『Xperia 1 III』開発者インタビュー
Part 1【カメラ・デザイン編】
デジタル一眼カメラα™由来の
「リアルタイムトラッキング」と
新開発「可変式望遠レンズ」
『Xperia 1 III』の進化したカメラ機能
今夏、ソニーのフラッグシップスマートフォン『Xperia 1 III』がいよいよ発売されます。コンテンツにこだわりを持つクリエイターを中心に幅広く支持を集めるXperiaシリーズ。特に本格的なカメラ機能は撮影にこだわりを持つ層からも高く評価されています。そこでここでは「α」で培った技術を活かして大幅に進化したカメラ機能と、さらに上質感を高めたデザインについて、それぞれのパートの担当エンジニアが紹介します。
滝沢:各社が新しい料金プランを投入していることもあり、低価格なエントリーラインからミッドラインの製品が大きく伸びています。ただし、その一方でそれなりの価格でも最高スペックの製品をお求めになるお客さまも確実に存在しており、全体として大きく二極化しているというのが昨今のスマートフォン市場です。
そんな中、Xperiaシリーズは、昨年2月に発表されたフラッグシップモデル『Xperia 1 II』が、カメラやAV機能などにこだわった「ソニーらしい」スマートフォンとして、多くの方からご好評をいただいております。
滝沢:まずは「ソニーが好き」「Xperiaが好き」と、指名買いしてくださる方がたくさんいらっしゃいます。その上で、スマートフォンでできることが拡大していく中、より美しい写真を撮りたい、いい音で音楽を聴きたい、動画をもっと高画質・高音質に視聴したい、ゲームで勝つためにより高性能な端末が欲しいというニーズが高まっており、それを満たすハイスペックな製品としてXperiaが支持されていることを強く感じています。
滝沢:先代『Xperia 1 II』ではBuilt for speedというコンセプトを掲げていましたが、新しい『Xperia 1 III』ではこれをSpeed and beyondと改め、Speedを継承しつつ、さらにその先へ(=Beyond)ということを目指しました。
滝沢:もちろん通信速度のこともありますが、それだけではありません。『Xperia 1 II』で実現したカメラの高速オートフォーカスや、ディスプレイの高リフレッシュレート対応など、多くの意味を込め、それをBeyondすることに開発初期からこだわっています。中でも今回、特に大きな飛躍を遂げたのが可変式望遠レンズを搭載した新しいカメラです。詳しいことは後ほどお話しますが、これによって遠くの被写体もしっかり素早くピントを合わせて撮れるようになりました。
滝沢:先ほどお話しした、ハイスペックなスマートフォンを求めるお客さまに使ってほしいというのはもちろんなのですが、その中でも特に、Xperiaが掲げている「好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを」というビジョンのもと、Community of interestと呼ばれる、カメラ、オーディオ・ビジュアル、そしてゲームなどに強い関心を抱いている方々をメインターゲットとしております。
滝沢:はい、先代『Xperia 1 II』のトリプルレンズカメラ+3D iToFセンサーなどを受け継ぎつつ、好評だった高速オートフォーカスを軸に機能強化を行いました。その上で、広角カメラと比べてわずかに性能差があった望遠カメラの撮影性能についても大きく手を入れています。
滝沢:はい。『Xperia 1 III』ではより望遠域まで撮影できるようにして撮影の自由度を高めました。また、従来モデルと比べて望遠域でのオートフォーカス速度を高めたことで、さらに多くの被写体に対応。これによって遠くで元気に動き回っている子どもやペットをクローズアップして撮影できるようになるなど、ユースケースを大幅に拡大しています。
