サウンドバーフラッグシップモデルがモデルチェンジ
『HT-A7000』が実現する
進化したサラウンドサウンド
テレビの下に置くだけでそのサウンドを大きく底上げしてくれるサウンドバーは、自宅で過ごす時間が増えた昨今の社会情勢下で大きな注目を集めています。今回紹介する『HT-A7000』は、ソニーのサウンドバーラインアップの頂点に位置する新フラッグシップ。その実力を、開発者たちが紹介します。
橋本:テレビの大型化・高精細化が堅調に進んでいる中、家庭内でのエンタテインメント需要が増加しています。これを受けて動画サブスクリプションサービスやライブ配信サービスもユーザー数を大きく伸ばしています。
そんな中、注目を集めているのがテレビに接続して「音」の体験を大きく高めてくれるサウンドバーです。ソニーは長らくこの市場に取り組んでおり、高性能なフラッグシップモデルから手頃なエントリーモデル、ミニバーモデルまでさまざまな製品を投入。家族で過ごす時間をより豊かにするお手伝いをしてきました。
橋本:『HT-A7000』は、7.1.2chの新たなフラッグシップモデルです。最大の特長は、昨今のテレビ大型化に合わせてサラウンド感や音の広がりを強化したこと。具体的には天井に音を反射させるイネーブルドスピーカーや壁面に音を反射させる新開発サイドビームトゥイーター、そしてソニー独自の信号処理技術の連携によって、圧倒的な音の広がりとリアリティ豊かな空間表現を実現しています。
板垣:この製品は2017年11月に発売した7.1.2chのフラッグシップサウンドバー『HT-ST5000』の後継機。それを機能面はもちろん、音質的な意味でも超えていける製品を目指しました。
簗(やな):我々が最も実現したかったことは、テレビ画面の大型化に合わせ、サウンド空間を拡張し、圧倒的な没入感を演出することです。それは画面が大きくなった分だけ音を拡げるという単純なものではありません。音を画面の外まで拡げることにより、あたかもその空間に入り込んだかのような体験の実現を目指しました。
そのために搭載したのが正面向きの5つのフロントスピーカー、高さ方向を作り出す2つのイネーブルドスピーカー、そして左右に配置したビームトゥイーターです。また、先代フラッグシップモデル『HT-ST5000』では外付けだったサブウーファーも2基内蔵しています。
簗:合計5つのフロントスピーカーユニットには、「X-Balanced Speaker Unit(エックス バランスド スピーカー ユニット)」と名付けたソニー独自のユニットを採用しています。サウンドバーへのサイズ要求として、どうしても高さの低いものが求められるのですが、スピーカーユニットは同じ駆動力であれば、振動板の面積が狭くなると音圧を出しにくくなります。そこでこのX-Balanced Speaker Unitでは、振動板の有効面積を稼ぐため、極力形状を四角に近い楕円にし、限られたスペースであってもより大きな振動板となるようにしています。
一方で円形ではない振動板は振幅の対称性が取りにくくなる問題がありました。そこで注目していただきたいのがエッジ部に刻み込まれた紋様です。この工夫を盛り込むことで、楕円系の振動板であっても振幅の対称性を高めることができました。
Unit簗:振動板の有効面積が大きくなったことで音圧を高めることができました。また振幅の対称性も取れるようになったため、細かな歪みがより少なくなり、臨場感が増しています。
根岸:『HT-A7000』は冒頭で橋本がお話したように、音の広がりや空間表現を高めることを目的に開発を進めてきたのですが、それとは別にもう1つこだわったことがあります。それが人の声の聴き取りやすさです。サラウンド表現と同じくらい、きちんとセリフが聞こえることも大事だろうと。
根岸:おっしゃるように一般的な5.1ch音声では人の声はセンターに割り振られています。しかし今回は、声の信号を各2基あるフロントL/Rスピーカーの内側でも鳴らすようにしました。そうすることによって、センタースピーカーだけで鳴らすのと比べてクリアな音質のまま音圧を稼げるようになるのです。
根岸:ソニーとしては初の試みだと思います。なお、単純にセンターに割り振られた音声を左右の内側でも鳴らしているのではなく、信号処理で適切に帯域を切り分けています。こうしないと音がクリアに聞こえなくなってしまうんです。
渡邉:初めての試みだったということもあって、作っては直し、作っては直しでけっこう労力がかかりました。ただ、それだけに力強くもクリアな音を実現できたので、この製品ではぜひ「声」の部分も聞いていただきたいです。
簗:フロントスピーカーユニットと同じX-Balanced Speaker Unitを搭載し、音圧を高め、振幅対称性を保つことにより、高さ方向の音場の表現力を向上させています。フロントユニットとは見た目は似ていますが、天井からの反射の効果を高めるべく、エッジ部分の形状をわずかに変えています。
