ソニー独自の360立体音響技術を活用した「360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)」が今春、いよいよ国内本格展開をスタートします。『SRS-RA5000』と『SRS-RA3000』は、この新しい音楽体験を手軽にお楽しみいただける新コンセプトのワイヤレススピーカー。ワンボックス形状でありながら立体的に音を響かせ、空間を音で満たすというこれまでにない音楽体験が楽しめます。
MEMBER
自宅での音楽体験を
楽しく豊かなものにしてくれる
全く新しい
ワイヤレススピーカーが登場
新型コロナ禍を受け、これまでよりも長い時間、自宅で過ごすようになりました。この状況はもうしばらく続くことになりそうです。そんな中、注目を集めているのがスピーカーを使った音楽再生。この春発売されるホームオーディオ新商品『SRS-RA5000』『SRS-RA3000』は、こうした音楽スタイルの変容にジャストフィットするワイヤレススピーカーです。
まずは、昨今のホームオーディオを取り巻く状況について教えてください。今、音楽は家庭でどのように聴かれているのでしょうか?
荻野:この製品の企画がスタートしたのは2017年ごろで、実はかなり時間をかけて取り組んできたプロジェクトなのですが、その時点で音楽の楽しみ方に2つの新しい傾向が現れ始めていました。
1つがストリーミング音楽配信の台頭です。従来の音楽コンテンツはダウンロードするか、あるいはディスクという形で持ち歩くものだったのですが、この頃からネット上にある音楽をストリーミングで聴くというスタイルが定着しはじめました。現在はその状況がさらに進み、多様な音楽をより手軽に入手できるようになっています。
そしてもう1つがアメリカを中心にスマートスピーカーの普及が始まったこと。これによって、音楽を自分だけでなく、家族みんなで共有して聴きたいという人が増えました。リビングでの団らんのひとときや、キッチンで家事をしているときなど、より生活の一部として音楽を楽しむようになったのです。
こうした傾向は2020年の新型コロナ禍以降大きく加速。今回お話しする『SRS-RA5000』『SRS-RA3000』は、そうした状況にとてもマッチする製品となっています。
『SRS-RA5000』と『SRS-RA3000』は、新しいライフスタイルにマッチしたホームオーディオ製品ということなんですね。
荻野:その通りです。広いリビングで、皆が同じように音楽を楽しめるものを作れないかということから企画がスタートしています。ポイントは、部屋中に音楽を響かせるというところ。しかもこれを本格的なオーディオシステムではなく、ワンボックスのスピーカーで実現するということを目指しました。そして、もう1つ重要だったのが「360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ)」を再生できるということです。
「360 Reality Audio」とは一体どういうものなのでしょうか?
荻野:「360 Reality Audio」は、ボーカルや楽器などの音源1つひとつに位置や角度などの情報をつけて記録・再生するオブジェクトオーディオという技術を使った立体音響システムのこと。あたかも音楽に包み込まれているような、没入感のある音楽体験を楽しめるのが特長です。
ソニーは2019年から欧米を中心にこの仕組みの普及を推し進めてきましたが、この春からは日本国内でも本格的に提供を開始しました。Amazon Music HDやDeezer(ディーザー)、nugs.net(ナグズネット)といったストリーミングサービスで、邦楽アーティストの楽曲を含めた4,000曲以上の「360 Reality Audio」コンテンツが配信されます*。
* ストリーミングサービスごとに配信楽曲、再生可能機器が異なります。
『SRS-RA5000』と『SRS-RA3000』のポイントは、ワンボックスのスピーカーで部屋中に音楽を響かせ、しかも立体的に聴かせることだとおっしゃいましたが、実際問題、そんなことができるのでしょうか?
三浦:この企画が立ち上がってすぐ私のところに相談があったのですが、当初はそんなことはできない、無理だと思っていました(笑)。でも、いろいろ試していく中で、音を上や横に飛ばし、天井や壁などに反射させることで音が立体的に聴こえるように、広い音場を感じられるようにできるのではないかというアイデアに行き着きました。
それはすごい発想ですね!
