WM1Z/WM1A Project Member’s Voice 目指したのは、アーティストの想いまで伝わってくる高音質
ZXシリーズを超える、ウォークマンの新たなフラッグシップとして誕生した「WM1シリーズ」。理想のポータブルオーディオを追求し、制約のない環境で一から作り上げた開発メンバーに、フルデジタルアンプへの強い想いやチャレンジングな筐体設計の内幕、そしてエンジニアとしての細部にわたるこだわりを聞いた。
「音作り」のストーリーを真正面から受け止めたデザイン
田中 聡一[デザイン]
あくまでも「音ありき」なので、WM1シリーズには造形を優先したコンセプトは全くありません。開発の初期段階から一緒に作業をしていく中で、どういう音作りをしているのかを共有していたので、設計チームの考え方をすべて素直に形にした結果がこのデザインです。要するに、今回のインタビューでエンジニアが語ってきたストーリーがそのままデザインコンセプトになります。
田中 聡一[デザイン]
WM1シリーズは、本体下部のメモリーからヘッドホン出力まで信号がストレートに流れるような回路構造にしたので、ヘッドホンジャックが一番上にくるレイアウトになりました。ですが、それによって本体上部にあるアンテナスペースが減り、十分な特性が取れなくなるという問題が生じたのです。
不足分のスペースを作るために本体上部を20mm伸ばす案も提示されましたが、縦に長くするとタッチパネル液晶の位置が下がり過ぎてしまうなど、使いづらさにつながることを懸念してジャック部のみを左右に少し広げる案を選びました。
田中 聡一[デザイン]
ZXシリーズの背面のふくらみと一緒で、音質を優先した設計に沿ってデザインしたら、結果的にアイコンになったというわけです。なお、このジャック部から操作部にかけて削ぎ落とすようなカットを加えることで使い勝手や持ちやすさに配慮しています。
田中 聡一[デザイン]
デザインするにあたって、経年でのすり減り等を防ぐために「エッジの角張った部分をなくすように」とメカ設計からリクエストがありました。
すでに話にあった通りWM1シリーズは金属素材のブロックから削り出した切削筐体なので、その気持ちよさが伝わるように稜線はしっかり出したい。でないと切削ではなく成型筐体のように見えてしまうから……。でも直角のエッジにしてしまうと、ぶつけた時などにつぶれやすくなり、握ったときには手に鋭く当たって持ち心地が悪くなってしまう……。
そのジレンマの中で見出した解決策が、いったん全ての角に優しい丸みをつけて、その丸みを途中からスパッとカットした造形仕上げです。これにより、綺麗なエッジを残しつつ、角が130度相当になる面構成の、傷つきにくく持ちやすいフォルムに仕上がりました。
田中 聡一[デザイン]
WM1シリーズは重量の関係で落下した時の衝撃が大きいので、ボタンが出っ張らないようにフラットにして、押しやすく大きめのサイズにしました。また、「再生/停止」ボタン上など計3箇所に小さな突起を付けて、バッグやポケットの中でも迷うことなく操作できる作りにしてあります。
さらに、よく使う「再生/停止」「音量+」「音量−」ボタンの周辺にはザグリ加工を施しました。この凹みがあることによって、フラットだけど触感的に区別がつきやすくなったと思います。
田中 聡一[デザイン]
ハードウェアボタンやヘッドホンジャックのレイアウトの関係でオープンにしなければならない面が増えたので、必然的にこのスタイルになりました。
せっかくなので細かい話をしますと、ストラップホールの真下とmicroSDメモリーカードスロットの指掛かりの2箇所の凹みを確保できたから、今回は首尾よく背面以外の全面オープンでケースを装着できる仕様が実現したんですよ。
田中 聡一[デザイン]
この仕事を長くやっていると痛感するのですが、開発メンバー間でスペースの取り合いが起こるのが常なんです。そして、キャリングケースなど別売アクセサリーのデザイン依頼って、開発の終わりのほうのタイミングにくるんですよ。
そうなると「時すでに遅し」の状態で、100%自由に装着方法を検討できなくなってしまい……自分が追い詰められることが多々あるのです(笑)。
幸いにして、このWM1シリーズは構造決定前からミーティングに参加していたので「筐体をつかんでケースを固定するための凹みは、すぐに確保しないとまずいな」と思い、早くからメカ設計にリクエストしたというわけです。
メカ設計は、電気設計からもデザイナーからもプレッシャーをかけられて板挟みになって、本当にかわいそうなぐらい彼らにはスペースがないのですが……こちらがちょっと油断すると「空いていますよ」と聞いていたスペースが3日後にはもう埋まっていたりするので、今回は心を鬼にして強くお願いしました(笑)。
田中 聡一[デザイン]
このリモコンは新しいAシリーズにも対応しているので、そちらともテイストが合うように、そして剛性を高めるためにサイドに少し丸みをもたせつつ全体的にはフラットなデザインにしてあります。また、透明素材には切削加工の板材を使い、本体の塗装には細かいビーズを混ぜ合わせた良触感型塗装を施して、しっとりした触り心地に仕上げています。
きっとヘッドホンケーブルに装着して使われるお客さまが多いと思うので、さまざまな太さのケーブルに対応できるようにアタッチメントを2種類同梱しました。もちろん、クリップのようにポケット等に留めることもできますよ。
漆原 映彦[商品企画]