根岸:その上で、スピーカーを覆うクロス(布)の材質にもこだわりました。音の抜け方が素材によって大きく変わるので、イネーブルドスピーカーの特性をきちんと出せるような素材を簗、園田、吉田らと何度も試行錯誤して選んでいます。
簗:クロス素材の工夫も一例ですが、イネーブルドスピーカーによる天井からの反射効果を高めるには、スピーカーから出る音を直接ユーザーの耳へ届きにくくすることが重要ポイントと考えています。耳に直接届く音を減らし、相対的に天井から反射されてユーザーに届く音が大きくなることで、音の立体感、広がり感を高めることができます。その上で『HT-A7000』では、これまで説明したハードウェアの工夫に加え、信号処理でも直接音の軽減に努めています。
渡邉:はい、少し表現は変わりますが、天井反射音による立体表現に加え、ソフトウェア側からも漏れ出る直接音に対して積極的にバーチャル処理を行うハイブリッド的なアプローチで立体感をさらに向上させています。
渡邉:既存のイネーブルドスピーカーを搭載していないソニー製サウンドバーでは「Vertical Surround Engine(バーティカル サラウンド エンジン)」と呼ばれる仕組みでフロントスピーカーから出てくる音に上から聞こえてくるような信号処理を施しているのですが、『HT-A7000』ではイネーブルドスピーカーから出す音にその処理を施しています。そうすることで、わずかに発生する直接音も上から聞こえてくるように感じられ、反射音の効果が大きくなるんです。
渡邉:はい、その通りです。
簗:レーザーポインターの音版のようなものをイメージしていただければ分かりやすいでしょうか。仕組みとしてはトゥイーターから出た音を複数の穴の設けた管(音響管)に通すことで指向性をもたせ、壁面で反射させるというもの。この壁面からの反射により壁の向こう側から音が聞こえてくるような広がり感を作り出します。4月に発売された360 Reality Audio認定スピーカー『SRS-RA3000』に搭載されているビームトゥイーターをベースに、サウンドバー向けに改良を行い、この製品に搭載しました。
簗:『SRS-RA3000』ではビームトゥイーターを縦に用いていましたが、『HT-A7000』では横向きに配置し、サウンドバーに適した音場再現が出来るようにしました。これに加え、音響管の材質と穴の形状にこだわっています。また、先ほどイネーブルドスピーカーのところで説明したように、サイドビームトゥイーターでも直接届く音を消し込むことが重要です。そこで、音響管の材質を音の響きに着目して選定し、穴の形状も厚さ1mmの中でできる工夫を凝らして反射の効果を高めています。
板垣:簡単に言っていますが、実はこのパーツ、ものすごくコストが掛かっているんですよ(笑)。直接音を極力減らすようにとても高価な樹脂を使っています。
簗:ただ、その甲斐あって、テレビ画面のサイズを超えた、広がり感を実現できました。
渡邉:もちろんやっています。これはイネーブルドスピーカーにも関連することなのですが、『HT-A7000』では自動音場補正機能を搭載しておりまして、あらかじめ測距した壁や天井との距離に合わせて内部の処理を変更し、どんな部屋でも適切な聞こえ方になるよう調整しています。
簗:サウンドバーとしては初めて、ソニー独自の立体音響技術「360 Reality Audio」に対応しました。先行して発売されている360 Reality Audio認定スピーカー『SRS-RA5000』や『SRS-RA3000』に負けない、包み込まれるような立体的なサウンド体験がお楽しみいただけます。映画だけなく、音楽でもそのイマーシブ感(没入感)を味わっていただきたいですね。
佐藤:『HT-A7000』は本体サイズの大きさに反して、サイドビームトゥイーターの追加やサブウーファーの内蔵などもあって、基板をかなりコンパクトにせねばなりませんでした。このサイズを実現するのがとにかく大変でしたね。
佐藤:従来のS-Master HXは、2chあたり2チップ構成になっていたので、この製品のように11個のスピーカーを鳴らすアンプが必要となると、どうしても基板上、面積をとってしまいます。そこで今回はこれを1チップ品を採用することで基板上に実装されるチップ数を減らして全体の面積を小さくしています。なお、アンプの1チップ化には安定して性能が出しやすくなるというメリットもありますので、音質的にはむしろ有利です。また、音をアナログ波形に戻すフィルタ部分については先代モデル『HT-ST5000』などで使われてきた定評ある部品を使うことで高品位を保っています。
佐藤:見ていただければわかるとおもいますが部品レイアウトの美しさにはかなりこだわりました。センターからシンメトリーに部品を並べることで、右と左を揃えるというステレオの基本に準じたアンプを作りあげています。こうした工夫によって、それぞれのスピーカーの音色が揃い、空間の繋がりと密度感が向上し、本製品で得られる体験が最大限に得られるようになりました。