滝沢:まず、Xperia初の試みとして望遠カメラに「可変式望遠レンズ」を採用しました。これはペリスコープ(潜望鏡)という、プリズムで光を直角に曲げる構造を使って光学系を横向きに配置したもの。内部のレンズを動かすことで1つのカメラで焦点距離を70mmと105mmに切り換えることができます。なお、残りの超広角レンズ(16mm)と広角レンズ(24mm)は、『Xperia 1 II』と同じ焦点距離を継承。カメラファンの間で「大三元レンズ」と呼ばれる人気の組み合わせを意識しています。
滝沢:また、イメージセンサー(撮像素子)もDual PD(デュアルフォトダイオード)と呼ばれる、オートフォーカス性能の高いものを用いてます。Dual PDセンサーは先代『Xperia 1 II』では超広角カメラと標準カメラにのみ利用していたのですが、『Xperia 1 III』では3つのカメラ全てにDual PDセンサーを採用しました。
さらにレンズの明るさにもこだわっています。一般的なスマートフォンでは望遠カメラのレンズがF4.0前後の暗いものであることが多いのですが、『Xperia 1 III』では70mmでF2.3、105mmでもF2.8という極めて明るいレンズを搭載。これによって暗いところでも多くの光を取り込み、きれいに撮影できるようにしました。
滝沢:はい。『Xperia 1 III』の新しい望遠カメラは、より望遠に強く、明るい高画質で、しかもオートフォーカスが速いというものになっています。
千葉:一般的な単焦点カメラモジュールは内部のレンズ群がひとかたまりになっていて、それを前後に動かす形でピントを合わせています。しかし可変式望遠レンズの場合、ズーム機能を実現するため、個々のレンズをそれぞれ独立して動かさねばなりません。そのためこれまでのカメラモジュールと比べて、極めて高い部品の精度と組立精度を求められました。また、サブミクロン単位で動くアクチュエータを搭載し、それを動かす制御技術によって、高画質と圧倒的なスピードを実現しています。これを実現できたのはソニーがこれまで開発してきた「α」や、「サイバーショット」のレンズ設計で培ってきた知見があったから。その上で、『Xperia 1 III』ではスマートフォンに求められる薄型化を実現するため、光学式手ブレ補正機能をレンズ群ではなくプリズムを動かして実現することに挑戦しています。
滝沢:最も大きなものでは、デジタル一眼カメラ「α」シリーズに搭載されている「リアルタイムトラッキング」機能を新たに搭載しました。物体認識アルゴリズム(AI)を用いることで、画面上でタップした任意の被写体にフォーカスを合わせて追従し続けます。なお、この機能は人や動物だけでなく自動車やバイクといった被写体にも対応しており、撮影中に遮蔽物の陰に隠れてしまうようなことがあっても、そこから出てきたところでまたトラッキングを再開するようになっています。
松本:リアルタイムトラッキングに関しては、αの開発に携わっているエンジニアと一緒に『Xperia 1 III』上に同じアルゴリズムを再現しています。その上で、被写体までの距離を瞬時に測定できる3D iToFセンサーといった、Xperiaならではのデバイスをしっかりと活用できるようにしています。もちろん、αにあってXperiaにはない部分もあるのでその差異を埋めるのが大変だったのですが、最終的にはαと同じような体験を実現できたのではないかと思っています。
松本:リアルタイムトラッキングは子どもやペットなど、動き回る被写体をサッと撮りたいときにとても便利な機能。UIもスマートフォンの機動力を活かしたものになっているので、αとは良い使い分けができるのではないかと考えています。『Xperia 1 III』はIPX5/8、IP6Xの防水・防塵性能も備えているので、水辺や砂埃の舞うようなグラウンドなど、カメラを持ち込みにくいところでも気軽に撮影していただけますしね。
ちなみにリアルタイムトラッキングは動かない被写体を撮るときにも実は非常に便利な機能なんですよ。たとえばSNSにアップする料理やネイルの写真を撮る時、一度タッチしてそれらに追尾を開始させておけば、構図や配置を変えても被写体にフォーカスし続けてくれます。
松本:そうなんです。いろいろな活用ができる機能なので、ぜひさまざまな被写体でお試しいただきたいですね。
