取材:大橋 伸太郎
次にXB70、50のデザインについて訊いてみよう。お話を伺ったのは、ソニー株式会社オーディオビジュアルプロダクツデザイングループ パーソナルオーディオデザインチーム1の八重樫さん。
――前機種のEXTRA BASSは「夜のカラバリ」。クラブ族御用達のグリッターで妖しい個性的な色彩をまとって現れました。2年前のXB90EXの時はJ-POPやK−POPにも重低音が使われていることを背景に高感度な音楽ファンにターゲットを広げて、モノトーン系のエッジで質感の高いデザインを採用しました。今回のXB70、XB50はさらに変化しています。XB50にイエローが追加されカジュアルな印象に一皮剥けました。重低音が身近な音楽のサウンドアイテムになったのを反映してさらに広いユーザーに訴えたいということですね?
八重樫 はい。XB50のカラバリの基調色はグレー、このモデルにはトレンドカラーを積極的に取り入れました。2014年の春夏のトレンドカラーの資料からインテリアやファッションなど総合して眺望すると、トレンドカラートップ3色がグレー系という結果を得ました。意識して市場を観て頂くとガジェットの分野にもダークグレー、ライトグレイを基調とする波が徐々に浸透してきているのがわかると思います。一昔前ならグレーは無味乾燥とか古い業務用製品のようなイメージでした。」
――オヤジっぽいとか?(笑)
八重樫 「はい。ファッショナブルなイメージでなかったのですが、一躍地位を確立しつつあります。ファッションやインテリアにおけるグレーの使い方を観察してみると、グレーとビビットな指し色の組み合わせがよく見受けられました。この製品の色を決める際にターゲットとした若い世代のユーザーは、インナーイヤーヘッドホンを「身につけるもの」つまり、アクセサリーを選ぶのと同じ感覚で選択をしているのではないかと考え、そのような背景からこの色のコンビネーションを製品に落とし込んでみようと考えました。そこにビビットカラーの候補として挙ったのがライムイエローです。ライムイエローとグレーは配色上の相性がとても良いのです。グレーがライムイエローを引き立てるだけでなく、ライムイエローがグレーを引立ててくれる。トータルで見るとそのカラーのコンビネーションは製品をとても良く引き締めてくれます。」
――XB90EXの時は物量を感じさせるマッシブなわかりやすいデザインコンセプトでした。今回はレイアウトが変わってベースブースターがアイキャッチですね?
八重樫 「はい、XB90EXはバーティカルレイアウトでドライバーユニット側面に対して直角に音導管が配置されており、その造型を活かすことでアイコニックなキャラクターになりました。今回はラテラルレイアウトで一般的なインナーイヤーヘッドホンと似たレイアウトになります。その変更は装着感にとってとても良い改善になります。しかしドライバーユニットやハウジング音響構造が変わることで内蔵物のレイアウトからくるキャラクター性も同時に失われる為、造型上どのようにキャラクターを出すのか悩みました。
デザイン開始時にベースブースターという新機構の技術説明を受けた際、私はこの構造こそがEXTRA BASS最新世代のアイコンに成り得ると考えました。しかし初期に設計者が持ち込んだ試作品では、ベースブースターをハウジング内に取り込むがあまり寸胴でサイズが大きく、それにより装着性も悪い、新機構が造形的なハンデを生む要因になっていました。そこで私は思い切ってベースブースター機構をハウジング外部に配置し、容積を分散させてみてはと考えました。
製品を見ての通り、ベースブースターが内蔵されている円筒がハウジングに対しダイナミックに嵌合しています。円筒上部には空気を取り込む入口が特徴的に配置されており、ここから取り込まれた空気がハウジング内部に送り込まれます。さらにハウジングやブースターには耳の形状を避けるように勾配がついています。それにより装着性は一段と向上しました。
この構造にすることで、装着性や音質を犠牲にすること無くサイズを抑えることが出来ました。そしてなにより、このEXTRA BASS最新機種の上・下モデル統一のアイコンにすることが出来たのです。
特にこの重低音カテゴリーにおいては他社とは違うキャラクター性を前面に押し出すデザインが必要だと考えていました。このような必然から生まれたこの形状は重低音というカテゴリーで新しいアイコンになったと思います。
――XB70の場合、円筒の終端にメッシュを配してこだわっていますね。
八重樫 「はい、このメッシュ周りはXB70において特にこだわった部分です。このようなディティールを加えてやることで機能的でありつつ、どこか管楽器を思わせる造形になったのかなと思います。」
重低音インナーイヤーヘッドホンを生み出し現在のブームを築いたソニーだが、最新のEXTRA BASSで一歩早く集団を抜け出した。ドライバーユニットの口径をむやみに大きくするのでなく量と俊敏さを兼ね備えた新時代の重低音インナーイヤーヘッドホンを初めて世に問うた。XB70、50の低音にはドロドロした演出や誇張がない。聴こえるのは鮮度。楽曲の低音の表情にどこまでも寄り添っていくレスポンスと豊かなニュアンスがある。そして同時に万人が納得する快適な装着性をも手に入れたのである。インナーイヤーヘッドホンはオーディオの技術が凝集する小宇宙である。超新星XB70、50はその中心で一際強く輝く。