三浦:ただ、実際にやってみるとそんな簡単な話ではなく、音が立体的に聞こえるようになるまではかなりの試行錯誤をしています。例えば音を上に飛ばしただけだと、音場は広がるものの、上方から音がするような感覚が得られません。スピーカーから直接飛んでくる音のせいで、天井からの反射音が認識しづらくなってしまうんですね。そのため、できるだけ指向性の狭いスピーカーを準備したり、組み込むスピーカーユニットの配置や形状を工夫するなどして、少しずつ立体的に聞こえるよう改善していきました。
今回、形状の異なる『SRS-RA5000』と『SRS-RA3000』の2モデルがラインアップされています。それぞれの製品の位置付けを教えていただけますか?
荻野:冒頭でアメリカ市場のお話をさせていただきましたが、アメリカのリビングルームってすごく広いんですね。また、日本でもリビングとダイニングがひとつなぎになったような、広いリビングの住宅が増えつつあります。『SRS-RA5000』は、そうした広い空間でもしっかりと立体音響を楽しめるようにしたモデルです。対して『SRS-RA3000』は、家のいろいろなところで音楽を楽しみたいというニーズに注目したモデル。比較的コンパクトサイズなので、リビングだけでなくベッドルームや書斎、キッチンなど、好きな場所に手軽に持ちはこぶことができます。
我々はこうした、空間を音で満たす音楽体験を「Ambient Room-Filling Sound(アンビエント・ルームフィリング・サウンド)」と名付けています。
開発者インタビュー
SRS-RA5000
広いリビングを
リッチなサウンドで包み込む
『SRS-RA5000』
ワイヤレススピーカー『SRS-RA5000』は、リビングなどに設置しやすいワンボックスボディで立体音響を再現するすぐれもの。パワフルな6.1chシステムが広いリビングの隅々にまで迫力ある、それでいて繊細なサウンドを響かせます。そのこだわりの設計について開発を担当したエンジニアたちに訊いてきました。
7基の高性能スピーカーで
全方位にサウンドを放射
『SRS-RA5000』は広いリビングでもしっかりと立体的なサウンドを楽しめる製品とのことですが、そのために具体的にどういったことをやっているのでしょうか?
簗(やな):わかりやすいところとしては、スピーカーユニットを全部で7基使っています。水平方向に音を飛ばすスピーカーを3基、上方向に飛ばすスピーカーを3基、そして下方向にサブウーファーを配置した構造です。サイドとトップで使っているスピーカーユニットはサウンドバー上位機種で採用されているものをベースにしており、ハイレゾ帯域まで対応する、極めて解像感に優れ、サウンドの細部まで表現するユニットです。これをそれぞれ120度間隔で配置しています。
一体型ボディの中に、7基ものスピーカーが内蔵されているんですね。
簗:はい。ただ、単に高性能なスピーカーを搭載すればいいという話ではなく、その音をどのようなバランスでブレンドするかの見極めがとても大変でした。例えば空間のある位置から音が聞こえてくるようにしたいと思った時、主にトップのスピーカーを使うか、それともサイドを使うか、その割合はどれくらいが適正なのかを詰めていかねばなりません。あちらを立てるとこちらが立たずというトレードオフに苦しめられながら、信号処理担当の齊條(さいじょう)と試行錯誤を繰り返していきました。
齊條:『SRS-RA5000』の信号処理でこだわったのは、楽曲データが持っている情報量を損なうことなく出力できるようにすることと、どのような環境でもしっかりと立体的なサウンドを楽しめるようにすることです。
それを両立させるために音をどのように処理すれば良いのか、さまざまな組み合わせを試し、最も製品の世界観を引き出せるものを選んでいくかたちで詰めていきました。この際、理想的な環境で鳴らした時の音と、制約の大きな環境で鳴らした場合の音の違い、さらにそこから様々な条件を鑑みて細分化した組みあわせがあったのですが、最終的には理想的な環境でも、そうでない環境でも最高のパフォーマンスを引き出せるかたちを見つけだすことができたと思っています。
簗:ただ、その道のりは険しく、ベストな解を見つけだすまでになんと1年近くも費やしています。これだけ時間をかけて製品を作り込んだのは初めてだと思いますね(笑)。
今、制約の大きな環境で鳴らした場合のお話が出てきましたが、そうした環境下でもより良い音で音楽を楽しめるようにするための工夫についても教えてください。
齊條:ワンボックスタイプのスピーカーではこれまでやっていなかった新しい試みとして、サウンドキャリブレーション機能を搭載しました。これは購入後初めて電源を入れたときに自動で置かれている環境を測定し、適切な音のバランスに補正してくれるというものです。本体の「♪」ボタンを2秒以上タッチすることで再測定することもできます。
サウンドキャリブレーション機能では具体的にどんなことをやっているのでしょうか?
