クラブのフロアにいるかのように、グルーヴのある重低音を楽しめるヘッドホンとして人気が高いEXTRA BASSシリーズのヘッドホン。MDR-XB950BTはEXTRA BASSサウンドをワイヤレスで楽しめることで評判のBluetoothヘッドホンだが、周囲の騒音を気にせずにいい音を楽しめるノイズキャンセリング機能も搭載した待望のニューモデルMDR-XB950N1が登場した。その進化のポイントを、開発者に伺った。
――まず最初に、EXTRA BASSシリーズのコンセプトを教えて下さい。
井出 EXTRA BASSシリーズは、MDR-XB700などを初代として2008年に始まった、重低音を楽しめるヘッドホンです。ソニーではヘッドホンを音場シミュレータとして位置付けており、例えばモニターシリーズは演奏者の立場に近く、MDR-Z1Rのようなリスニング重視のヘッドホンはコンサートホールのS席で聴いているかのような音場を想定しています。
ただし近年は、EDMなどを含めたクラブミュージックのような低域の情報量が非常に多い音楽がトレンドのひとつとなっています。開発側としては、従来のヘッドホンでそのまま聴いて楽しめるのか、という疑問がありました。そこで、クラブならではの音場をヘッドホンで再現できないだろうかと考え、EXTRA BASSシリーズの開発がスタートしました。モデルにより、また時代に合わせてサウンドは変えてきましたが、クラブの現場を体感できるような音を目指しています。
――新モデル、MDR-XB950N1の特長は?
井出 MDR-XB950BT(以下XB950BT)というBluetooth対応ヘッドホンが、ワイヤレスで重低音を楽しめる前モデルです。新モデルのMDR-XB950N1(以下XB950N1)は、ワイヤレスであることと、サウンドの基本的な方向性はXB950BTを受け継ぎつつ、周囲の騒音を気にせず音楽に没頭できるノイズキャンセリング機能と、スマホアプリで好みに合わせて音場や低域を調整できるのが大きな特長です。
――ワイヤレスとノイズキャンセリングの組み合わせは望む声が多かった?
井出 Bluetoothモデルにノイズキャンセリング機能を載せてほしい、という声は近年増え続けています。XB950BTの時点でBluetooth対応はしていますので、新モデルにはぜひともノイズキャンセリング機能を載せたいとは考えていました。ソニーのヘッドホンとしてBluetooth&ノイズキャンセリングの組み合わせを実現したヘッドホンはこれまでにいくつかありますが、EXTRA BASSシリーズとしては今回のXB950N1が初のヘッドホンとなります。
――迫力の重低音を実現するためのポイントは?
井出 ドライバーユニットの設計や、ヘッドホンの構造など、ポイントはいくつかあります。EXTRA BASSシリーズ独自のエレクトロ・ベース・ブースターもそのひとつです。
――エレクトロ・ベース・ブースターとは、どのような機能ですか?
井出 エレクトロ・ベース・ブースターは、ヘッドホンに内蔵されたアンプにより特定の低域をブーストすることで、一般的なヘッドホンでは体験できないようなグルーヴ感ある重低音を生み出す機能です。EXTRA BASSシリーズはクラブの音場を再現するというコンセプトですが、この機能をオンにすることでまさしくクラブのフロアに立っているかのようなサウンドを楽しむことができます。エレクトロ・ベース・ブースター自体はXB950BTにも搭載されていましたが、単純にオン・オフしかできませんでした。XB950N1ではオン・オフに加えて、アプリを使うことでブースト量をプラス/マイナス10段階で調節し、好みに合わせたサウンドが楽しめます。さらに、クリアベースを搭載し、試聴を繰り返しながらブーストする帯域を最適化しているので、コンセプトはそのままに、より進化したと考えてください。迫力はありながらも歪みが少なくクリアな低音が楽しめますよ。
――他に音響上の工夫があれば教えて下さい。
井出 このヘッドホンではEXTRA BASSシリーズ特有の音響的設計があり、ベースブースターといいます。ドライバーユニットの背面側に音響管を設け、そこで通気をコントロールすることで振動板の動作そのものをコントロールし、低域の過渡特性を向上させ低域のリズムを正確に再現します。さらにイヤーパッドが耳を覆う部分の気密性を上げ、ドライバーユニットの振動板が生み出す音が鼓膜へそのままダイレクトに伝わることで、音を身体(からだ)で受け止めるようなクラブのようなサウンドが体験できます。
――ドライバーユニットはどういうものでしょうか?
