4K HDRに対応し、両拡幅・全拡幅も採用。広大な空間を確保した大型中継車を導入
株式会社共同テレビジョン様は、IP Live プロダクションシステムによる4K HDR対応大型中継車“KR-supreme”(ケイアール・シュプリーム)を新たに導入され、2019年7月から運用を開始されました。
技術センター 制作技術部
テクニカルディレクター
専任部長
川崎 淳様
技術センター 制作技術部
VE
石井 雅紀様
今回導入を図ったこの大型中継車KR-supreme以外に、当社は2台の大型映像中継車と2台の音声中継車を保有しています。全て、当社が得意とするスポーツ中継を主眼に据えた中継車です。それぞれの中継車は、HD-SDIインターフェース採用によるHD対応中継車、そして3G-SDIインターフェース採用による2倍速カメラ対応と、新しい映像信号の登場を受け、それを採用する形で導入してきました。
今回のコンセプトに4K HDRがありましたが、3G-SDIについては、すでに2台目の中継車においてクアッドリンク3G-SDIで4Kに対応していたため、今回は12G-SDIを選ぶか、IPを選ぶかが焦点でした。12G-SDIは伝送距離の制約や信号品質への要求が厳しいため、それらの制約を受けないIPを選ぶことにしました。
この中継車の計画にあたって、さまざまな中継車を見て回りました。4KでHDRというと、その多くがソニーのソリューションを採用しており、ソニーのシステムが標準的存在だと感じていました。一方で検討にあたっては、他にも3社ほど12G-SDIか、IPによる 4K HDR中継車の提案をお願いしました。しかし、ソニーが唯一かつ実績のある選択肢でした。
オールIPを目指しつつも、IPに対応しない持ち込みの仮設機器への対応や、モニターなどへのインターフェースの観点から、上手に使い分ける形でSDIルーターも搭載しています。フレームレートは59.94p/59.94iのほか23.98psfや29.97psf、50p/50iと、4K・HDともに多くのフレームレートに対応できています。4K HDR と HD SDR のサイマル制作にも当然対応したシステム設計です。
カメラにはマルチフォーマットポータブルカメラHDC-5500を採用し12台を所有。カメラコントロールユニットHDCU-5500は12台を常設しています。最高で20台まで増設可能です。また外部入力含めて30カメまで対応できます。スイッチャーにはマルチフォーマットプロダクションスイッチャーXVS-9000を5M/E構成で搭載。スイッチャー卓にM/Eパネルを3列配置し、持ち出し用のM/Eパネルを別途1台用意しています。HDRのモニタリング用には、VE卓に31型4K液晶マスターモニターのBVM-HX310を搭載しています。レコーダーはお客様によって要望が変わりますので、常設は行っておらず、都度ユーティリティースペースに搭載するようにしています。
前後に移動することも可能なスイッチャー卓
HDC-5500を12台所有
今回の大きなコンセプトに「広大な空間」があり、左右両拡幅を採用しています。進行方向左側については制作エリアからVEエリアまで車両全長に及ぶ拡幅 幅1.2mの全拡幅です。進行方向右側についてはモニターパネル部のみ0.8m幅の拡幅です。これらの拡幅はこの車の特長的なポイントになっています。制作室については10畳ほどの空間が確保できたほか、VE卓も着座中に自由に人の往来が可能になりました。また、いままで車外に仮設していたような機器の、VEエリア車内設置も可能になりました。
拡幅構造により、広大なスペースを得た制作エリアとVEエリア
左側は1.2mの全拡幅を実現
右側はモニター部分が0.8m拡幅する
運用開始以後、サッカーやラグビーなどのスポーツ中継を中心に頻繁に活用しています。使い勝手や居住性については、「またこの車でやりたい」という声もいただくほど、お客様から大変好評を得ています。IPシステムも安定して稼働しており、大きなトラブルなどはほとんどなく運用できています。
これから映像だけでなく、さまざまなものがIPに集約される流れは一層加速していくと思います。しかし、まだ十分に慣れていないせいもあるかも知れませんが、IPによるシステム構成はどうしてもブラックボックスである印象を受けがちです。ソニーにはIPの推進と同時に、わかりやすくシステムを統合管理できる環境のさらなる充実を引き続き期待しています。
マルチフォーマットプロダクションスイッチャー「XVS-9000」
マルチフォーマットポータブルカメラ「HDC-5500」
カメラコントロールユニット「HDCU-5500」
HDRプロダクションコンバーターユニット「HDRC-4000」