沖本 「実は「MDR-DS3000」を発売した頃から、音楽だけではなく映画の音質にも注目しなければいけないと思い始めたんです。そもそも音楽と映画の音作りは違っていて、音楽なら音楽、映画なら映画に合わせたマッチングというのが必要なのではないか。そしてそれはゲームにも言えることで、音楽、映画、ゲームとそれぞれのソースに合わせた再生系を持たせようということになったんです」
角田 「またPLAYSTATION(R)3が発売される少し前から、PlayStation(R)2用のソフトで、サラウンド対応のゲームが登場しはじめ、ユーザーの方たちの中には、サラウンドヘッドホンでゲームをプレイされる方が、徐々に増えてきているというのが分かったんです。それにあわせてサラウンド市場も盛り上がってきていると感じています。やはりゲームも音楽や映画などと同じように、いい音、サラウンドで楽しみたいと思う方が多いのではないかと」
栗栖 「ゲームは音楽や映画と違い、長時間、しかも大きな音で聞くことが多い。そう考えると我々としては、ゲームモードとして明確な方向性や音場を追求したほうがいいんじゃないかということになりました。ちょうど沖本のグループが、前々からソニー・コンピュータエンタテインメント(以下:SCE)と関係があり、それならばと「MDR-DS7000」のお話をさせていただいたんです」
山口 「お話をいただいたときは、本当に嬉しかったですね。ゲームの音を作る側からすると、これまでのヘッドホンはどこか作られた音。良い意味でも悪い意味でも、何かしらのエフェクターなり、演出が入っている。マルチチャンネルヘッドホンでも、音との間に1枚カーテンがあるような感じがしていたんです。ゲームというのはプレイヤーが能動的にコンテンツに接するという点が非常に重要で、サウンドデザインをする上でもプレイヤー自身がゲームの世界に入っているという演出を積極的に行います。思わず後ろを振り向かせるような演出を入れることもある。ですから、そのとき音がどこに定位しているのか、はっきり聞き取りやすいのが重要なんです」
角田 「そういったゲームならではの演出や音の定位など、今回一緒にお仕事をさせていただいてとても勉強になりました。実際には山口さんが中心となり、SCEに所属するサウンドデザイナーの方たちなど、約20人以上の方にご協力していただいたんですが、皆さんお忙しい中、時間を割いていただいて本当に感謝しています」
山口 「今回はサウンドデザイナーのほかに、サウンドプログラマーにも参加してもらっています。その方がデザインを担当した本人よりも客観的に聞けますし、普段、非常にシビアなゲームサウンドエンジンの発音検証をしていますから、耳は確かですしね。ただ実はみんなもっともっとあれこれ言いたかったんだと思います(笑)。サウンドデザイナーは、自分の演出を音に込めるわけですが、実際にゲームをプレイするときの環境はユーザーによってまったく違います。制作側はそれを考慮して音を作るわけですが、『このゲームの音はヘッドホンにあっていない』などの声を聞くと、すごく落ち込むんですよ。もちろん力量が足りない部分もあるかもしれませんが……。また、ヘッドホンによっても音の聞こえ方が違いますからね。実際にお話をいただいたときは、“ヘッドホンを自分たちでチューンできるぞ!” “こんないい話はない、ぜひやらせてほしい”とふたつ返事でした(笑)」