャパン株式会社に入社。
以降、放送関連製品担当として、各日本メーカーがテレビ製品等に
ドルビーの音響技術を実装するための技術サポート業務に従事。
「Dolby Atmos」はドルビーラボラトリーズが開発した立体音響技術。「オブジェクトオーディオ」という技術を駆使することで、たくさんの音に囲まれているような、包み込まれるような音場を実現します。かつてはその再生には高価で複雑なシステムが必要でしたが、昨今ではテレビ内蔵スピーカーだけでの再現なども可能に。さらにサウンドバーやホームシアターシステムと組み合わせることで「Dolby Atmos」の立体音響技術を余すことなく体験できます。
7.1.2chフラッグシップサウンドバー。大画面テレビを意識したワイドなボディに合計11基のスピーカーを搭載しました。ソニー独自のバーチャルサラウンド技術「S-Force PROフロントサラウンド」や「Vertical Surround Engine」などを駆使し、単体でのDolby Atmos対応を実現しています。
対応ブラビア*をセンタースピーカーとして駆動させることで、サウンドの定位感が増し、より臨場感のある、迫力満点の音響体験を味わえるようになります。
* アコースティックセンターシンク対応ブラビア:S-センタースピーカー入力端子搭載モデル(A90J、A80J、X95Jシリーズ)
音を天井に反射させて上からの音を再現する「イネーブルドスピーカー」と、側面に反射させる「ビームトゥイーター」によって、より広がり感のある音場を再現できます。
低音を拡張できるサブウーファー2種類と、後方からの音をリアルに響かせるリアスピーカーをオプションとして用意。好みに合わせて追加できます。ワイヤレスなので接続も手間いらずです。
黒岩:イネーブルドスピーカーが縦方向の、ビームトゥイーターが横方向の音の広がりを強化してくれており、テレビ単体で聞いた時と比べて、さらに包み込まれるような感覚を味わえるようになっています。ソニーのサウンドバーもこれまで多くの製品をテストしてきましたが、『HT-A7000』はデュアルサブウーファーを内蔵したことが大きいですね。単体で聴いても充分な低音を感じられます。
黒岩:映画で言うと、あらゆる方向からかすかな環境音がなっているような包まれ感のあるシーン、派手なサウンドエフェクトを立体的に鳴らしている作品で違いを感じられるのではないでしょうか。より体験が、ぶ厚く感じられるはずです。
黒岩:やはり実際にその場所にスピーカーがあるというのは大きなアドバンテージです。リアスピーカーをアドオンしたことで、さらに包まれ感がはっきりと強くなることを感じました。これによって、サウンドへの満足度が大きく高まるのは間違いありません。サブウーファーについても同様です。先ほどもお話したよう、内蔵のものでも充分な迫力を感じるのですが、より強い低音がほしいという人には良い選択肢だと思います。
黒岩:『HT-A7000』にはセンタースピーカーが内蔵されていますが、サウンドバーはテレビ画面の下側に置かれているので、どうしても音の中心が下がってしまいます。「アコースティックセンターシンク」を使うことで、音がちゃんと適正位置まで上がって体験の質が向上します。こちらも本当に素晴らしい技術だと思います。
この際、よく聴くと「アコースティックセンターシンク」利用時にも『HT-A7000』の内蔵センタースピーカーは鳴っているんですよね。しかもブラビアから鳴る音と合わせて最適なサウンドになるよう出音を変えているんです。これに気がついた時は、ものすごいこだわりだと感心しました。
ウーファー、トゥイーター、イネーブルドスピーカーを内蔵した3WAY構成のワイヤレススピーカー4基とセンターユニットの組み合わせで本格的な立体音響環境をリアルに再現。部屋の形状やスピーカーの配置に合わせてサウンドを最適化してくれるので置き場所も問いません。
4体のリアルスピーカーから音の波面を合成し、最大12個のファントムスピーカーを生成。リビングが音で満たされるような360立体音響を家族みんなで楽しめる広いエリアで再現、体験できます。
対応ブラビア*をセンタースピーカーとして駆動させることで、サウンドの定位感が増し、より臨場感のある、迫力満点の音響体験を味わえるようになります。
* アコースティックセンターシンク対応ブラビア:S-センタースピーカー入力端子搭載モデル(A90J、A80J、X95Jシリーズ)
低音をより強化できるサブウーファーを追加可能。好みに合わせて2種のサイズから選べます。どちらもワイヤレス接続に対応するため、面倒な配線の手間なく追加できます。
黒岩:『HT-A9』は、対応AVレシーバーに7.1.4chのスピーカーを繋げて実際に天井方向からも音が鳴るようにした本格的なDolby Atmos環境とほとんど遜色のない体験ができる製品だと感じました。上方向からのサウンドを天井にスピーカーを付けられない環境で再現する技術として、音を天井で反射させる「イネーブルドスピーカー」という仕組みがあります。『HT-A9』はこれをフロントだけでなくリアのスピーカーにも組み込こんでいて、縦方向の音の広がりを後方でも表現できるようにしています。それがDolby Atmosの再現に対してものすごく効いているんですね。
黒岩:上方向からの音を表現するためのスピーカーがない、あるいは前方2基だけという場合、上の空間に定位している音を再現するためには、バーチャライザーという技術を使って疑似的に表現しなければなりませんでした。その点、『HT-A9』ではリアにもイネーブルドスピーカーが配置されていますから、上方向に定位する音が正しく、後ろの方にもしっかりと定位されるようになります。
黒岩:そうですね。でも、そこまで派手ではない、うっそうと茂った森の中など、音で空気感を再現するようなシーンでも大きな効果を感じられますよ。
あと、Dolby Atmosの立体的なサウンドを適切に楽しめるエリア、スイートスポットがとても広いことも『HT-A9』のメリットと言えるでしょう。2〜4人くらいがばらけて座っても、問題なくそのサウンドを楽しめます。
黒岩:はい。そして、この製品で一番お伝えしておきたいのが、「アコースティックセンターシンク」との相性の良さ。センタースピーカーを持たない『HT-A9』の代わりに、ブラビアがセンタースピーカーの役割を果たしてくれるようになり、人の声など、センターの再現力がものすごく改善されるんです。この組み合わせはとても良いですね。
黒岩:これは個人的な印象なのですが、ソニーの製品はテレビに限らず、ホームシアター製品やそれ以外のあらゆる製品で音作りに統一感があると感じています。どの製品を取ってもソニーらしい、素直でワイドレンジな音が楽しめるんですよね。ハイエンドな製品からローエンドな製品まで、もちろん違いはあるのですが、方向性がきちんとしたポリシーのようなものがあるので、聞き比べた時に違和感がありません。以前からずっと感じていたことではあるのですが、今回、こういう機会を設けていただいて改めて強く感じました。そして、その上でやっぱり細部へのこだわりがすばらしいですね。
黒岩:先ほど試した「アコースティックセンターシンク」で、ブラビアのスピーカーに合わせて内蔵のセンタースピーカーの音質を細かくチューニングするところなどはその典型ですよね。安直にセンタースピーカー部分だけテレビのスピーカーに切り換えます、というふうになっていないのはすごいと思います。そのほか、最初にお話しした(第1回参照)、「アコースティック サーフェス オーディオプラス」のアクチュエーター位置を中央より少し上に上げるといったこだわりもその一例ですね。そこまでやるんだという驚きがあります。