対談 貫井勇志 X “α900”開発者
写真が撮りたい!そう感じさせるファインダー
今回、スイスの山岳撮影で初めて“α900”を使いました。最初の驚きはファインダーを覗いた時でした。それにしても“α900”のファインダーは素晴らしいですね。覗いた瞬間に息が止まってしまいます。どうやってこんなファインダーを実現されたのですか?他と何が違うのでしょうか。大変な改革を施されたとか?
ファインダーの内部には、目新しいデバイスはあまり使用していません。画質の扱いと相通じますが、何が一番重要かを決定し、上げなければならない特性項目を厳選し、目標レベルを適切に設定するなど、性能バランスの取り方がうまくいったからだと思います。
遠くにある街の詳細から木々の様子まで、ファインダーを覗きながらはっきりと見えます。
私は以前からファインダーを担当しており、世に送り出した製品の市場での評価・ご指摘に常に耳を傾けてきました。そして、ユーザの皆様からもたらされた数々の声により、私が考える「ファインダー性能のあるべき姿」や「開発の方向性」が間違っていなかったと感じていました。しかし過去には志は高かったにもかかわらず、技術が未熟なため手が付けられなかった部分も多々ありました。それらのやり残したことを全て払拭し、採用したかった技術を余すこと無く投入し、今回結果として評価の高いファインダーに仕上げられたと思います。
ガラスペンタプリズム
35mmフルサイズの大きな撮像面を生かすために、ファインダー視野率約100%を達成するとともに、倍率約0.74倍を実現。その高品位なファインダーは、撮る者の感性を刺激し、撮影意欲をさらに高めてくれる。
(1)ガラスペンタプリズム
(2)接眼光学系
(3)ハイパワーコンデンサーレンズ
友人の中には、自分の目で見るより“α900”のファインダーを通した方が、明るくて綺麗だと言う人までいます。普段は携帯電話のカメラで写真撮影を済ましているような方々でも、一目瞭然で違いがわかるようです。それでも、新技術を開発したのではなく、蓄積された技術のバランス良い使用でこのファインダーを実現されたと言われるのでしょうか。
内部構成に関してはそうです。バランスを間違えると後からその負担が他の部位に出てしまいますが、既存機種での技術の積み上げにより、それぞれの部位の余裕量や厳しさを把握出来ていたため、実現出来たファインダーだと考えています。“α900”は開発当初から、光学ファインダーとしての集大成を創ろうという思いで開発を進めました。発売後多くの人から、「ファインダーの向こうの世界との一体感を感じる」とのコメントを頂戴できたのは、制約を守りつつ妥協を排除できた結果だと思います。また、目新しいデバイスを使用していないと言いましたが、これを製品として製造するための設備や調整プロセスに関しては、かなり新しい「やり方」を構築しました。
“α900”を手に取りファインダーを覗いた瞬間、私は何よりも真っ先に「あ!写真撮りたいなぁ」と強く思いました。“α900”は極端に言うと、人の映像言語や絵作りの方向性を左右するカメラだと思います。
今回、このファインダーの大きさやセンサーの巨大化は軽量・小型化に影響はなかったのですか?
“α700”より大きなペンタプリズムを装備した“α900”は、より大きく明るく見やすいファインダーを実現したと宣伝の中でアピールしていますが、実はペンタプリズムを大きくすると、光学特性のバランスを高く保つために様々な課題が出てくるのです。しかし“α900”には、撮る人がファインダーを覗いた時に「良い!」と感じて頂ける、数字では計れない感覚や満足感が何よりも大切だと思い、大きく明るく、極限まで画質の良いファインダーを実現することを目指しました。そのために妥協を許さず設計・製造プロセスの検討を行いました。
覗いた時に「撮りたい!」という気持ちをトーンダウンさせるようなファインダーは絶対に作りたくなかったのです。
“α900”は、オーソドックスで飽きのこない商品による本質的な質の高さで勝負したかったのです。目新しい機能を詰め込むよりも、写真を撮る道具として、画質やファインダーなどカメラの本質を良くして、価値の創造につなげたいと考えたのです。一眼レフ事業としては日が浅いソニーですが、しっかりと使う人の立場になって本当によいものを提供したいと言う気持ちは負けません。
使ってみた立場で言いますと、もちろんコストなどの制約はあるでしょうが、今後開発される全ての“α”シリーズにも“α900”と同じようなファインダーが組み込まれる事を願っています。
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