SONY

BE MOVED RX cyber-shot

Engineer's Voice 開発者の想い

操作性と品位を両立させたEVF。MADE IN JAPANの品質管理。

― ワンタッチでポップアップと収納ができるファインダーなど、
様々な進化ポイントも魅力ですね。

若月(プロジェクトリーダー)
とりわけユーザーの皆さまから多かった声は、ビルトインのファインダー、チルト式の液晶モニター、AFのスピードに関するご要望です。それらはぜひ採り入れたいと考えました。手のひらのサイズで高画質というRX1のアイデンティティを変えない大前提で、そういった機能を盛り込んでいくわけです。フラッグシップとしての品位を保ちつつ、性能と操作性を向上させることが、このプロジェクトを通しての非常に大きな課題でした。

池尾俊輔(機構設計担当)

池尾(機構設計)
ファインダーに関しても、RX1にふさわしいファインダーは、そもそも何かというところから考えていきました。視野角、倍率、像性能、抜けの良さなど、すべてにおいて最高の光学性能。そこを目指すのがRX1らしさです。
かつてOVFにはα900というファインダーの名機があり、そのファインダーはお客様から非常に高い評価を頂いておりました。EVFとOVFは根本的に違うものであっても、最高のファインダー光学系を載せたいという提案に異論はありませんでした。最高のファインダー光学系をターゲットすることが決まって、デザインのシルエットは全くRX1から変えずに、これをどう実現するかが、最初に苦労したところです。

若月(プロジェクトリーダー)
α900はファインダー倍率0.74倍で、その見えの美しさがユーザーの皆さまから非常に高い評価をいただいていました。今回、同じ0.74倍のファインダー倍率としたのは我々のα900へのオマージュでもあります。α900が最高のOVFを目指したように、最高のEVFを目指しました。
RX1R IIのファインダーの接眼レンズはコストを度外視してすべて高屈折ガラスレンズ、そのうち2枚をガラスモールド非球面レンズにして大幅な光軸方向の短縮と圧倒的な光学性能と抜けの良さを達成しています。のぞいて見ていただけると一目瞭然のクリアさを感じます。この光学性能はもちろんですが、やはり設計初期の大きなポイントとなったのは、ワンアクションでのポップアップの実現です。ソニーではRX100 IIIで初めてポップアップ式のファインダーを搭載したのですが、フラッグシップと位置づけているRX1R IIは、より上を目指すことが至上命題でしたから。

池尾(機構設計)
RX100 IIIでは、ユーザーがファインダーを覗きやすいようにポップアップした後、接眼部を指で手前に引き出すというツーアクションの動作が必要でした。収納時も同様にツーアクションでした。接眼部のせり出しが必要なのはRX1R IIも同じですが、こちらはなんとしてもポップアップ→接眼部のせり出しをワンアクションで完了するようにしたかったのです。これが開発の初期段階の大きなハードルでした。
はじめのころはファインダーを出すときだけワンアクションで、ファインダーを本体に格納するときはツーアクションでという案もあったのですが、やはりユーザーの利便性を考えると、格納時も上から押すだけのワンアクションがあるべき姿だろうという結論になりました。とは言うものの、こういったポップアップファインダー機構、ワンアクションであればなおさらですが、参考になる機構がカメラだけでなく他の工業製品も含めてどこにもありません。
しかしこういった「世にない機構を生み出す」という所にソニーのメカ設計者はチャレンジスピリットを感じるのです。設計者達が案を出し合い多くの機構試作品を作りました。ワンアクションを実現できる機構案も複数ありましたが、ポップアップレバーなどの形状の美しさがRX1の品位に相応しくない案は落とし、最終的に操作性・品位・強度や耐久性など多くの要素を加味して機構を決定しました。採用した機構は、てこ形状の金属アームがレールに沿って上下し、レールの軌道が変化している終端部分で金属アームがファインダーのせり出しを行うという機構です。この構造であればファインダーを上から押し下げると金属アームが接眼部の引き込みを行い、ワンアクションで格納もすることができます。
ベースとなる機構が決定した後の次のハードルは「上がり方の品位」でした。バネで押し上げてポン!と上がるのは簡単ですが、それでは品位がありません。RX1にふさわしい高品位な動き方を実現するためにダンパーを入れ、上がるスピードを意図的に下げています。ただ、遅くしすぎると撮影時にファインダーをすぐ覗きたいという速写性を阻害しますので「速過ぎず遅過ぎず」という、ギリギリのラインで調整しています。ダンパーというと自動車を思い出すかもしれませんが、実際、高級車の内装やインパネに使用されているダンパーなど、かなりいろいろ調べました。さらに次は「下がる時の品位」ですが、格納のときのファインダーがロックされる「カチッ」という音にもこだわって、最後まで「品位」を追求しています。
実は、商品企画のオーダーが来たときに、ここまでできるとは正直、思っていませんでした(笑)。初代RX1と変わらないサイズの中でのこのファインダー性能とワンアクションの両立、さらに品位を上げ、安定的に量産するということは、ずっと頭を悩ませていました。しかし絶対できるという信念を持って、関連部署や工場、パーツメーカーさんにご協力頂き、量産直前まで品位の追い込みを行いました。結果的に最後までやり通し、この最高のポップアップファインダーを実現できたことで、とても感慨深いものがあります。

