レーベルTAGRAGRECORDSを主宰し、90年代関西のインディ・シーンを牽引。エンジニアとしてVERMILION SANDSにもメンバー参加。ROVOやボアダムズ、09年SUMMERSONICではエイフェックス・ツインを担当するなど、独自の音を持つ国内外の超一流アーティストのレコーディング/ライブPAを数多く担当する。日本で最も評価の高いエンジニアの1人。
(まずは付属のヘッドホンケーブルでXBA-A3を試聴して)なるほど、これはすごいですね。レンジが広くて、無理なく音が鳴らされている感じ。生音のアコースティック・サウンドの粒立ちが細かく聴こえてくるし、打ち込みの音の低温域の解像度が素晴らしいです。今までにないレベルのインナータイプのヘッドホンですね。リヴァーヴの粒子も聴こえるし、ほとんどスタジオでモニタしている感じに近いです。うん、すごい。
(バランス接続対応のケーブル(MUC-M20BL1)に差し替えて試聴……笑い出す)これはすごいな。笑っちゃうほどいいですね。付属のヘッドホンケーブルでもすごくいいのに、こっちだとさらにすごい、違いますね。3割以上は音が向上している気がする。敢えて言うと、通常ケーブルでは気づかなかった音の薄皮がとれて、全部の音が明確になって、「音」そのものがダイレクトに耳に入ってくる感じでしょうか。一度バランス接続対応のケーブルでこの音を体験してしまうと、付属のヘッドホンケーブルには戻れない気がするな(笑)。
※別売の専用ケーブル(MUC-M20BL1)と別売のバランス出力対応のポータブルヘッドホンアンプ(PHA-3)を使う必要があります。
そして全体的な音の仕上げ方が、非常に「音楽的」になっていると思います。単純にスペック的な性能もすごくいいと思うんだけど、ひとつひとつの楽器の音の立体的な聴こえ方、解像度の焦点の合わせ方が、音楽としての良さを引き出す感じに集中して調整されているように感じます。「音楽が鳴っている」というのかな。
具体的には、高音域がすごく自然なのと、打ち込みのシンセの「鳴りの伸び」が印象的ですね。このあたり、とくにヘッドホンで再現するのがとても難しいんですよ。リヴァーヴのキレの調整、コンプレッサーの外し方とかも聴き取れるので、エンジニアがどういう意図でどんな機材をどう使ったかがすごくよくわかります。スタジオで録っているときにわれわれはこう聴いていると思っていただいていいと思います。逆に言うと、下手な録音をしたらすぐにバレます(笑)。そこは音楽制作者にとっては怖いところかもしれませんね。だってこんな、バランス接続対応の一般向けヘッドホンが出てくるとは予想もしていませんでしたから(笑)。
ここまでの音を聴かせる一般向けのヘッドホンやシステムが出てくると、つくづく、音楽の新しい時代が始まったことを痛感させられます。というのは、スタジオの音をそのまま誰もが体験出来るようになったわけですから。これまでは、コンシューマー向けの商品はプロにとっては一種の足枷という面もありました。CDだったらこう聴こえるかな、圧縮音源だったらこうかな、などと考えながらスタジオでいろいろ調整する必要があったわけです。それはそれで楽しいことなのですが、でもやはり、一度この音質と音楽の楽しさを経験してしまったらもう後戻りはできないと思うんですよね。
だからエンジニアとしては、もっともっとできることは増えるでしょうし、もっといろいろな音楽の体験を作り出していきたいと思います。ROVOは先日、ライヴをハイレゾ環境(24bit/48kHz)で録音して、ライヴ後にそのままデータをSDカードで即売することを試験的にやってみたんですが、ものすごい反響で驚かされました。ハイレゾで録ってハイレゾで聴くということにここまでニーズが出てきているんだな、と。ビジネスも含めて、新しい音楽のあり方が少し見えた感じがしましたね。担当のエンジニアとしてはすごく大変だったんですけれども(笑)。このXBA-A3、そしてバランス接続で、このハイレゾの良さ、凄さ、音楽の楽しみを新たに体感してもらえればと思いますね。