井出 EXTRA BASSシリーズには、専用に開発した口径40mmのドライバーユニットを搭載しています。十分な低域が出せるドライバーで、低音再生に特化した形状の振動板をソニーで独自に開発したものです。空気を大きく動かす低域再生のためには、振動板を柔らかくすることがポイントで、加えて中高域もきちんと出せるように振動板を設計する必要があります。磁力が強く、駆動力が高いネオジウムマグネットを採用していることも重要ですが、振動板の形状が肝ですね。
――EXTRA BASSシリーズとして「クラブの音」が重要なコンセプトとなっていることが伝わってきますが、そもそもクラブの音場とはどういうものでしょうか?
井出 わたしは趣味でDJをしているので、クラブに行く機会も多いのですが、残響音が少ないために部屋の広さをあまり感じない、という特徴がありますね。そのせいなのか、低域だけに限らず、中広域の音も直接身体(からだ)へ飛び込んでくるような感じがポイントだと捉えています。いままでの自分の経験と、現場の音を思い出しながら、低域を十分に出しつつ、高域の楽器やボーカルを邪魔しないような特性を意識して作っています。
――ノイズキャンセリング機能について教えて下さい
井出 ヘッドホン本体に搭載されたマイクで集音した騒音をデジタル化し、騒音を打ち消すために逆位相の音を作り出しています。ソニーではデジタル信号処理でのノイズキャンセリングのために、超低遅延の専用のDSPを開発・搭載しています。そのため、高精度な逆位相の音を作り出すことができ、高い効果を得ることができます。
またXB950N1のノイズキャンセリングは、周囲の騒音状況に合わせて3種類のモードが自動的に選択されるフルオートAIノイズキャンセリングとなっています。環境に合わせて切り替わるため、常に最適の効果を受けつつ音楽が楽しめるようになっています。
――スマートフォンのアプリ対応は今回初の機能でしょうか?
井出 ソニーとしては、アプリでヘッドホンの機能をコントロールできるヘッドホンはこのXB950N1が初めてとなります。そもそもEXTRA BASSシリーズが想定しているユーザー層は、10〜20代と若く、音楽が好きな人を中心としています。こういった人は、音楽を聴くスタイルが従来のCD中心だけでなく、ライブやフェス、クラブに行くといった、リアルの場で楽しむサウンドが人気となっているんですね。アプリを使うことで、ライブ会場にいるような音を体験することも可能となっています。
――アプリでできることについて、詳しく教えて下さい。
井出 XB950N1は「Sony | Headphones Connect」というスマートフォンアプリに対応しています。このアプリでは、エレクトロ・ベース・ブースターの重低音をプラス/マイナスで10段階の調節が可能です。また音場をコントロールするVPTの切り替えもアプリ上で行い、アリーナ/コンサートホール/アウトドアステージ/クラブの4種類が選べ、もちろんオフにもできます。ノイズキャンセリングのオン・オフもアプリからできますよ。
XB950N1の特長として、こういった機能はすべてアプリ(スマホ)側ではなく、ヘッドホン側に処理機能を搭載しています。そのためBluetoothを通じて再生できるすべてのソースに対して、VPT(Virtualphones Technology)によるサラウンドや、エレクトロ・ベース・ブースターによる重低音効果を楽しめます。わかりやすくいうと、スマホ本体に転送した音楽ファイルだけにかぎらず、音楽配信や放送など、サービスやコンテンツを問わずこの効果を加えられるんです。
