WM1Z/WM1A Project Member’s Voice 目指したのは、アーティストの想いまで伝わってくる高音質
ZXシリーズを超える、ウォークマンの新たなフラッグシップとして誕生した「WM1シリーズ」。理想のポータブルオーディオを追求し、制約のない環境で一から作り上げた開発メンバーに、フルデジタルアンプへの強い想いやチャレンジングな筐体設計の内幕、そしてエンジニアとしての細部にわたるこだわりを聞いた。
3年越しのこだわりが結実したキーパーツを搭載。目指した音への架け橋に
佐藤 浩朗[音質設計]
これは本当にウォークマンのために作られたとでも言いたくなるような代物です。ZX1の開発が終わってから、パートナーさんと据え置き型アンプの音質設計チームに仕上げてもらった部品なのですが、試作品が届くたびに音をチェックしながら、3年がかりでどんどんブラッシュアップされていく過程を一緒に確認させてもらいました。
ボーカルの伸びや透明感、力強さといったものを全て兼ね備えるために、ものすごく細かい調整を最後の最後までお願いしてベストなクオリティーに仕上げていただいた、思い入れの強いパーツですね。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
我々が目指していた音の方向性のひとつ、ナチュラルでアコースティックなサウンドにこのコンデンサーが非常にマッチしました。
佐藤 浩朗[音質設計]
今回一新した「S-Master HX」との相性が本当に良くて、これがなかったら……と思うとゾッとしますね。
吉岡 克真[電気設計]
実はWM1ZとWM1Aで、このコンデンサーが使われている数が少々異なるのです。基板のB面(バランス)側は同数ですが、WM1AのA面(アンバランス)側にはいくつか「OS-CON」も使用しています。
佐藤 浩朗[音質設計]
やはり筐体によって音の質が異なるのと、インタビュー冒頭のコンセプトで商品企画からの話に出たように、WM1ZとWM1Aで音の方向性が違うので、そのチューニングをしていく過程で搭載数に差が生じました。
* “OS-CON”はパナソニックの登録商標です
佐藤 浩朗[音質設計]
新しい「S-Master HX」の半導体(CXD3778GF)とほぼ同じサイズなんですよ。
吉岡 克真[電気設計]
通常は1ミリ角ぐらいのものを使うのですが、今回は5ミリ角ほどのものを3個も載せています。コストもかなり嵩むのですが、そのぶんノイズを除去する能力に優れているので迷わず採用しました。
吉岡 克真[電気設計]
例えばアンプで5ボルトの電気が必要なときに、まず電池の電圧から7ボルトぐらいまでスイッチング電源で昇圧するんです。その後、このレギュレータでノイズを取りながら5ボルトに下げます。
吉岡 克真[電気設計]
そうですね。4ボルトの電気を、わざわざ一旦7ボルトまで上げてから、目当ての5ボルトに下げるという過程でスイッチング電源に含まれるノイズを除去しています。電圧変換する回数が増えるのでそのぶん電力を消費してしまい、バッテリーの持ちには多少影響するのですが、あくまでも音質を優先しました。
佐藤 浩朗[音質設計]
ZX2の7ミリ角から、コイルの線径を太くしてさらに大型化しました。これによって出力が上がるとともに、全周波数帯域にわたって音の解像度感が向上します。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
この大型コイルもそうですし、さきほどのヘッドホンジャックやコンデンサーもそうなのですが……ずっとZXシリーズを作ってきたこともあって、部品パートナーさんたちが積極的に協力してくださり、専用とは言えないものもありますが、おかげさまでウォークマンの音質を追求するパーツが本当に増えてきているなと感謝しています。
佐藤 浩朗[音質設計]
消音時は電磁作用で接点が開いて、音が鳴るときにまたカッチンと閉じる機械式リレーです。
吉岡 克真[電気設計]
電源を入れるときなど、さまざまケースで発生するノイズを耳に伝えないように、ソフトウェア制御で頻繁に接点を開閉します。
佐藤 浩朗[音質設計]
これまでも通常より大きいトランジスタを使っていたのですが、やはり聴き比べると音質差は歴然としていました。PHA-3で使っているものに近いビッグサイズなのでメカ設計にはまた迷惑をかけましたが、バランス出力時の音質を優先してここは強く推しました。
佐藤 浩朗[音質設計]
これは据え置き型のホームオーディオに搭載している部品で、その開発当時から音を聴かせてもらっていたので、WM1Zにもぜひ採用したいとずっと思っていました。というのも、非磁性体の銅メッキを特別に使っているので、非常に素直なサウンドになるからです。WM1Zの柔らかくて伸びがあって、艶っぽい音にすごく効いていて、狙い通りの結果になりましたね。
吉岡 克真[電気設計]
以前のサイズは3.2mm×2.5mmでしたが、今回は5.0mm×3.2mmとかなり大型化しました。このチップの中には水晶片とICが入っているのですが、大きくなったぶんスペースに余裕があるので、ICの雑音を受けにくいレイアウトが可能になり、より低位相ノイズな発振器となりました。また、新しい「S-Master HX」に合わせて、発振周波数が2倍になっています。
吉岡 克真[電気設計]
CPUやメモリーから生じるデジタルノイズの影響を受けないよう、オーディオとデジタルを上下に分けて、さらにアンバランスとバランスも表裏(A面/B面)で完全に分離するよう設計しました。
吉岡 克真[電気設計]
WM-PORT経由で行き来するラインアウト/ラインインのアナログ信号はもう通っていません。アナログ信号を通すと、デジタルブロックにアナログ用のグラウンドを持たなければならず、そうすると音質に影響が出るので今回は完全に取り去りました。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
ソニーがKIMBER KABLE社と協力してヘッドホンケーブルを開発していく中で、ウォークマンの内部配線にも使えるサイズのBraid(編み)構造のケーブルが開発されたため、WM1Zの内部配線で、バランス出力にもアンバランス出力にも使用することに踏み切りました。
これによってアンプの根っこからヘッドホンジャックまで……さらに別売のヘッドホンケーブルを接続すれば、耳元まで全部Braid(編み)構造のケーブルで通すことができるわけです。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
「Engineered with KIMBER KABLE」特有のBraid(編み)構造が持ち合わせている音の特性が、WM1Zに抜群に合っているんです。例えば、高周波レンジまでインピーダンスがフラットに伸びているので、残響音や余韻などを非常によく再現できる点が大きなメリットです。
漆原 映彦[商品企画]
実際にアメリカまで行って、中身を見せて音を聴いてもらったら、KIMBER KABLE社の方たちも「我々のケーブルがプレーヤにまで進出したか!」と非常に喜んでくれました。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
私も同行したのですが、皆が「この音質すごいぞ」「突き抜けたことをやりやがって!」と盛り上がってくれて、フロアがちょっと騒然としましたね。
ウォークマンWM1シリーズ
NW-WM1Z / WM1A
「音」に込められた想いまで、耳元へ