齊條:サウンドキャリブレーション機能は内部的には2つの要素で構成されています。1つは周波数応答の補正で、設置場所によって変わってくる低域のバランスをきれいにならしてあげる技術になります。これを行うことによって例えば本体が壁の近くに置かれたとしても、低域だけが不自然に強調されたブーミーな音になることを防ぎ、スッキリとしたサウンドで立体音響を楽しむことができます。
もう1つは周囲の環境を識別しその情報を元に補正するものです。『SRS-RA5000』は7基のスピーカーが全て異なる方向を向いており、音の反射も積極的に活用して立体的に音を響かせる製品なのですが、それは裏を返すとスピーカー周囲の音を反射するものに対して極めてセンシティブであるということ。そこで、あらかじめ周囲の状況を測定することで出す音を最適化し、反射の悪影響を最低限に抑えています。
どんな環境でも最適な立体感を味わえるよう、スピーカーが自動で音質を調整してくれるというのはうれしいですね。ちなみに、最も望ましい、理想的な置き場というのはどういった環境なんですか?
齊條:サウンドキャリブレーション機能がしっかりと補正しますので、どこにでも置きたい場所に置いてくださいと言いたいところなのですが、もし可能なのであれば、壁面から少しだけ離していただけると、よりバランスの取れた「Ambient Room-Filling Sound」を楽しんでいただけると思います。
あらゆる音源をリアルに立体化する
『SRS-RA5000』サウンド
あらゆる音源を
リアルに立体化する
『SRS-RA5000』サウンド
ではここで、一度『SRS-RA5000』のサウンドを実際に聴かせていただけますか?
簗:承知しました。ではまず「360 Reality Audio」楽曲をお聴きください。
これは……何と言うか、未体験の感覚ですね! スピーカーから音が出ているというよりも、実際に音楽を演奏している場所にいるような感じがします。仕組み的に音が上から降ってくるような感じなのかと想像していたのですが、そういう不自然さはなく、音の詰まった空間の中にいるような気持ちよさがあります。
また、そしてそれでいて音がクリアなのがすばらしいですね。お風呂場のような狭い空間で音を響かせているのとは全然違う音楽体験だと感じました。
齊條:ありがとうございます。「Ambient Room-Filling Sound」ということで、まず音の広がり感を重視したのですが、一方で音の美しさ、クリアさも損なわないように気を使っています。広がり感を感じていただきつつ、抜けのよさも味わっていただければ。
ちなみにこの製品で、「360 Reality Audio」ではない、通常の音楽を再生した場合はどうなるんですか?
荻野:『SRS-RA5000』、そして『SRS-RA3000』の重要な機能の1つとして、「Immersive Audio Enhancement(イマーシブ・オーディオ・エンハンスメント)」という機能が搭載されており、これによって通常の2ch音楽も立体的で広がりのあるサウンドで楽しんでいただけます。
簗:これも実際に聴いてみていただいた方が早いですね。ボタン操作でON/OFFできるので違いを聴き比べてみてください。
おおっ、ONにするとサウンドが急に上下左右にウワッと広がりますね!! 音のクリアさは損なわないまま、サウンドがすごくぶ厚くなるというか。「360 Reality Audio」の自然な感じとはまた少し味わいの異なる、すごく楽しい音という感じです。これ、手持ちの楽曲を全部、この環境で聴き直したくなりました。
簗:そう言っていただけるとうれしいです。
荻野:なお、『SRS-RA5000』には、対応するブラビア*とBluetooth接続することで低遅延でテレビの音声を再生できるようにする「ワイヤレスTV接続」という機能も用意しています。対応する製品をお持ちの方には、こちらもぜひお試しいただきたいですね。音楽ライブ番組などを『SRS-RA5000』の世界観でお楽しみいただけます。
* 対応機種はこちらを参照。
その他、『SRS-RA5000』の開発においてこだわったこと、苦心したことはありますか?
