商品情報・ストア Feature ウォークマンファンミーティングレポート PART I 開発者×AVライター クロストーク

ウォークマンファンミーティングレポート PART I
開発者×AVライター
クロストーク

去る10月16日(水)、ソニーストア銀座にて開催したウォークマンのオーナー様とのファンミーティングの模様をご紹介します。第一部では、HiViベストバイ ヘッドホン部門、ポータブルプレーヤー部門で選考委員も務めるAVライター 鳥居一豊氏とウォークマン開発陣とのクロストークで、製品にまつわる興味深いエピソードや開発秘話が披露されました。

ウォークマンの開発の舞台裏

このイベントは、モノづくりの最前線を歩み続ける開発者の思いを、実際に製品を愛用してくださっているオーナー様に直接お届けしようと企画されました。イベントの前半では、自らもウォークマンのファンであると言う著名AVライター鳥居一豊さんをゲストナビゲーターに迎え、ウォークマンの開発者とのクロストークショーを実施。登壇した開発者は、ウォークマン音質設計リーダーの佐藤浩明と、電気設計・音質設計担当の松崎恵与。『NW-WM1A/Z』(2016年)や、『NW-ZX300』(2017年)など、近年、特に高い評価を集めてきた人気モデルを手掛けてきた二人がどんな話をしてくれるのか、イベント開始前から会場は期待感に満ちあふれていました。

音質設計
佐藤浩明
音質設計
松崎恵与
AV評論家
鳥居一豊氏

なお、今回は、イベント開催に先立ち、関東圏にお住まいのウォークマンZX300シリーズのオーナー様を対象にご案内を差し上げ、抽選で当選された一部のオーナー様にご参加いただきました。平日の開催にも関わらず、多数の応募を頂戴しありがとうございました。残念ながらご参加いただけなかった全国のウォークマンファンの皆様のために、当日の模様を余さずレポートします。最後までご覧いただけましたら幸いです。

“これまで”のウォークマンの話をしよう

1つめのテーマは「ウォークマンのこれまで」。まずはウォークマンの“過去”をふり返ります。

「まずは僭越ながらファン代表としてお祝い申し上げます。40周年、おめでとうございます」と切り出す鳥居さん。ウォークマンと言えば、それまで“家で聴く”ものだった音楽を、外に持ち出して楽しめるようにしたエポックメイキングな存在だったとその功績に触れた上で、「普通は業界のトップになるとデーンと構えて保守的になってしまうものですが、ウォークマンはずっと“攻めて”いますよね。毎年おもしろい製品を出しているところがスゴい。特にここ数年は、その傾向が顕著です。まず、その製品作りについてこだわりや苦労を教えてほしいです」と、ウォークマン開発陣に問いかけます。

これに対し、佐藤が語ったのが、ソニーのもの作りに対するフィロソフィー(哲学)。ウォークマンだけでなく、すべてのソニー製品がCreator's Intent、すなわち「制作者の想い、表現したいものをそのままお届けする」ことを目的にしているのだと言います。

松崎:「その実現のためにウォークマンでは具体的に何をやっているかというと、電気設計としては、とにかく少しでもインピーダンス(信号に対する抵抗値。数値が大きいほど電流が流れにくく、小さいほど流れやすい)を下げるということをやっています。それによって、アーティストのこだわっている音のディテール…音量、音像、音の重なり、広がり…そういったものをストレートに、より自然に、耳に刺さらないようなかたちで再現していきたいな、と」

「こうした姿勢は、昔からずっと変わっていないのですか?」と聞く鳥居さん。すると佐藤がにやりと笑いながら、テーブルを隠していたベールをめくり、あるものを披露してくれます。それはなんと幻とされていた初代ウォークマンのプロトタイプ! もちろん、本邦初公開となります。

佐藤:「これは、当時のソニー名誉会長だった井深大が、外で自分の好きな音楽を聴くために作らせた改造品(ポータブルモノラルテープレコーダー『プレスマン』をベースに改造)。これが後に、皆さんご存じのウォークマン1号機へとつながっていくんですが、当時はステレオのミニジャックが存在しなかったので、φ3.5mmのモノラルミニジャックをもう1つ追加して、むりやりステレオにしています。
なにより感心したのは、この中身。中を開けると、タンタルコンデンサが10個くらい並んでいたんですよね。これにはびっくり。……と言うのも、以前私もウォークマンの音質向上を検討していた際、電源強化のため、やっぱり同じようなことをやっていたんですよね(笑)。こういうエイヤーでやっちゃうところは、今も昔も変わっていないなあと思いました」

「それは変わらないというより、ブレないということですよ」と感心する鳥居さん。もちろん、鳥居さんもプロトタイプを見るのはこれが初めて。思わず身を乗り出して興味深げに細部を確認していました。

ちなみにこのプロトタイプ、発見されたのはつい先日のことで(そのため銀座ソニーパークで9月まで行われていた記念プログラム『#009 WALKMAN IN THE PARK』には間に合いませんでした)、経年劣化していたベルト部分を交換するだけできちんと動作したのだとか。つまり、当時の音を今でも聴くことができたのです。