佐藤:いえ、そんなことはありません(笑)。今回とにかく苦しめられたのは、音質よりも小型化によって発生する熱への対策です。これは我々電気のチームではどうにもできないので、園田らメカのチームに基板サイズにはそぐわないほどの巨大な放熱機構を作ってもらい、さらに本体ケースにも熱を伝えるような構造にしてもらうことで何とか熱を逃がしています。
園田:通常は発熱するIC部分にだけ放熱板を配置するのですが、この製品では基板全てが放熱板に覆われていますね(笑)。基板自体は非常に小さいのですが、熱量としては非常に大きく、これをどう分散させるかが悩みどころでした。ただ、ボディサイズを最大限に生かせば、なんとか分散できる見込みは立てていたので、かなり苦労はしましたが、複雑で大がかりな構造の放熱板をうまく収めて熱を分散することができました。
園田:まず、それぞれのスピーカーの後ろに音をきちんと響かせるための独立したボックスがあります。そして、先ほど佐藤がお話ししたS-Master HXや放熱板はサブウーファーのボックスの背面に収めています。
サブウーファー部の底面には波形状を付けることで、サブウーファーから出てくる振動を上手に分散させています。通常ならばケースの内側にリブ(補強)を設けて振動を吸収するのですが、その構造だとどうしても音の濁りが発生してしまうので、今回は内部の形状をシンプルにしつつ、補強効果を最大化するということでこの波型形状を採用しました。ちなみに、一見、単純な波型に見えるこの形状ですが、実は一様にはなっておらず、部位ごとにランダムに異なるかたちになっているんですよ。
橋本:『HT-A7000』単体でも充分な低音を再生できるのですが、それよりもさらにパワフルな低音をお求めのお客さまのためにワイヤレス接続できるサウブーファーを追加できるようにしています。サブウーファーは2種類用意しており、求める低音のレベルと設置スペースに合わせてお選びいただけます。特に低い低音や迫力を最大限味わいたい方は『SA-SW5』を、限られたスペースで手軽に低音を強化したい方にはコンパクトな『SA-SW3』がおすすめです。
橋本:はい。視聴スタイルは様々ですので、それぞれのスタイルに合わせ、システムアップも楽しめるよう、別売サブウーファーだけでなく、別売リアスピーカー『SA-RS3S』も用意しました。『HT-A7000』にリアスピーカーを追加することで、サラウンド感をさらに大きく拡大することができます。もちろん本体との接続はワイヤレスですので、面倒なケーブルの取り回しなどは必要ありません。
根岸:『HT-A7000』ではここまででお話ししたさまざまな機能で音を立体的に響かせているのですが、ここにリアスピーカーを追加することで、後方から聞こえてくるような音がよりはっきり、くっきり聞こえてくるようになります。これによって特に水平方向の音の繋がりがスムーズになり、音に包まれるような感覚がより強化されます。
簗:『SA-RS3S』はトゥイーターとウーファーの2Way構成で、低域から高域まで非常にフラットな特性が特長です。どのような音源であっても、自然で広がりあるサラウンド感を作り出します。
渡邉:もちろんこちらも自動音場補正機能に対応しており、簡単な操作でベストなセッティングに自動的に設定してくれます。
橋本:『HT-A7000』は、ソニー製テレビ「ブラビア」の対応モデルと接続することで、「アコースティックセンターシンク」という機能を利用できます。これは本機をブラビアの「音響機能」と連携させて、より映像と音声の一体感を高め、没入感を向上させるというものです。
根岸:ブラビアの「音響機能」と『HT-A7000』を連携させることで、声の位置をテレビの画面内に定位させるのが「アコースティックセンターシンク」になります。具体的には、低域再生能力の高い『HT-A7000』が声の低域側を、テレビが高域側を再生します。それぞれの周波数範囲や再生タイミングを調整することで、映像と音声の一体感を向上させました。画面内から声が聞こえる事で得られる没入感をぜひ楽しんで頂きたいです。
橋本:また、ブラビアとの接続時にはサウンドモードや低音の調整など、日常的に使う動作をブラビアのリモコンから行えるようになります。
吉田:『HT-A7000』や別売サブウーファー、リアスピーカーら、「Aシリーズ」と呼ばれる製品群は、今回新たに「Omnidirectional Block(オムニディレクショナル・ブロック)」コンセプトと名付けた共通デザインテーマに基づいてデザインされています。同じ部屋で使っても違和感のない、ひとつの統一感を感じていただけると思います。
Omnidirectional Blockのポイントは、製品全体としてソリッドな塊感を出すとともに、提供する音の体験にも繋がるような、360度どの方向にも音が広がることを感じさせる形状にあります。部品同士の継ぎ目を最小化しているのもデザイン的なソリッド感を追求するためです。なお、色と仕上げに関しては、黒を基調としながらも製品ごと、部品ごとに微妙に色やテクスチャーを変えています。それらがお互いに調和してトータルで見た時に品位が感じられ、部屋のインテリアにもなじみやすいと思います。