またBluetoothヘッドホンですので、つなぐ対象はもちろんスマートフォンやポータブルプレイヤーだけに限りません。パソコンとつないでパソコン内の音楽ソースを聴き、アプリで音質を調整するといったことも可能です。
付属のヘッドホンケーブルを使えば、有線接続することもできます。XB950BTでは有線接続時はエレクトロ・ベース・ブースター機能が使えなかったのですが、XB950N1では有線接続時もノイズキャンセリングやエレクトロ・ベース・ブースターの機能が使えるので、ここも進化した点と言えるでしょう。
――デザイン面の特長を教えて下さい。
勝又 デザインとしても重低音を表現するために、遠くから目にしてもひと目でEXTRA BASSシリーズとわかるような、円筒状のシリンダーのブロックに見えるようなコンセプトをXB950BTから受け継いでいます。そのためにはハウジング部分をなるべく小さくしたいのですが、ヘッドホンとしては耳に当たる面積は必要です。そのためには厚みが欲しく、イヤーパッドを直線的なデザインとしました。重低音を求めるEXTRA BASSシリーズの機能と造形テーマがマッチしたものに仕上がったと思います。
――950N1では定番的なブラックに加え、新色のグリーンが登場しました。このセレクトはなぜでしょうか?
勝又 先にも話がありましたが、EXTRA BASSシリーズのユーザー層である重低音サウンドを好む人たちは、音楽の楽しみ方がライブやフェス、EDMなどに広がっているという背景があります。フェスの会場では、アウトドア趣味に通じるアースカラーの傾向が目立ちます。また若者のファッションとしても、アウトドアカルチャーを取り入れた緑系統が定番となりつつあるので、新色としてグリーンを選びました。
前モデルのXB950BTとはハウジング正面部分の仕上げを変えてあり、XB950N1ではザラザラのシボ仕上げとしています。これは他のEXTRA BASSシリーズにも通じるものなのですが、ザラザラな表面に塗装することで、シボの凸凹にメタリック粒子が入り込んで光が反射し、艶を押さえたマット感と、バリューを感じられる金属感を両立しています。マットかつ金属感がある仕上げ方にずっと悩まされていたのですが、自分が求めていた色を作るため、塗装メーカーにも協力してもらいました。非常にこだわったポイントです。単体で見た時よりも、実際に装着するとさらにいい感じだと思います。
――以前のXB950BTではアクセントとして赤色が入っていましたが、XB950N1では単色なんですね。
勝又 シリンダーの塊に見せるというコンセプトからすると、加飾はなるべく省き、全体をワンカラーでまとめたいと考えました。そのためにXB950N1では表面はもちろん、普段は見えない裏側もすべて塗装して仕上げています。
他には細かいことですが、XB950BTでは目立たないとはいえ表面に幾つかのネジが露出していましたが、XB950N1では見えないように隠してあります。これはわたしがこだわったポイントなので、どこに隠れているか探してみてください(笑)。
さらにXB950N1ではハウジング部が回転するスイーベル機構に加え、折り畳み機構も加わりました。持ち運びもしやすいモデルとなったはずです。
――では最後に、ユーザーへひとことメッセージをお願いします。
井出 時代に合わせ、音楽のリスニングスタイルが幅広くなっていますが、その楽しさを更に広げられるヘッドホンができました。ずっと好評をいただいていたEXTRA BASSシリーズのサウンドを、さまざまな方法で、より多くの方に楽しんでいただけるヘッドホンです。
勝又 細部までワンカラーでまとめることにこだわり、納得の行くヘッドホンができあがりました。新色のグリーンも深みのあるいい色に仕上がっているので、ぜひとも店頭でお手に取り、細かいところまで見ていただければ嬉しいです。