― レンズ設計でこだわったポイントは?
加藤(レンズ設計)
デジタル時代になって忘れがちなレンズの味というのをもう一回楽しんでいただきたい―そういう想いで作ったのが、このレンズです。私は以前から"α"レンズの設計に携わっていまして、"α"レンズというのは描写力だけではなく、ぼけ味も非常に考慮した設計で評判でした。今回開発したレンズも開放のぼけ味、そして絞り込んだときの描写力を楽しめるようになっていると思います。
― 美しいぼけ味を出すために、何か特別な工夫が?
加藤(レンズ設計)
あります。F1.8という数字ばかりが先行しがちですけれど、絞ってもぼけ味がきれいに出る"円形絞り"を採用しています。一般的に絞りの形は開放では完全な円ですが、絞るにつれ、だんだん多角形になります。そうすると点光源のぼけが多角形になってしまうんですね。今回は、それが約2段絞ったF2.8でもほぼ円形をキープする羽根形状にしていますので、自然できれいなぼけになります。もうひとつ、奇数の7枚羽根にしたのも、我々がこだわった設計ノウハウから来ているものです。
― 今回のレンズは35mm換算で28〜100mmの3.6倍ズームです。
最近はワイド側が24mmで始まるコンパクトカメラも多いですが、28mmスタートにしたのには何か理由があるのですか?
加藤(レンズ設計)
カバンに入れて毎日持ち歩くことを考えると、スナップ撮影がメインになると思います。それなら24mmよりも28mmのほうが使いやすい。もうひとつF1.8の開放でぼけ味を生かして近くのものを撮る場合も28mmが最適だと思います。
では、なぜ望遠側が100mmかと言いますと、ポートレートには85mmが最適だというのが定説ですが、実際はもう少し寄りたいと思うことも多い。そんな理由から、昔の純正の"α"レンズには100mmが3本もありました。AFマクロ100mm F2とAFマクロ100mm F2.8、そしてAFソフトフォーカス 100mm F2.8。それで100mm、と私は個人的に思っていますけどね(笑)。
― では、望遠側の画質もかなり期待できますか?
加藤(レンズ設計)
今回はイメージセンサーが大型化したので、望遠側の撮影でも今まで以上にレンズ性能を引き出すことが出来るため、望遠の画質もかなり向上しています。遠景を試し撮りしてびっくりしたのが、周辺の解像力。四隅に写り込んだ細かい道路標識なども、きちんと解像しているんです。ですから、ワイドではぼけを、テレでは高解像感を楽しんでいただく、こういう楽しみ方ができると思います。
― お話を聞いていると、なんだか新しい小型一眼レフカメラと高級レンズを、究極まで小型化し一体化したようなイメージが浮かんできます。
暮石(商品企画)
近いものはあるかもしれませんが、実際F1.8で始まる交換式のズームレンズなんて作ったら随分と大きくなってしまいます。我々はレンズ一体型のコンパクトカメラだからこその強みを利用しています。たとえば、レンズの背面に付くイメージセンサーを個別に調整して、一番性能が出る位置に調整して固定するという工夫をしています。すなわち、今回開発したレンズ一体型の構成は、レンズ自体の圧倒的な描写力を発揮するではなく、高品位な画質を実現するために、イメージセンサーの位置の最適化にも貢献しています。そのおかげで、コンパクトサイズでありながら、高性能・高画質を実現できたと考えています。
― イメージセンサーの位置が数ミリ違うだけで、画質がそれほど変わるのですね。
加藤(レンズ設計)
ミリじゃなくてミクロンの単位ですね。簡単に言うとセンサーをちょっとだけ傾けて、一番画質が高くなる位置に固定するんです。この調整はさすがにレンズ交換式の一眼レフカメラではできません。