架間(かけま):この製品は、三浦が基本的な構造を作り込んだ後、私がプロジェクトリーダーとなって商品設計をスタートさせているのですが、当初はサイズがあまりに大きくなりすぎてしまい、これをどのように小さくしていくかに苦労しました。
サイズを小さくするためにどんな工夫をしましたか?
架間:トップとサイドの6基のスピーカーユニットは、3方向に配置しながらもセット自体をギュッとコンパクトにまとめ、さらに駆動力も十分に確保できるよう、小型ネオジウムマグネットを採用しています。先ほどもお話があったよう、このユニットはハイレゾにも対応したサウンドバー上位モデル向けとして開発されたものがベースですが、このコンパクトなスピーカー用に新たに改良しました。音を広げる効果を得るための駆動力や、音色に要求される条件が高く、それ故に極めて高性能で、音響性能の向上にも寄与できるものに仕上げる必要がありました。『SRS-RA5000』では体積のほとんどが音響のために使われており、電気部品などは底部のわずかな隙間に押し込まねばなりませんでした。
齊條:ちなみにこれが『SRS-RA5000』のメイン基板です。この狭いスペースに6.1ch分のアンプなどを収めるのはなかなか大変でしたね(笑)。
ところで『SRS-RA5000』はかなりインパクトのある、これまでのソニー製スピーカーでは見たことのない形状をしていますが、これもなにか音響的な理由があったりするのでしょうか?
架間:当初はもっとスッキリした、コンサバティブなデザインも検討していたのですが、全く新しいコンセプトの製品なのだから、しっかりと音響構造が分かるデザインにするべきだろうということで、トップの3つのスピーカーが大きなグリルで強調し、サイドについても窪んだ形状にするなどして、この製品の持つ特性を暗に伝えるような形状にしています。
『SRS-RA5000』ならではの
リッチな音楽体験を“感じて”ほしい
『SRS-RA5000』ならではの
リッチな音楽体験を
“感じて”ほしい
同じ「360 Reality Audio」認定製品ながら、全く特徴、構造の異なる『SRS-RA5000』と『SRS-RA3000』。ここでは改めて『SRS-RA5000』がターゲットとするユーザー像を教えてください。
荻野:『SRS-RA5000』は自宅で家族や友人と一緒に迫力ある立体音響で音楽を楽しみたいという人をターゲットにしています。ぜひご自宅のリビングに置いて、皆でお気に入りの音楽を共有してみてください。
そして、この春から本格的に国内展開する「360 Reality Audio」ですが、具体的にはどういった施策を予定されていますか?
荻野:既に配信を開始しているAmazon Music HDに加え、4月16日より、新たにDeezer(ディーザー)、nugs.net(ナグズネット)といったストリーミングサービスから、著名な邦楽アーティストの楽曲を含めた4,000曲以上の「360 Reality Audio」対応コンテンツが配信されます。もちろんその後も様々なジャンルの楽曲を増やしていきたいと思っています。そして、この記事が掲載されるころにはYOASOBIの『群青』を「360 Reality Audio」で収録した音源をスマートフォン向け音楽プレイヤーアプリ「Artist Connection」向けにショートバージョンの無料配信。店頭ではフルバージョンも試聴できるようになっていますので、ぜひお試しください。
最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
三浦:『SRS-RA5000』はこれまでに例のない、全く新しいコンセプトのスピーカーになっています。新しい世界観を実現できている製品だと思いますので、まずは店頭などで体験して、感じてみていただきたいと思っています。
荻野:冒頭から、上から音が聞こえてきます、左右に音が広がりますというお話を何度もさせていただいているのですが、こういう体験をしようと思うと、天井スピーカーを含め、いくつものスピーカーを設置し、かつ複雑な設定をする必要がありました。しかし、『SRS-RA5000』なら、リビングにぽんと本体を置くだけで簡単に包み込まれるようなサウンド体験を味わえます。この気持ちよさを皆さんのご家庭でも満喫していただきたいですね。
