九段スタジオDCP制作室に30型4K有機ELマスターモニターBVM-X300、アフレココントロールルームを中心に業務用有機ELモニターPVM-A250/A170を26式新たに導入し、本格運用を開始
グロービジョン株式会社様は、2015年6月に九段スタジオを新たにオープンし、4Kをはじめとした最新の映像・音響制作を行い、幅広いお客様に提供しています。新設のDCP(デジタルシネマパッケージ)制作室には、30型4K有機ELマスターモニターBVM-X300を、アフレココントロールルームのモニターなどに業務用有機ELモニターPVM-A250/A170を多数導入されました。
同社 技術・管理本部 映像技術部 部長 兼 技術管理部 部長 佐藤孝之様、映像技術部 二課 久保耕吾様に、導入の経緯と決め手、運用状況や成果、今後の本格運用への期待などを伺いました。
なお、記事は2015年8月下旬に取材した内容を、弊社にてまとめたものです。
佐藤孝之様
久保耕吾様
当社は、東京・千代田区にグロービジョン九段スタジオを新設し、2015年6月から本格稼働を開始しました。背景には設備の老朽化もありますが、これまで本社の映像スタジオと別館の音響スタジオと分離しており、ネットワークを含めて連携が取りにくい状況があったことも大きな要因となっています。字幕制作設備など一部は本社に残していますが、今回の九段スタジオの完成で、映像スタジオと音響スタジオが一体化し、映像と音響の連携した作業が可能となりました。お客様のご要望により的確に対応できる制作設備を構築することで、効率的でより魅力的なコンテンツ制作が可能になりました。
今回、PVM-A250/A170を多数導入し、アフレコ用のコントロールルームを中心に配備したのもそうした目的の一環です。当社では、すでに本社の映像スタジオで有機ELマスターモニターBVM-E250A/F250Aを運用しており、その優れた色と画像の再現性、黒の階調表現、優れた動画応答性から放送業務用モニターのデファクトスタンダードとして評価しています。また、制作する場所が変わっても映像が同じクオリティーで見えるように、当社内設備のモニターの色管理を行っています。映像スタジオでも音響スタジオでも同じ画質で確認・管理、オペレーションすることが可能になりました。
九段スタジオの設備設計でもう一つ重視したのが、4Kをはじめとした次世代映像制作への対応でした。当社では数年前からこのテーマに取り組んでいますが、2014年の4K試験放送、実用放送に向けたロードマップ、あるいは4K VOD配信サービス、映画の4K制作などが進んでおり、より具体的な対応が求められています。そこで、九段スタジオにも本格的なDCP制作室を設けました。SDから4K 60pまで対応するDIワークステーションCLIPSTERを導入し、パッケージングを行っています。そしてマスターモニターにはBVM-X300を採用しました。4K(4096×2160)有機ELパネルとカラーマネジメントシステムによる高精細・高解像度の4K映像を再現できるマスターモニターはBVM-X300だけだと評価、判断できたことが決め手となりました。
アフレココントロールルームに配備されたPVM-A250/A170。正確な色と画像でコントロール、管理できる点だけでなく、動画応答性の良さがもたらす画と音のズレがない点がスタッフに好評です。
BVM-X300を導入したDCP制作室では、9月1日にスカパー!4Kでオンエアされた「フィール・ザ・ネイチャー オーロラ」の制作を行いました。アラスカで捉えた美しく神秘的なオーロラ映像とクラシックの名曲を組み合わせたドキュメンタリーで、企画から仕上げまでを当社で行っています。オーロラの撮影では、デジタル一眼カメラを使ってタイムラプス方式で撮り、長時間の事象の変化を短時間で表現しています。XAVC 4Kフォーマットでの完パケにはAdobe Premiere PROを使用していますが、仕上げの確認やシーン追加などをDCP制作室で行いました。