若月(プロジェクトリーダー)
EVFに関してはもうひとつ、この見栄えが素晴らしかったために、これを常時お使いになられるお客様のために、外付けでもいいから専用のアイピースカップを提供する必要性を感じていました。カメラの後を追うような感じで設計を進めて、最終的にこれを同梱して市場に出すことにしました。

池尾(機構設計)
これも、高級感を損なわずに実現するには、どういった形がふさわしいか議論を重ねました。使用中に簡単に取れたりせず、かつデザインも美しくするために試行錯誤して、最終的に時計の竜頭に似たツマミで固定するという方法にたどり着きました。アイカップの形状自体も、四角などいろいろ検討しましたが、のぞきやすさやフィット感、ヨコ位置でもタテ位置でも接眼性に違和感なく同じように使えることを考慮して円にしています。

若月(プロジェクトリーダー)
もうひとつの特長はチルト式の液晶です。これも品位を保ちつつ、操作性を向上させるということに関して、いろいろな検討を重ねた末にできたものです。

池尾(機構設計)
チルト式液晶もやはり額縁がプラスチックでは剛性感がなくRX1としての品位がないと考え、マグネシウムを採用しています。チルト液晶を本体側に閉めるときも、マグネットを入れて、気持ちよくきっちり収まるようにしています。そして、このパネルを開いたときの裏側。この裏側の見栄えも含めてきっちりデザインしました。他社を含めてここまでこだわってデザインし機構を決めているものはなかなかないのではないでしょうか。

若月(プロジェクトリーダー)
どんな形にするかの決定まで半年以上はかかっています。モックを何個も作って検討を重ねてきました。

池尾(機構設計)
RX1R IIは、シルエットはRX1と同じですが、ポップアップ式ファインダーを入れるために、レンズの位置をRX1よりも若干グリップ側にずらして空間を確保しています。レンズを動かしたことでダイヤル類、ホットシュー、三脚ネジ穴の位置、グリップ形状もユーザーの操作性を阻害しないよう最適なレイアウトを見つけるために、こちらもいくつもデザインモックを作成し再配置しました。外観は初代RX1と一見同じでも、中身の設計は全く新規で検討し直したわけです。
また、材料に関しても、ポップアップファインダー機構に採用しているプラスチック材料は、RX1らしい強度・耐久性性能などを実現するためにカーボンファイバー入り高機能強化エンジニアリングプラスチックを採用し、幾度も強度解析のシミュレーションを行いながら、剛性と耐久性のあるファインダーを実現しています。

若月(プロジェクトリーダー)
本当に細かな部品の一つひとつ、材質と質感にこだわって設計したのが今回の特長です。また、品質管理の面でも徹底しています。RX1はすべて日本国内で組み立てていますが、レンズの製造工程、レンズとボディを組み立てる、イメージセンサーを組み立てるという工程すべてにおいて、現場をクリーンブース化しています。

池尾(機構設計)
外装の部品と部品の隙間に関してもこだわっています。ボディとファインダーの間にはある程度の隙間がなければポップアップする際に擦れて上がりませんし、逆に隙間が広すぎては品位がありません。合わせの隙間は、最小限できっちり均一な隙間にするために国内の生産工場で、1台1台調整ながら組み立てています。一般のカメラでは、こういった調整はあまりやらないと思います。
またソニーロゴなどの各刻印も、生産工場や国内のパーツメーカーさんに協力していただいて、一個一個彫り込んでいます。底面には「MADE IN JAPAN」も刻印しました。まさに、日本の技術と誇りが結晶したカメラだと思っています。