滝沢:なお、α由来の機能と言えば、先代『Xperia 1 II』で好評だった人間や動物の瞳を瞬時に検出して正確にピントを合わせる「リアルタイム瞳AF」も進化しています。
松本:操作性は同等なのですが、リアルタイムトラッキングの追加に合わせて検出精度や追尾性能を向上させる改善を施しました。
滝沢:先代『Xperia 1 II』で好評だったAF/AE追従の20コマ連写機能にノイズリダクション機能を追加しました。高速連写はその性質上どうしてもシャッタースピードが速くなってしまうため、暗い場所では明るさを確保するため撮影感度を上げる必要があります。ただ、撮影感度を上げると同時に映像にノイズが乗ってしまうんですね。そこで『Xperia 1 III』ではノイズを除去する工程を追加することで、どんな場所で連写してもきれいな写真を残せるようにしました。
そしてもう1つ、デジタルズームが「AI超解像ズーム」に進化しました。従来のデジタルズームは倍率を上げていくほどに解像感が失われてしまう弱点があったのですが、『Xperia 1 III』ではそれをソニー独自のAI処理で補正し、デジタルズーム時にもくっきりとした写真を撮れるようにしています。もちろん、光学ズームには及ばないのですが、もう少しだけ被写体に寄って撮影したいといった時にとても役立つ機能です。
滝沢:『Xperia 1 II』ではこだわった撮影を楽しめる「Photography Pro」と、スマホ的なUIで撮影できる「カメラ」を意図的に分けていたのですが、今回、それを一本化し、これまで「カメラ」で実現していた撮影体験を「BASIC」モードとして切り換えて利用するかたちに変更しました。これによって、スマホ的な使い勝手で撮影したいというユーザーにも『Xperia 1 III』自慢のリアルタイムトラッキングなどをご利用いただけるようにしています。もちろん、P、S、Mモードなどをよく使う方は、前回起動時のモードをそのままにしておける設定もあるのですぐに立ち上げることも可能です。
滝沢:おっしゃるように、今回『Xperia 1 III』では、従来モデル『Xperia 1 II』から大きくデザインを変えるということはしていません。これまで通りのフラットなデザインをキープしながら、どうブラッシュアップするかというところに注力しています。その上で、商品企画担当としてまずこだわったのが、絶対にサイズを大きくしないこと。『Xperia 1 III』には、先にお話しした可変式望遠レンズなど多くの新機能が盛り込まれているのですが、設計の早い段階からサイズを大きくしないことを依頼し、何とかそれを実現してもらいました。
滝沢:はい、エンジニアの皆さんが頑張って1mmずつ縮めてくれました。そしてその上で、見た目の美しさもしっかりと追求しています。いくつかポイントを挙げると、まず、上下のベゼルをシンメトリーな美しいかたちにしました。また、本体周辺を囲うメタルフレームも背面ガラスのフロスト処理に合わせてマットな表面処理を施し、全体での統一感を持たせています。
滝沢:実用性という点では、フロント面のガラスをさらに耐久性を高めた最新のCorning Gorilla Glass Victusという強化ガラスにしています。非常にスクラッチ(ひっかき)耐性の高いガラスなので、傷が付きにくく、落としても割れにくいものになっています。
千葉:繰り返しになりますが、今回、『Xperia 1 III』では可変式望遠レンズや、全てのカメラでDual PDセンサーを搭載したことなどによって、撮影できるシーンがかなり大きく広がりました。望遠側でもF2.8という明るいレンズで撮影できるので、単に遠くを撮るのではなく、近くの被写体に寄って背景を大きくボカしたような撮影もできるようになりました。そうした作品撮り的なことも楽しんでいただけると開発者としてはうれしく思います。
松本:『Xperia 1 III』の進化したカメラ機能の中で、特に私が推したいのがリアルタイムトラッキングやリアルタイム瞳AFといったAI技術を駆使した高速・高精度なオートフォーカス機能です。これはスマートフォンで撮影をする多くの人が利便性を享受できる機能ですので、ぜひお試しいただきたいですね。