マスターモニターにBVM-X300を使用することで、高品質で魅力的なドキュメンタリーに仕上げることができたと思っています。特にオーロラのような自然現象の魅力を見る人に正確に伝えるためには、高度な画質管理や表現が必要となりますのでマスターモニターの存在は重要です。BVM-X300で表現された映像美をそのまま家庭の液晶テレビで再現することは難しいですが、作品としてのクオリティーが高くないとコンテンツの魅力は伝わりません。また、30型というサイズやシンプルで直感的な操作が可能なメニュー階層、ファンクションボタンやマニュアル調整ボタンなどを装備したコントローラーも使いやすく、便利だと実感しています。
一方、アフレココントロールルームに配備したPVM-Aシリーズもスタッフ、出演者に大変好評です。高画質で見やすいこと、複数で見ても視野角による色の変化などがまったく気にならないこともそうですが、一番は有機ELパネルならではの特長の一つである優れた動画応答性です。吹き替え作業では、画と音にズレが生じると作業が難しくなり、スタッフのストレスが増すことになります。液晶パネルはデバイスの特性上「ミリ秒」単位の表示遅延が発生しますが、有機ELパネルは「マイクロ秒」単位の遅延のため、まったく支障になりません。アフレコ作業、コントロールがスムーズに行え、効率的なワークフローに大きく貢献しています。
九段スタジオに新設されたDCP制作室のマスターモニターとして採用されたBVM-X300。SDから4K60pまでをサポートするDIワークステーションCLIPSTERと接続して運用中。
BVM-X300については、運用を開始して間もない段階ですので、その特性・特長をフルに発揮させていくことが今後のテーマとなります。たとえば、ITU-R BT.2020やDCI-P3など放送用途から映画制作における広色域映像をモニタリングできる点や、多彩な規格に対応するガンマモードなどです。まだ、4Kをはじめとした次世代映像制作の要望は少ないですが、早めに検証作業や運用テストを行い、ノウハウを蓄積して、どんな要望にも的確に対応できるようにしたいと考えています。さらに、要望に対応するだけでなく、こちらからそのメリットや特性を生かしたコンテンツの企画を提案していけるようにしたいと思っています。
HDR(ハイダイナミックレンジ)表示も大きな特長です。この高コントラストの迫力と臨場感に溢れた映像美は、映像表現の幅を広げるだけでなく、インパクトを与えることは間違いありません。国内のコンテンツ制作業界でも徐々に関心が高まりつつありますが、まだ具体的な映像を見る機会や視聴環境が整っていないこともあり、具体的な要望もありません。イベントでの展示映像や、映画など過去の名作のスキャニング、仕上げなどに威力を発揮するのではないかと考えています。まず、業界全体でHDRの魅力を広め、盛り上げていくことが大切だと思います。当社でも、そうした提案を具体的に行っていきたいと思っています。
また、8月のファームウェア Ver.1.1のリリースにより、機能が強化され、操作性も向上しています。SMPTE提唱のHDRのEOTF(Electro-Optical Transfer Function)「ST2084」への対応や入力信号フォーマット追加対応、ガマットマーカー機能など、期待する機能が搭載された点に注目しています。色域やEOTFなどのインプットセッティングを簡単に呼び出せる機能なども利便性の向上に寄与してくれます。また、モニターコントロールユニットBKM-16Rによるリモートコントロールも魅力です。モニターとオペレーターが離れた状態でも調整や切り換えができます。こうした機能も、今後の本格運用の中で有効に活用していきたいと思います。
今後4K制作がさらに拡充するとともに、4Kモニターはさまざまな制作工程で必要になります。ソニーにはラインアップの強化とともに、ネットワーク・メディア・インターフェース(NMI)による効率的な4Kインフラ構築を実現して欲しいと思います。また、8K制作ソリューションについても積極的な提案を期待しています。
グロービジョン株式会社
1963年(昭和38年)創業のポストプロダクション。テレビ放送や劇場用映画の日本語吹き替え・日本語字幕の制作、アニメーションやゲームの音響制作、ほかにもBD・DVD制作など多彩な映像の制作と編集を行い、半世紀に渡る豊富な経験と確かな技術で高い評価と実績を得ています。DCP制作にも注力され、4Kをはじめとした次世代映像制作や新しいシネマサウンドを生み出すDOLBY ATMOSへの対応を含め、よりハイスペックな機材の導入も積極的に行い、お客様にさらにグレードの高いコンテンツ制作を提案しています。