一眼カメラ「α」で速さを実証したAFの、
さらなるポテンシャルを動画で開花
──今回、AX700の開発で注力されたポイントとして、
第一に挙げられた「オートフォーカス」についてお聞かせください。
上田仁志 [ソフトウェア(AF)設計]
ソニーの一眼カメラ「α」やデジタルカメラの「サイバーショット」でご好評をいただいているオートフォーカス技術「ファストハイブリッドAF」システムを、ハンディカムのブランドとしてはAX700が初めて搭載しました。新しく搭載した「像面位相差AF」が大きなポイントで、従来の「コントラストAF」を組み合わせたハイブリッド型にしたことで、とても高速かつ正確で、粘り強く追随できるオートフォーカスを実現しました。ピントを合わせている位置を、緑色の枠で液晶パネル上に表示するのも特長です。
玉川準一朗 [商品企画]
静止画のオートフォーカスで大事なことは、いかに速く正確に狙った被写体にピントを合わせられるかです。しかし動画に関してはピントが合っていない状態から、合う状態までがひとつの映像として記録されます。単にすばやくフォーカスすることで“素敵な映像”になるかと言えば、そうではない場合もあります。
例えば、ゆっくりと滑らかにピントを合わせていくことも、印象的な映像表現のひとつとして使われたりします。動画のオートフォーカスには速さや正確さはもちろん重要ですが、それと同じぐらいフォーカスを合わせるまでの滑らかな動き、「品位」がとても重要になります。
上田仁志 [ソフトウェア(AF)設計]
すばやいだけではなく、自然で違和感のない滑らかなフォーカスの遷移を技術的に可能にしているのは、像面位相差AF搭載のイメージセンサーと、動画向けに新たに開発したアルゴリズムの組み合わせです。今ピントが合っているところから、撮りたいものにピントが合うところまでどのようにフォーカスしていけばよいか。ゴールを割り出せる像面位相差システムがあるからこそ、逆算して、どのようにフォーカスしていけば滑らかな映像が撮れるかの判断も可能になるわけです。そして、表現にこだわった多彩なフォーカスができるよう、フォーカス速度を7段階で設定できるようにしています。
──そして先ほど“粘り強さ”もキーワードとして挙げられていました。
上田仁志 [ソフトウェア(AF)設計]
はい、被写体を追随する「粘り」にもAX700のアピールポイントがあります。撮像エリアの約84%という広い範囲に273点の像面位相差AFセンサーを配置し、その1点1点でピントが合う位置を割り出しています。そして、割り出した情報を組み合わせることで被写体を特定し、その大きさや動きも判断して、粘り強く追いかけていきます。
ですが、必ずしも粘り強く追うことだけが求められる訳ではありません、例えば、風景を撮っている最中に、お子さんがフレームインしてきた際、お子さんに速くピントを合わせたいと思うこともあるでしょう。あるいは、ビデオカメラの向きを急に変えた時に粘りは必要なく、別のものに速くピントを合わせることが求められます。
そこで「AF被写体追従設定」を用意しています。被写体から被写体へと乗り移る感度を「敏感」から「粘る」まで5段階、被写体の動きに合わせて追随する範囲を「広い」から「狭い」まで5段階で設定できるようにしています。これによって、よりカスタマイズ性が高くなり、意図した映像表現を可能にしています。
そして、その乗り移りを判断するのにも新しいアルゴリズムが大きな役割を担っています。このような多様な設定を可能にするには高度なチューニング技術が必要です。しかしソニーとして、そして個人的にも蓄積してきたノウハウがあります。私が以前に一眼カメラ「α」の像面位相差AFを開発する中で、感じたことや必要だと考えたことも今回新たに盛り込んで作り上げました。「いろいろな設定パターンを可能にすることで、多様な映像が撮れるように」という思いをどうしても実現したいと、チューニングを繰り返し、追い込んでいった結果、納得できるものができたと思っています。
──いろいろなシーンやニーズに対応できるということですね。
ぜひこんな撮影をして欲しいといった考えはありますか。
上田仁志 [ソフトウェア(AF)設計]
そうですね、例えば日本では鉄道を撮られる方が多いと思うのですが、列車はそう頻繁にくるわけではないので、一回きりのチャンスに、マニュアルフォーカスできっちりとピントを合わせるのは難しいことです。しかもそれを4Kの高精細な画質で行うのには、とても高度な操作技術が求められるでしょう。そのようなシーンでAX700のファストハイブリッドAFは能力を発揮できるはずです。また、人が集まり、入り乱れて複雑な動きをする場面ではAX700の粘り強さが生きるでしょう。