BRAVIA XR編
今や、多くの映画館でプレミアムな立体音響体験を味わわせてくれる代表的な技術として認知されるようになった「Dolby Atmos®(ドルビーアトモス)」。ソニーは、その没入感あふれる立体的なサウンド体験を家庭でも手軽に楽しみたいという声を受け、最新ブラビアやサウンドバーなど多くの機器でDolby Atmos対応を進めています。ここではそんなソニーのDolby Atmos対応製品がどれほど忠実に映画館のシネマ体験を再現できているのかを、Dolby Atmosを生み出したドルビーラボラトリーズの担当者に試してもらいました(全3回)。
第1回目はBRAVIA XRが実現するテレビ単体でのDolby Atmos対応について。ブラビアの内蔵スピーカーが実現する立体サウンドとは!?
※Dolby、ドルビー、Dolby Atmos、Dolby Vision、およびダブルD記号は、
アメリカ合衆国と/またはその他の国におけるドルビーラボラトリーズの商標または登録商標です。
ドルビージャパン株式会社
フィールドアプリケーションエンジニア
黒岩 氏
2012年ドルビージャパン株式会社に入社。
以降、放送関連製品担当として、各日本メーカーがテレビ製品等に
ドルビーの音響技術を実装するための技術サポート業務に従事。
黒岩:ドルビーは元々、オーディオ記録再生技術を開発する映画館の音響設備の技術を提供する会社として始まりました。その後、ノイズリダクションや映画館用のサラウンドシステムの開発を通じて、エンタテインメント体験の品質向上を生業としてきました。そして、近年はDolby Atmosなどの音響技術に加えて、「Dolby Vision®(ドルビービジョン)」というHDR(ハイダイナミックレンジ)映像技術も世に送り出しています。これらの技術は今では映画館だけでなく、一般家庭向けのホームシアター製品やモバイル製品、更にNetflixやApple TV+など多くの映像配信サービスでも採用され、気軽に楽しめるようになっています。今回試聴させていただいたブラビア最新モデルもDolby Atmos対応製品の1つですね。
黒岩:端的に言うと「オブジェクトオーディオ」技術を用いた立体音響技術となります。それまでの音響技術、例えばステレオ(2ch)や5.1chのようなマルチチャンネルは「チャンネルオーディオ」と呼ばれていて、そのソース(DVDなどの音源データ)にはステレオなら左右のスピーカーから聞こえてくる音が、それぞれそのまま記録されています。
これに対してオブジェクトオーディオでは個々の音が三次元空間のどこに配置されているのかの情報を含めた「オブジェクト」として位置情報のように記録されています。それを再生する環境に合わせて「レンダリング」することで、それぞれの環境に最適化された、立体的なサウンド空間を再現できるようになるのです。
黒岩:Dolby Atmosの形式で保存されたソース(UltraHDブルーレイや対応した映像配信サービスなど)と、レンダリング機能を持ったテレビやAVレシーバー、サウンドバーなど、そして実際に音を再生するスピーカーが必要です。
黒岩:Dolby Atmosのスピーカー構成は7.1.4chという風に表現され、理想的な体験をするためには5.1ch環境にはなかった左右リアのバックサラウンドスピーカー2基と、リスナーの上方前後左右に4基のハイトスピーカーの追加が求められます。
黒岩:そうなんです。ただ、昨今はソニーの最新ブラビアのように、「バーチャライザー」という仕組みを利用してよりシンプルな構成のスピーカーでもDolby Atmosが再生できる製品が増えているんですよ。私はドルビーの技術部でフィールドアプリケーションエンジニアを務めているのですが、その仕事の1つに、そうした製品が実際に我々の求める音質基準をクリアしているか評価・承認するというものがあります。ちなみにこれまで約8年間、主にテレビ関係の製品の製品テストに携わっており、もちろん、ブラビアやサウンドバーなど、多くのソニー製品も評価しています。
認知特性プロセッサー「XR」搭載フラッグシップ4K有機ELテレビ。「XR」が83型有機ELパネルのポテンシャルを引き出すほか、本体内蔵スピーカーだけでのDolby Atmos再生対応も実現。美しい映像と立体的なサウンドの一体感が、これまでのテレビとは別次元の没入感を生み出します。
あたかも人間の脳のように映像を認識して適切な高画質化を行う認知特性プロセッサー「XR」を搭載。従来のテレビと比べて、より自然な美しさを描き出します。さらに、「XR」は映像だけでなく、音声も高品位に。あらゆるコンテンツの音声を立体音響にアップスケーリングし、立体的なサウンドを楽しめるようにします。
有機ELパネル背面に配置された2基の真円大型アクチュエーターが画面を振動させることで、まるで映像そのものから音がでているかのように感じさせるサウンド技術。
黒岩:テレビの内蔵スピーカーだけで充分にDolby Atmosの体験が楽しめることに感心しました。特に「アコースティック サーフェス オーディオプラス」の効果が大きく、センターchの音が正しくセンターから出ているのを確認できました。映画コンテンツなどの視聴時に、画面の中で喋っている人のイメージと、ダイアローグの音声がきちんと一致して感じられますね。素晴らしい技術だと思います。
黒岩:「アコースティック サーフェス オーディオプラス」については、以前、ドルビー社内でテストをした際に中身の構造を確認させていただいたことがあるのですが、画面の中央よりやや上側にドライバー(アクチュエーター)を配置していたのが印象的でした。映画館のスピーカー配置には正しく音を鳴らすためのガイドラインがあるのですが、そこでもスピーカーはスクリーン中央よりもやや上に配置するように指示しています。これは私の想像ですが、ブラビアでもおそらくそれを意識しているのではないかな、と。ソニーのこだわりを強く感じましたね。
あと、今回体験した最新世代モデルの「アコースティック サーフェス オーディオプラス」は、最初期のものと比べて音の帯域が広くなっていて、よりDolby Atmosならではの包まれ感を強く感じられるようになっていますね。サウンドそのものも「XR」の効果でかなりクリアになっています。過去のモデルと比べてさらに良くなっていると感じました。
黒岩:我々としては特にジャンルを特定して技術を作り込んでいるということはありません。どんな作品でも幅広くDolby Atmosならでの体験を味わっていただけると思います。
その上で、映画や音楽ライブ以外のコンテンツでオススメしたいのがスポーツ中継です。スタジアムの歓声やざわめきをDolby Atmosを通して聴くことで、あたかもその場にいるような臨場感を味わえるんですよ。実際、海外ではすでにDolby Atmosを使ったスポーツ中継が始まっており、この流れはいずれ日本にもやってくるはずです。
黒岩:はい、これなら現在、国内で楽しめるスポーツ中継でも充分にその効果を感じられると思いました。
黒岩:少し毛色が異なりますが、最近はゲームにもDolby Atmos対応のものが増えてきているので、ゲーム好きの方にはこちらもお試しいただきたいですね。ゲームでのDolby Atmos体験の面白いところは単に没入感が増すだけでなく、ゲームの種類によっては有利になること。バトルアリーナ系のタイトルなら足音で後ろから敵が迫ってくることがわかったりするんですよ。
黒岩:はい。幅広いコンテンツでお楽しみいただきたいと思っています。