対談 貫井勇志 X “α900”開発者
高解像感とバランスされたフィルムライクな高画質
(左)35mmフルサイズCMOSセンサー
(右)APS-C サイズCMOSセンサー
フルサイズ・高画素数に加えて、その絵作りにも今までのデジタル一眼レフカメラとは違う印象を持ち、私は“α900”の絵作りの方向性が決められたプロセスについて、純粋に興味を持ちました。“α900”は、ファインダーを覗いても、撮って現像しPCの液晶モニタ上で見ても、昔のフィルムを扱っている時の感覚がよみがえり、ワクワクされられます。デジタルの片鱗もない20年以上前からカメラを職業としているので何事もフィルムを基本に考えるのですが、フィルムを感じられるからすごいのでしょうか。一体自分が感じた「すごい」「ワクワクする」事の正体は何なのでしょうか。
貫井先生は、過去のデジタル一眼レフの画に、何かが足りないと感じておられたのでしょうね。これまでも、綺麗ですっきりした画像は撮れていたのですが、じつは何かが不足していたのだと思います。欠けている要素が“α900”で充足されたことを感じられたと思います。
その正体のひとつは解像度だと思います。フルサイズで2460万画素の解像度により、さらに微細な部分が再現されます。いわゆる質感と呼ぶものには、このような微細な情報、専門的に言うと高い空間周波数の情報が効きます。質感描写が向上し、足りなかったものが充足されたのではないかと思います。実際、中判カメラに近い解像感があるとも評価いただいています。さらに、このような画質的な要因だけでなく、レンズの焦点距離や絞りが、フィルム時代と同じ感覚で撮れることや、自信を持って被写体と向かい合えるファインダーなど、全体としての感覚的な満足感が高いことも画質に大きく影響していると思います。“α900”に感じていただいた「すごい」という感覚は、すべての要素技術や部品の改良を積み重ねて実現できたのだと考えています。
私は何度も他社製のフルサイズ機で撮影したことがあるのですが、“α900”は絵の重さが違うのです。感覚的には他社製がイラストの感覚に近いのに対し“α900”は絵画に近い、しっかりした絵の深さを感じます。この様な絵作りには初めて遭遇したのですが、意識して作り込まれたものなのでしょうか。
“α”シリーズとして、“α900”で特別に色や階調など絵作りの方針を変えたということは、実はないのです。デジタルカメラは一見明るくてすっきりした絵作りが好まれることも多いのですが、しっかり色が出る銀塩のような、同時に自然な絵作りの路線を我々は貫いてきたのです。先ほど述べた解像感もそうですが、画質に何か足りない要素があると、そこに意識が集中してしまい、全体の印象が低下してしまうことがあります。一方、全てが高いレベルにバランスされていると、特徴も実感できますし、画質全体のレベルが大きく変わったと感じることもあるのです。たとえば、同じ銘柄のフィルムを使っても、35mmで撮るのと中判で撮るのでは印象が変わりますよね。“α900”では、高い解像感と、我々が貫いてきた絵作りの他の部分とのバランスが最適なものになり、結果、貫井先生が感じられた良い意味でのフィルムらしさに貢献出来たのでは、と思いました。
アーチと黄色い列車
スイスでは風景と鉄道が被写体の中心でしたが、ファインダーを通して山の裾野の小さな村のディテールが浮かび上がり、そこを通る鉄道の車窓には、人の顔がはっきり見えて驚きました。“α900”の2460万画素の解像度を実感した瞬間です。
余談ですが、画質や解像度が上がった事により、制作者側も撮影時の注意するポイントを増やさなければならなくなったと思います。何気なく撮影した写真の中に、著作権や肖像権に触れる物が写り込んでしまう可能性が増えましたから、高解像度であることを常に意識する必要があります。
最初に2460万画素とお聞きした時には、高画素をむりやり詰め込んだと感じさせるような絵作りだったらイヤだなと思いました。しかし前述のように、結果は高い解像力を持ちながらリバーサルフィルムで絵画を写すような絵作りで大変気に入りました。
繰り返しになりますが、絵作りの方向性は、前述のとおり過去の機種から一貫しています。2460万画素だからと言って、フィルムライクな絵作りは変えていません。その絵作りが良いと信じて開発を続けていますが、もちろんDレンジオプティマイザーやホワイトバランスのアルゴリズムにも改良を加えていますので、画質は地道に進化しています。よって我々の信念を突き詰めた結果が“α900”の絵作りと言いたいですね。
ノイズは良い感じで出ていれば、私はそれもまた味と考えるタイプなのですが、中にはノイズをひどく気にする方もあると思います。ノイズに関してはどのようなお考えですか。
もちろんノイズはない方がいいですね。しかし、もっと重要なことは「自然さ」です。ノイズを消してデジタル的な不自然さが目立つより、あえてノイズを残し自然さを優先させています。また拡大しても自然に見えるように注意しています。今回、我々は2460万画素に相応しい解像感を訴求しました。“α”には高性能なレンズ群があり、これらを最大限に活かせるボディを提供したいと思いました。この高解像度と自然さを追求した画づくりは、あらゆる場面で威力を発揮すると思います。
私自身はその考え方に全く同感です。映画の世界でもこのように自然ですばらしい画質のカメラが出てきて欲しいものです。実現すれば、いきなり超ハイクオリティーのデジタルシネマのゲートが開くことになります。
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