秋のイベントのひとつである「月見」。今年の十五夜(=中秋の名月)は10月4日ということで、豊穣の象徴だとも言われている、丸くて大きい月が見られる季節です。月の光は太陽の光とは違った、神秘的で幻想的な魅力があります。そんな月光に魅せられ、写真史が始まって以来150年間「月光のみで写真を写すことはできない」といわれていた常識を覆し、34年間「月光写真」を撮り続けているフォトグラファー、石川賢治氏。
「α7R II」と「SEL1635Z」を使って撮り下ろした作品とともに、月の光のみで映し出された美しい月光写真の魅力に迫ります。
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月光写真家 石川賢治
1945年 福岡生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、ライトパブリシティ写真部入社。その後、フリーランスフォトグラファーとして、CF及びスチールを数多く手掛ける。1984年秋より1985年4月まで、月光写真の色と露出テストを行い、1985年サイパンで本格的に月光写真の撮影を開始。以後、奥多摩、伊豆、八ヶ岳、富士山、バリ、ハワイ島、ネパール・パラオ等で月光を撮り続け、1990年「月光浴」を発表。以後、月光写真家として世界各地を巡って作品を撮り続け、写真集や個展での発表を中心に活動を続けている。公式サイトはこちら
月光写真とは
石川氏いわく、月光写真は、街頭など人工の光がない、自然の中に身ひとつで入っていって撮影するもの。人工の光が入ってしまうと綺麗に撮影できなくなってしまうため、月明かりのみで、フラッシュを使用せず撮影します。大自然の中、月の光だけに照らされた世界をダイナミックに捉える石川氏の作品は、私たちを魅了してやみません。
ではさっそく、撮り下ろした作品とともに、月光写真の魅力をご紹介します。
海の中からあらわれる砂丘 ※
沖縄県竹富島で撮影された作品。普段は大海原のところが、引き潮になって砂の丘が出てきたところを捉えたもの。満月の時は、月の引力により、潮の満ち引きが最も大きくなります。やわらかい月の光に照らされ、引き潮になって海の中に現れた幻想的な砂の丘と、空をただよう雲。そして、地平線から空と海にかけて絶妙に広がる青のグラデーション。満月のタイミングで様々なコンディションが揃ったところを捉えた、奇跡的な1枚です。そのコントラストはまさに、太陽光では成しえない月光のなせる業。この美しい風景を捉えるために、引き潮とはいえ海岸から海の中を300mも歩き、さらに水に浸かりながらベストなタイミングを狙い続けるという過酷な環境下で撮影しているそうで、通常であれば20〜30kgにも及ぶカメラ一式を運ぶのは本当に大変なもの。ですが、「α7R II」は驚くほど軽くコンパクト、そして使い勝手も良いので、自然の中に入っていく時に負担を少なくでき、月光写真との相性も良いそうです。
※写真は砂浜を写したものですが、作品名として砂丘と表現をしております。
ハマユウと星
沖縄県竹富島で撮影されたもの。昼間、足場の確認をしていた際、ひとつだけつぼみの状態のハマユウの花を見つけたことで撮影が実現した、満月のタイミングに偶然が重なった瞬間を捉えた1枚。ハマユウの花はすぐに萎れてしまうので、ひとつだけつぼみの状態のものを見つけられたことも、夜のタイミングで美しく咲いたことも、そして満月で風がない状態というのもまた、珍しいシチュエーション。ちなみに、こちらのハマユウの花は、大自然を感じさせるダイナミックな構図でとっても大きく見えますが、実は70〜80cmほどの小さいもの。低い位置から、星空まで捉える時、「α7R II」のチルト可動式モニターが大活躍したそうです。
月夜の草原
海外のサバンナで撮影されたようにも見えますが、福岡県の糸島半島で撮影されたもの。小高い丘にある草原の中に立って撮られたものなので、美しいシルエットと、力強く月光が照らし出した、この大地の広大さが際立ちます。
月光写真は非常に天候にも左右されるもので、月に雲がかかっていると光量が足りず、撮影できなくなってしまいます。実は、撮影時は台風明けだったのですが、この時はそれが良い意味で影響し、雨上がりの空に輝く星がとても美しく捉えられています。
月光写真を撮影するコツ
大自然の中にひとりで出向き、その瞬間に出会う奇跡を捉える月光写真。
「失敗することを恐れず、自然の中に飛び込んでいく。」という気概が大切だという石川氏。今回は特別に、月光写真を撮影するために必要なものを教えていただきました。
- ・カメラとレンズ
- ・ヘッドライト(両手をあけるため)
- ・ビニールシート(機材を置いたり、休憩するため)
- ・三脚
- ・リモートコマンダー
- ・歩き易い靴、草むらなど場所によっては長靴(蛇や虫対策として)
- ・蚊取り線香(夏)
- ・ホッカイロ、防寒具(冬)
- ・軽食、飲み物
心身ともに万全な状態で、できるだけ身軽にしていくのが良いとのこと。最も大切なのは「シンプルな気持ちで自然の中に入っていくこと」。月の光だけを頼りに闇の中に一人で入っていくようなものなので、水の音や鳥のさえずりなど、自然の音がよりクリアに聞こえ、撮影しながら癒されるということも、月光写真の楽しみになるそうですよ。また、月の光は驚くほど明るく、本が読めたり、色を識別することができたりするほどなんだそう。
ちなみに、石川氏が月光写真を撮影するきっかけはハワイ4島を訪れた時とのこと。
「砂浜を散歩していると、ちょうど満月の頃で、月光に照らされた砂浜が輝いていました。月光って、こんなに明るいのか……と感動していた時に、突然一羽の鳥が横切った様子がくっきりと見えて、月の光だけで写真が撮れるかもしれない、と。」(石川氏)
月の光だけに照らされた、神秘的な自然を捉える月光写真。
月の綺麗な季節、いつもと違う幻想的な月光世界を残してみてはいかがでしょうか?
ちなみに今回「Antenna」でも、今回紹介した作品を公開中。また、「TOKYO DAY OUT」のコラボ企画では、この季節にピッタリの月見スポットをご紹介。コンパクトデジタルスチルカメラ「DSC-RX100M5」を使って、月見スポットから見える月を撮影しています。是非ご覧ください。
石川賢治氏 写真集紹介
石川賢治 新作写真集 月光写真集『月光浴 青い星』
30年間の石川賢治の満月の旅、ベストショット約90カットを一冊にまとめた、青い星 地球の記録。
小学館 定価 本体3000円+税
企画協力
※TOKYO DAY OUTは2018年7月に終了したwebマガジンです。
特別号:本質を捉える、モノクロ写真2017
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