佐藤 朝明 [ プロジェクトリーダー ]
音質設計が蓄えていたネタをもとに、バッテリーの線材を太くしたり電源を増やしたり……実験と試聴を繰り返しながら音質の向上を模索する日々でしたね。
普通のモデルでは「量産では使えないよ」と最初から諦めてしまう部品も、今回は「音質を良くするために、どうやればそれを搭載できるか?」を最後まで追求するというスタンス。ですからひじょうに選択肢が広く、調整すべき案件が盛りだくさんで、メンバー全員で試行錯誤しながら音を進化させました。
土屋 亮 [ メカ設計 ]
当然ですが、ひとつ部品が替わるだけで中身のレイアウトがガラッと変わるので、その割を食うのがメカ設計です。ほんとうに問題山積という感じで、けっこう辛い思いをしながら調整した受難の日々でした(笑)。
佐藤 朝明 [ プロジェクトリーダー ]
そうですね。ZX1は音質を最優先にしなければならないので、どうしてもメカ設計にしわ寄せがいきます。しかもAndroid™搭載モデルなので、電波系のBluetooth®やWi-Fi、GPSまで入っているんですから。
土屋 亮 [ メカ設計 ]
それらの要素は、単独で完結するのではなく全部つながってきます。全体のバランスを調整しながら、数多くの部品を限られたスペースにまとめる必要があるので、他の機種とくらべても苦労する部分が多かったですね。
佐藤 浩朗 [ 音質設計 ]
ひとことで言えば、できるだけ色付けのないフラットないい音。世の中にあるさまざまなヘッドホンの個性を生かすサウンドを目指しました。ただし、あくまでもポータブルオーディオなので、家で使うようなオープンエアー型の大きなヘッドホンをメインには考えず、モバイル環境で使うものを中心に、ソニー製だけでなく他社のものも聴きながら音を作り込みました。ピュアオーディオの血が入っているようなHi-FiサウンドがZX1の個性だと思います。
小野木 康裕 [ 商品企画 ]
ZX1は高価格帯の商品ということもあり、購入される方は確実にミュージックラバーなので、お客さま自身がお気に入りのヘッドホンを持っている可能性が高いと考えました。ですからソニーが決め付けるのではなく、お好きなヘッドホンの音色で音楽を楽しんでいただくことを意図しました。
佐藤 浩朗 [ 音質設計 ]
ポータブルオーディオのアンプは片電源が普通で、だいたい電源は1つ、がんばって2つくらい。ZX1ではカップリングコンデンサーというヘッドホン出力の手前の部品を削除したかったので、正負両電源で波形をつくる方式を選択しました。
“正”の押し出す力だけでなく、“負”の引っ張る力を加えることで制動性が高まり、さらに4つの電源を搭載したことで十分な電流を供給できるので、今までよりも駆動力が上がってひじょうにパワフルになりました。これによりオーバーヘッドホンもしっかり鳴らすことができるとともに、L/R間の信号混入を防止するために完全に分離したL/R独立電源にしたことでステレオ感が際立ちます。
「S-Master」はアナログアンプにくらべて電源ノイズの影響を受けやすく、高品位な電源を求めるため電源数の増加はコストアップにつながりますが、あくまでも音質を優先しました。
佐藤 浩朗 [ 音質設計 ]
カップリングコンデンサーというのは、直流電気をカットして交流電気だけを通す部品です。正負のどちらか片電源の直流があると、ヘッドホンの電磁石の動きが片寄ってしまい故障の原因になるので、そのための安全フィルターのような役割ですが、このコンデンサーはハイパスフィルターになるため、低域でのレベル低下や位相遅れが生じるというデメリットが痛い。
その点、「S-Master HX」の正負両電源では0Vを中心に上下両方に電磁石が振れるので、カップリングコンデンサーいらずになるわけです。通常、コストや回路上に占めるスペースを考えると敬遠する手法ですが、立ち上がりの良いキレのある低音が実現するというメリットを重視しました。
小野木 康裕 [ 商品企画 ]
先ほどお話したとおり、ZX1を買ってくださるお客さまの中にはハイレゾ音源を持っていない方もたくさんいると思います。かといって、MP3でしか持っていない楽曲を全てハイレゾで買い直せるわけではないですよね。
やっぱり、お持ちのコンテンツをできるだけ生かしていただきたい、ハイレゾ相当のいい音でお気に入りの音楽を楽しんでいただきたい。そういう想いから、開発も佳境に入ったギリギリのタイミングで、商品企画の私が無理やりねじこみました。エンジニアは寝耳に水だったと思います(笑)。