簗:私個人はこの『SRS-RA5000』は、空間を変えたり、場を変えたりするスピーカーシステムだと考えています。音を「聴く」というより、そこに音があることを「感じる」製品を作れたのではないかと自負しています。
齊條:あえて他の皆さんと違った視点で言うと(笑)、私自身はユーザーの皆さんが、製品の特性をあえて意識することなく使えることに腐心してきたので、変に気負わず、自然なかたちで楽しんでいただければと思っています。そうして使っていただいているうちに、我々が実現しようとしている世界観を何か感じ取っていただければとてもうれしいです。
架間:『SRS-RA5000』は「360 Reality Audio」の再生と共に、「Ambient Room-Filling Sound」という体験を広く多くの人に味わっていただきたいという気持ちが強くあります。やや目を引く個性的な形ですが、意外とお部屋に馴染むデザインになっているので、新しい体験を楽しんでいただきたいですね。
開発者インタビュー
SRS-RA3000
コンパクトボディでどこでも
立体音響を楽しめる
『SRS-RA3000』
片手でサッと持ち運べるサイズの『SRS-RA3000』は、毎日、家中いろいろなところで楽しんでほしいワイヤレススピーカーです。『SRS-RA5000』とは異なるコンセプトで開発されたこのモデルには、小さなボディで立体的なサウンドを実現するためのアイデアが盛りだくさんに詰まっていると、開発を担当したエンジニアたちが語ります。
小さくてもしっかりと
「360 Reality Audio」の世界観を再現
小さくてもしっかりと
「360 Reality Audio」の
世界観を再現
コンパクトな『SRS-RA3000』についてもお話を聞かせてください。サイズだけでなく、形状も『SRS-RA5000』と大きく異なっていますが、内部構造的にはどのような違いがあるのでしょうか?
関:『SRS-RA5000』は計7基のスピーカーが組み込まれているのですが、『SRS-RA3000』は出来る限りコンパクトなサイズを実現する為、スピーカーの数は計3基となっています。
ただ、それによってサウンドが物足りないものになってしまわないよう、いろいろな工夫をしています。例えば低域の増強についてはパッシブラジエーターを用いることで、小型でありながらも豊かな低音を出せるようにしました。
高域に関してもビームトゥイーターという『SRS-RA5000』にはない構造を採用することで、効果的に「360 Reality Audio」の世界観を演出できるようなかたちとしております。
ビームトゥイーターとはどういったものなのでしょうか?
三浦:簡単にいうと、たくさんの孔(あな)が空いた筒をつけたトゥイーターです。トゥイーターを鳴らすと筒の中を音が伝わっていき、進行方向に向かって音が孔から漏れ出すことで指向性を持った波面を生成します。これを上方向に向かって2本内蔵することで、音を天井で反射させ、立体的な音の広がりを生み出します。
このアイデアはソニー独自のものなのでしょうか?
三浦:理論としては一般的なもので、他社製品にも同様の仕組みで音に指向性を持たせたものがいくつか存在します。ただ、筒上の孔の配置や形状についてはソニー独自の工夫を多数盛り込んでおり、結果的に放射音圧を高め、より高い周波数までの音をビーム状に放射できるようにしています。
関:なお、このビームトゥイーターをどのように本体内部にマウントするかもポイントの1つ。この製品では、本体形状に沿って配置できるよう、若干角度をつけてユニットと筒を接合しているほか、材質などにもソニー長年のノウハウを活用しています。
三浦:また、このビームトゥイーターを効果的に作用させるためには、どの位置にトゥイーターユニットを配置し、どのようにビーム部(筒)に連結し、そこにはどのような材質を用いるべきかなど、今までとは異なる部分が多々ありましたが、そこにはソニーが長年オーディオ技術で蓄積したノウハウが活用されています。
関:そしてその上で、本体中央に直径約80mm口径のスピーカーを上向きに配置。そこに正対する向きに配置したオムニディフューザーで音を360度全方向に拡散させ、広がり感のあるサウンドを実現しています。また、スピーカーの口径を大きく取ることで、コンパクトなボディでもしっかりとした低音が出せるようにしました。
オムニディフューザーは過去のソニー製品でもアクティブスピーカーなどで採用事例がありますが、こちらは何か新しい工夫が盛り込まれたりはしているのでしょうか?
