数多くのCM制作を手掛けるデジタルエッグ様から、すべての編集室で採用されているソニー製業務用モニターに対し、モニターキャリブレーションサービスを実施いただきました。キャリブレーションを行うに至った経緯や、マスターモニター・業務用モニターの役割、キャリブレーションの有用性についてお話を伺いました。
デジタルエッグ
グレーディングG カラリスト
大田 徹也 様
デジタルエッグで永年コンポジターとして活動、2011年カラリストに転向しCMやMV、映画などを手掛ける。
弊社では、各編集室のモニターはソニー製で統一しているのですが、前回のキャリブレーションから数年経過しており、リファレンスモニターの品質維持を考えて実施しました。社内統一の品質保持も必須と考えて、今回は保有する有機ELモニターBVM/PVM19台すべてに対して行いました。
カラリストやエディターは、自社だけでなく他社のスタジオに行くこともあります。各ポストプロダクションにはBVM-X300がほぼ入っているのですが、どこのスタジオに行っても、監督・カメラマンと一つの基準を持って作業を行っているので、マスターモニターと謳われている以上は再現性・表現性に狂いがあってはいけません。それでもマスターモニターはあまり心配ないのですが、一緒に確認している民生機(民生用テレビ)は採用されているモデルがバラバラで、メーカーによっても再現性が異なってくるので、民生基準では判断できなかったりします。その点、マスターモニターは絶対値として評価できます。ポストプロダクションが使用している民生機のメーカーはさまざまですが、マスターモニターの多くはBVM-X300、最近だとBVM-HX310が入ってますね。
ポストプロダクション業務において、リファレンスモニターは、仕上がりの重要な判断基準となっています。リファレンスモニター、いわゆるマスターモニターには正確性が求められ、適正であることが大前提で仕事が成り立っているため、品質保持の観点からもキャリブレーションは必須です。
人の目は、良くも悪くもあいまいです。環境によっても印象が変わってきますし、その日の体調や気分によっても見え方が異なってきます。カラーグレーディングの最中に、ちょっと休憩を挟んだりすると、なかなか決まらなかったものも改めて見るとOKが出たりします。絶対音感のようなものはなくて、人の目では測定器のような精度で測ることは難しいんですよね。だからこそ、モニターは測定器として、常に正しい表示をしなくてはならない。モニターの色がズレているというのは、時間を測るための時計の針が狂っていたり、距離を測るためのメジャーの目盛りが合っていないことと同じなんです。
以前、ある監督さんから「カラーグレーディングのモニターと編集室のモニターと色が違う」と指摘があり、実際にモニターを移動して、並べたことがありました。同じ部屋で比較してみると、結果的には同じ色に再現されていて事なきを得ましたが、本来はそういった手間をかけることなく進めたいですよね。視聴環境によって同じ色を見ても感じ方が違うことがありますが、モニターがキャリブレーションで管理されていると、監督やクライアントへ自信をもって「モニターの色は合っている」と言い切れます。
ソニーのキャリブレーションサービスは、製造元の技術者に調整してもらえることも大きな魅力です。キャリブレーションが頻繁に必要だとそれだけズレるということなので困ってしまうのですが、ソニーのモニターキャリブレーションはそれほど頻繁に行う必要はないので、必要なタイミングになったら都度サービスとして提供してもらえることは良いですね。測定機器を買ったとしてもノウハウを構築するのも大変ですし、機器を維持することも必要になってしまう。そういった点でもノウハウを持った製造元の技術者に調整していただける信頼や安心感が大きな魅力となっています。
弊社のグレーディング環境は、グレーの壁にニュートラルなライトを用い、外光の影響を受けない形にしています。ソニーのマスターモニターを中心に、その横にソニーの民生機BRAVIAを用意しています。作業時はライトを落として暗い環境で使用し、最後にライトを付けて明るい状態で確認します。一方でクライアントが入る編集室は、家庭のリビングをイメージして、白い壁とタングステンライトで明るい環境を用意しています。グレーディングの部屋と同じくソニーのマスターモニターと、ソニーの民生機で見ながら進めます。ここでもマスターモニターが基準にはなりますが、やはりクライアントのCMは、家庭のテレビでの視聴が前提になるので、視聴者と同じ環境下での確認も必要になります。民生機はメーカーによっても色が全然違うので、その基準としてマスターモニターの必然性を感じています。そのような民生機の中でも、ソニーのBRAVIAはソフトウェアを使って調整できるのでいいですよね。今後は社内だけでなくクライアントの民生機の色合わせもやっていきたいと考えています。
取材にご協力いただいたデジタルエッグの皆さま