吉田:まず、形状の特徴としてはボディのすべての稜線に同じ大きさのR(角の丸み)を取りOmnidirectional Blockならではのソリッドな塊感を強調しています。実はこのRは音響的にも理にかなったものです。
根岸:このRを付けることで、スピーカーから出た音がボディの角部に反射して不要な波を生み出す回折という現象を低減することができるんです。
吉田:また、最高の音響体験を提供するモデルにふさわしい素材ということで、天面には建築で使われるような厚めの平板ガラスを配置しました。これは『HT-A7000』のデザイン面の最大の特徴になっていると同時に、機能的な意味もあります。
園田:硬くて重いガラス天板には、サブウーファーなどから発生する振動を抑える効果があります。先ほどお話しした底面の波模様との合わせ技で防振性能を強化しています。
吉田:本体後ろの方に使っているメタリック塗装はソリッド感を感じる、石をイメージして色出しした特別な塗装色です。ごつごつとした表面テクスチャーにところどころキラキラ光るメタリックフレークを入れています。天面のガラスと相まって高品位なイメージが出せたかと思います。
さらにイネーブルドスピーカーのところで話題になったクロスについても、極力デザインをシンプルにし、ソリッド感を出すため、ダクトの部分までファブリックで巻くという新しい試みをしています。通常、こういう素材はスピーカー部分だけに用いて側面のダクト部分はまた別のパーツになる構成にすることが多いのですが、そうすると部品と部品の間の分割線が出てしまうため、手間はかかるのですがこのような構成と仕上げにしています。
簗:今回挑戦したのは、『圧倒的なオッ!!!』の実現です。この一言につきます。先代フラッグシップモデル『HT-ST5000』も担当しましたが、『HT-A7000』は新開発のサイドビームトゥイーターに象徴されるよう、従来とは全く異なるアプローチで作っています。不安半分、ワクワク半分で作りあげた製品ですが、結果として「耳で聴く」前からその凄さを“体感”出来るサウンドバーに仕上がっています。
根岸:長い期間取り組んできた、とても思い入れの深い製品なので、やっと皆さんのお手元にお届けできることをうれしく思います。簗の言う「圧倒的な音」に通じるところもあるのですが、今回、『HT-A7000』の音作りでこだわったのが“わかりやすさ”です。説明なしでも、1度聴けば凄さがわかる音を目指しましたので、ソニーストア店頭などで、ぜひともその音を聴いてみてください。
佐藤:実は『HT-A7000』は私にとって初めてのサウンドバー製品。それゆえに、これまでのサウンドバーの設計とは異なるアイデアを持ち込むことができたと思っています。これまで長らく数多くのアンプ製品に携わってきた自分のノウハウをこの小さな基板に集約しておりますので、その音をぜひご体感ください。
渡邉:『HT-A7000』にはこれまでなかったようなたくさんの信号処理技術が組み込まれています。先代モデル『HT-ST5000』で搭載していたハイレゾ音質へのアップコンバート機能「DSEE HX」においても進化をしており、あのWH-1000XM4で好評の「DSEE Extreme」をサウンドバーに初搭載しておりますので、ぜひ、これらの機能も合わせてお楽しみいただければ。
園田:ちょっと大きめではあるのですが、サウンドバーのサイズ感の中に、今考えられる本当にたくさんの機能、そして意匠をまるでパズルのように詰め込みました。この凝縮された機能が生み出す新体験を少しでも多くの方々に味わっていただきたいですね。
吉田:サブウーファー、リアスピーカーも含め、『HT-A7000』では質感の表現にものすごくこだわりました。なかなか店頭に向かうのが難しい昨今ではありますが、お客さまにはぜひとも実物を見ていただきたいですね。音だけなく、デザインも気に入っていただけるととてもうれしいです。
板垣:今回、設計の立場として忘れられないのが新型コロナ禍中でのもの作りです。出社制限もあって設計メンバー間でのコミュニケーションが取りにくかったり、試作時に工場への出張ができなかったり、思いもしない苦難がたくさんありました。しかし、最終的にはそれを乗り越えてよい製品が作れたと満足しています。
橋本:ソニーはこれまで多くのサウンドバーをリリースしてきましたが、『HT-A7000』はそれらの中でも最高の音と機能が備わった製品です。オプションのサブウーファーやリアスピーカーを組み合わせる事で、お住まいの環境や音の好みに合わせてシステムアップしていけることも含めてよい製品に仕上がったと思っています。特に大型テレビを買った方にはこの製品を選んでいただきたいですね。絶対に後悔はさせませんので、ぜひ!