関:過去モデルでの取り組みからオムニディフューザーの剛性を上げることが大事だと分かっていたので、パーツ内部を強固なハニカム構造とし、スピーカーユニットから放射された音を受けたときに、不要な共振が起きて音質に悪影響を与えないように工夫しています。
『SRS-RA3000』は気軽に持ち運んで、
いろいろな部屋で楽しんでほしい
『SRS-RA3000』は
気軽に持ち運んで、
いろいろな部屋で楽しんでほしい
「音」の表現をスピーカーの品質と同じくらい左右する信号処理についても聞かせてください。ハードウェア的にかなり『SRS-RA5000』と異なっていますが、サウンドについてはどのように処理しているのでしょうか?
山嶋:「360 Reality Audio」の音体験を『SRS-RA5000』と比べて少ないリソース量で実現するのはかなり大変でした。特にフルレンジのスピーカーが1基しかないというのはかなり厳しい制約でしたね。
「360 Reality Audio」のようなオブジェクトオーディオ技術は、データを再生機器に合わせて「レンダリング」することで立体的な音を再現します。しかし、実質単チャンネルの『SRS-RA3000』では普通にしただけでは全く立体的な音になってくれないんです。
そこでこの製品では、平場の音と上方の音を一旦サラウンドのかたちにレンダリングしてから、人間の知覚を上手く利用して左右方向にも上下方向にも広がって聞こえるような信号処理を行いました。さらにここにビームトゥイーターの物理的な特性も活かして、3基のスピーカーでも、立体的な音の表現を実現しました。特に工夫したのが、本来、上下方向の音の広がりを出すために搭載しているビームトゥイーターをステレオ感を出すためにも使っていること。本来想定していた使い方ではないため制御が難しかったのですが、微細なチューニングを行うことで、何とかイメージ通りの高さ表現、広がり表現を実現できたのではないかと思っています。
関:こちらもやはり実際の音を聴いていただくのが良いと思いますので、試聴してみてください。
全く構造が違うので音の傾向も異なるのではないかと思ったのですが、しっかりと「360 Reality Audio」の世界観が再現されていますね。その上でステレオ感や、上下左右への音の広がり感は同じクラスのサイズのワンボックスタイプのスピーカーを大きく越えていると思います。
山嶋:『SRS-RA3000』は『SRS-RA5000』と構造が全く異なるので大変だったのですが、音楽体験自体はなるべく同じになるよう、細かくチューニングしています。
ところでこちらにも『SRS-RA5000』と同じく、サウンドキャリブレーション機能が搭載されているのでしょうか。
加藤:はい。『SRS-RA3000』は冒頭でもお話ししたよう、いろいろな部屋で使っていただきたい製品なので、どこでもベストな立体音響をお楽しみいただけるよう、サウンドキャリブレーション機能を搭載しています。ただ、1つ大きな違いがありまして、『SRS-RA3000』では曲を再生中に自動でキャリブレーションを行います。
それは起動するたびにサウンドキャリブレーションが終わるのを待たねばならないということでしょうか?
加藤:いえ、『SRS-RA3000』のサウンドキャリブレーション機能は『SRS-RA5000』と異なり、音楽再生中に動作します。お客様の手を煩わせないかたちで測定を行い、それが終わるとスッとシームレスに補正が適用される仕組みです。
荻野:なお、部屋間の移動を想定した『SRS-RA3000』だけの機能として、防湿設計*も施しています。あくまで防湿なのでバスルームなどでの利用は想定していないのですが、キッチンなど湿度の高い場所でも安心してお使いいただけるようになっています。
* 防水仕様ではないため水辺で使用したり水滴や水しぶきにさらさないでください。また、浴槽やキッチンシンク、洗濯槽、プールなどの近くでは使用しないでください(防湿性能については、特定の温度や湿度の条件に基づいた当社測定によるものです(35°C/35%から95%))
コンパクトなボディに本当にたくさんの工夫が盛り込まれているんですね。
加藤:『SRS-RA3000』はコンパクトサイズを実現する為に非常に音響的な制約が大きく、それをどのように解決して商品化するかが開発チャレンジでしたが、皆の熱意のおかげで、コンパクトながらもしっかりとしたサウンドを楽しめる競争力のあるものに仕上がったと自負しています。
荻野:なお、この本体サイズは、家中で持ち運ぶ気になるサイズがどれくらいか、ヨーロッパと日本でユーザー調査を行う形で決定しています。実際に発泡スチロールを削ってサイズ感を示し、それらの中から選んでもらったんですよ。また、『SRS-RA3000』だけ本体カラーバリエーションがあるのもお部屋のトーンに合わせて選べるようにしたかったから。商品企画の段階で、企画からリクエストを出して、硬派なブラックと、どんな部屋にもマッチするライトグレーの2色を用意しました。
突き抜けた作り込みと
こだわりが生んだ
『SRS-RA3000』の新体験
同じ「360 Reality Audio」認定製品ながら、全く特徴、構造の異なる『SRS-RA5000』と『SRS-RA3000』。ここでは改めて『SRS-RA3000』がターゲットとするユーザー像を教えてください。
荻野:『SRS-RA3000』は『SRS-RA5000』と比べ、パーソナルユースも想定しています。リビングだけでなく、自室や寝室などでも使いたいという人によりおすすめです。もちろん、広いお部屋で家族やお友だちと一緒に音楽を楽しみたいという楽しみ方もできますよ。
そして、この春から本格的に国内展開する「360 Reality Audio」ですが、具体的にはどういった施策を予定されていますか?