松崎:「自分はMDウォークマン世代なので、カセット時代のウォークマンの音質を侮っていたところがあったんですが、実際に聞いてみると、その音質の良さに驚かされました。QUEENの楽曲を再生してみたのですが、とても生々しい音が再生されて某映画のスタジオ録音シーンの記憶が甦りました。」

佐藤:「ベースがビジネス向けのテープレコーダーなので作りがとてもしっかりしているんです。しかも、当時はまだモノラルの製品しかなかった時代。ステレオ用のICそのものが無いので、完全なるモノラル構成。バランス接続とは言えませんが、結果的にグランド分離されているわけです。かっこいいですよね(笑)」

『すべては音のため』というマジックワードで生み出されたZXシリーズ

第2のテーマは「やっぱり、ZX♥」。ウォークマンのオーナー様に向けて、あらためてこのZXシリーズが生まれた経緯やウォークマンの開発秘話を開発者自らの言葉でお伝えします。

まずは鳥居さんにZXシリーズへの印象を語ってもらいました。

鳥居さん:「僕はやっぱり初代の『NW-ZX1』(2013年)がすごく印象に残っています。最初、アルミブロック削り出しと聞いた時は本気か?と思いましたから(笑)。普通はそんなコストのかかることを10万円以下の製品ではやりませんよ。でも、聞くと『音のためにやりました』と。それだけでしびれますよね。また、ポータブル製品なのに、音質向上のために大きなコンデンサーを選択し、結果として背面下部がボコッと膨らんでしまっているのにも驚きました。携帯性という意味では決して良いことではないのでしょうが、それが個性になっていましたよね。そして、その後、音だけでなく全方位にアップデートされていったのが良かった。毎回、次はどうするんだろうと思っていたのですが、ちゃんと進化していくんです」

鳥居さん曰く、『NW-WM1』は音を何より重視した尖った高級モデル、ZXシリーズは手の届く価格で音が良く、バッテリーなどの周辺機能も優れたバランスの取れたモデルという評価だそうです。

佐藤:「でも、『NW-ZX1』をやった当時は、7万円もするウォークマンなんて売れるわけないって社内外から言われていたんですよ。ただ、当時の上司からは好きな部品を使っていいから絶対に音を良くしろと背中を押されて…。ぽっこり膨らんだコンセンサー部分もデザイナーがおもしろがってくれて…。周囲がことのほか前向きで、逃げ場が無くなった感もあって…、結果的にもうやるしかないと(笑)。発売後は非常にご好評をいただき、シリーズとして続けることができました。3代目の『NW-ZX100』(2015年)を出したころには、あれだけ高い高いと言われた7万円という価格が普及価格帯と言われるようになっていたのには感慨を覚えましたね」

シリーズを通した進化の中で、最も大きなジャンプアップとなったのは、『NW-ZX100』で劇的に小型化したボディサイズを維持しながら、バランス接続にも対応させた『NW-ZX300』(2017年)とのこと。この開発は本当に大変だったと松崎が当時をふり返ります。

松崎:「前年に発売した『NW-WM1A/Z』で出し切った感があったんですが、そこに『NW-ZX100』のサイズでその音を出せというミッションが来たんですよ。始めは、そんなの無理だ、という反発心もありましたよ。だけど、35mm四方のオーディオ回路設計や、無線周りの回路をディスプレイの下に回すなど、さまざまな試行錯誤をやっていくうちに…結果的には、上手くいってしまいましたね(笑)」

佐藤:「ソニーはハイエンドオーディオの分野も長年取り組み続けていますので、その辺りのノウハウがすごく溜まっています。各分野に厳しくもやさしい大先輩がたくさんいらして、悩み事を相談するとヒントをもらえちゃうんですよ。ある意味、“チート”というか…(笑)。でも、そのお陰で音質に付いてはどんどん良くなっていきましたね」

また、『NW-WM1A/Z』で出し切ったことが、最終的には『NW-ZX300』の高性能化に役立ったとのこと。

松崎:「たとえば『NW-WM1A/Z』で採用した無酸素銅プレートを、厚さは違うものの『NW-ZX300』にも採用しています。こうしたコストのかかる取り組みも、『NW-WM1A/Z』で上手くいったという実績が共有されていたので、すんなり進めることができました」

松崎:そのほかにも『NW-ZX300』ではさまざまな無茶な取り組みが行われたそうなのですが、「たしかに、ほかの企業や一般的な商品開発の常識から見たら、ありえないことかもしれませんね。でも、『すべては音のために』と言うとみんなすぐに理解してくれました。まさにマジックワードでしたね(笑)」

これからのウォークマンの話をしよう

時刻は13時を超えたところで、最後のテーマ「これからのウォークマンの話をしよう」に。
参加いただいたオーナー様に、その場で、ZXシリーズ最新モデルとなる『NW-ZX500』の国内正式発表をご案内しました。音に厳しい耳をお持ちのオーナー様に、ウォークマンZX500シリーズはどのように評価されたのでしょうか?!


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