やはり、今回のWM1シリーズはZXシリーズに比べて重くなったということがリモコンを作った理由のひとつです。ポケットに入れる以外に、バッグの中などに入れたまま持ち歩くシーンがどうしても多くなると思うので、そういった場合にはリモコンがあったほうが絶対に便利ですよね。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
そうですね。特に無酸素銅筐体のWM1Zは約455gとだいぶ重くはなったのですが……ポータブルヘッドホンアンプを介さずにウォークマン単体で使えるという取り回しの良さは、大きなアドバンテージだと自信を持って言えます。
確かに重いけれども高さはZX2より7mmほどコンパクトになっていて、これまではポタアンが必要だったインピーダンスの高いヘッドホンも単独でドライブできて、バッテリーは断然持つし、ケーブルもL型1本だけで済むというのは非常に魅力的ですよね。もちろん、ポタアンにはポタアンの良さがあるので単純には比較できませんが。手前味噌ながら単体運用でここまでのクオリティーを実現できたことについては……バランス接続を含め体験できる音質がZX2の世界からぐんとレベルアップしているので、我々としては大きなブレークスルーだと思っています。
漆原 映彦[商品企画]
開発メンバーのこれまでのコメントを総括すると、「あらゆる点がすべて音につながっている」ということになると思います。筐体設計もオーディオ回路に搭載したパーツも、ソニーが現時点で持っている高音質技術を全部つぎ込んでポータブルオーディオに集約した結果がこのWM1シリーズになるので、自信をもって皆様にお薦めできます。発売をぜひ楽しみにしていてください。
佐藤 朝明[プロジェクトリーダー]
私はZX1からZX2、そして今回のWM1シリーズまでウォークマンのフラッグシップモデルのプロジェクトリーダーを毎回やってきているのですが、今回の2つのモデルはZXシリーズが成し遂げてきた進化からかけ離れた大幅なジャンプアップができていると自負しています。
ZXシリーズの開発を通して我々エンジニアも経験を積んできて、ZX2のときには十分でなかった、この部分は他に負けているな……と思っていた課題をすべてクリアしてきました。そういった意味で、ポータブルオーディオとしてWM1シリーズはひとつの到達点に辿り着いたかなと思います。
そのぶんコストもかかっていて、特にWM1Zは30万円前後とちょっと異常な価格という見方もあるかもしれませんが、コスト度外視で我々が持っている音質技術を量産可能な限界まで詰め込んでみました。実際に聴いてみると体験できるレベルがZX2から飛躍的に上がっているので、ぜひ試聴機等でこの音を体感していただきたいです。
佐藤 浩朗[音質設計]
バランス接続やDSDネイティブ再生など、今や常識となっている機能に今回やっと対応できたのですが……我々としてはただ対応するだけでは不十分だと考えていて、それらのスペックに見合った音質になるよう頑張って作り上げたつもりです。本当にZX2からずいぶん進化したので、皆さんWM1シリーズの音に驚かれると思います。特に広がりと余韻がものすごく良くなっているので、ぜひお好きなヘッドホンで楽しく聴いていただければ嬉しいです。
吉岡 克真[電気設計]
今回は一新された「S-Master HX」を使って、ZXシリーズを飛び越えたモデルが2つできました。このインタビューでもたくさんお話させて頂きましたが、まだまだ伝えきれていない部分もあると思うので、実際に手に取って触ってほしいと思います。きっと、持った瞬間にその凄さが伝わるはずです。
それと、別売のリモコンも私が担当したので、ぜひ併せてご使用いただいて、便利で快適な使い心地にご満足いただければ幸いです。
石崎 信之[メカ設計]
ZXシリーズの開発で積み重ねてきたノウハウを生かしながら、筐体やパーツの素材の純度をさらに上げることに挑戦したのが今回のWM1シリーズです。WM1Zの無酸素銅もWM1Aのアルミも、素材の純度の高さというものが音にストレートに表れているので、その筐体と音質の密接なつながりをぜひ感じていただきたいですね。
原田 紀[ソフト設計]
今回のWM1シリーズでは、ソフトウェアも一から作り上げました。その中で「音の見える化」というテーマにもこだわり、スペクトラムアナライザーやアナログレベルメーターなどのUIを搭載したので、聴くだけではなくどうぞ目でも楽しんでください。
操作面に関しては、これまでのウォークマンユーザーの方は最初すこし戸惑いを感じるかもしれません。でも慣れていただくと、逆にこっちのほうが使いやすいなと感じてもらえるはずです。試聴機が店頭に並びましたらぜひタッチ操作していただき、気に入ってもらえたらエンジニアとしてこれ以上の喜びはありません。
田中 聡一[デザイン]
試聴機を借りて音を聴いた瞬間に、「すごいな!これ」と本当に驚いたんです。今まで何度も聴いてきた曲でも、歌い手の気持ちが入りすぎて最後はちょっと震えるようなビブラートが初めて聴こえてきたりして……。いい音というだけでなく、歌手やミュージシャンの感情や想いが伝わってくるような音質なんですよね、WM1シリーズは。
同じクリエイターとして、作品や製品に込めた想いが受け手にしっかり伝わるというのは、すごく良いことだなと改めて思いました。お客さまにも、お気に入りのアーティストの曲を聴きながらそういった瞬間を味わっていただければと思いますし、まさにそれこそが我々がこのウォークマンに込めた想いなんですよね。
ウォークマンWM1シリーズ
NW-WM1Z / WM1A
「音」に込められた想いまで、耳元へ