荻野:既に配信を開始しているAmazon Music HDに加え、4月16日より、新たにDeezer(ディーザー)、nugs.net(ナグズネット)といったストリーミングサービスから、著名な邦楽アーティストの楽曲を含めた4,000曲以上の「360 Reality Audio」対応コンテンツが配信されます。もちろんその後も様々なジャンルの楽曲を増やしていきたいと思っています。そして、この記事が掲載されるころにはYOASOBIの『群青』を「360 Reality Audio」で収録した音源をスマートフォン向け音楽プレイヤーアプリ「Artist Connection」向けにショートバージョンの無料配信。店頭ではフルバージョンも試聴できるようになっていますので、ぜひお試しください。
最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
加藤:最初に三浦が「こんなものを作ったよ」って試作機の音を聴かせてくれたときのことを今でもよく覚えています。ビームトゥイーターの使い方など、これまでの製品とは全然違うことにとても興奮させられました。これを一刻も早くお客さまにお届けしたいという気持ちが、プロジェクトリーダーとしての大きなモチベーションになっていましたので、やっとお届けできることをうれしく思います。お客さまにとって新しい感動や気付きのようなものがあれば幸いです。
荻野:私も三浦に初めて音を聴かせてもらったときの体験をよく覚えています。これまで長くオーディオ製品に携わってきたのですが、音を聴き、思わず天井を見上げてしまうという体験はあれが初めてでした(笑)。知らない体験ってすごくワクワクさせられますよね。この感動をぜひ皆さんにも味わっていただきたいです。
三浦:開発当初のエピソードを少し補足すると、『SRS-RA3000』はもともと、『SRS-RA5000』の小型モデルを作るというところからスタートしています。ただ、実際にやってみたところ、それだと体験も小さくなってしまうんですよね。そこでビームトゥイーターなどの新技術を盛り込んだ、突き抜けて実験的な試作機を作って、皆に試聴してもらったという流れです。
荻野:満場一致でこっちが良いという結論でしたよね(笑)。
三浦:それでようやくスタート地点に立てたというところはありましたね。新しいものをやるときはやっぱりこういう突き抜けた挑戦をしなければダメだなと改めて思いました。その分、皆には苦労をかけたかもしれませんが(笑)。
山嶋:『SRS-RA3000』ではハードウェアだけでなく、信号処理でもいろいろなチャレンジをさせていただきました。コンパクトな製品ですが、しっかりと立体音響を楽しんでいただけるようになっていますので「360 Reality Audio」はもちろん、従来の2ch音源についても聴き直していただきたいですね。きっと新しい発見があると思います。
関:山嶋の言うように、この製品では立体音響の音源を一旦複数レイヤーのサラウンド音声にレンダリングした上で、機器の構造や人間の知覚特性を活かしながらハイレベルなことをたくさんやっています。そうした処理を実際にどうやって出力して音質バランスを取りながらまとめていくかが私の仕事だったのですが、そこには新しいこと特有の難しさがたくさんありました。チームの皆が、やりたいことを実現するために苦しみながら、でも楽しんでいるみたいなところがあったのがとても印象的なプロジェクトでした。その成果をぜひ、実際に体験してみていただければと思います。