商品情報・ストアヘッドホン The Headphones Park 開発者インタビュー MDR-1A 開発者インタビュー PART1

Engineer's Interview MDR-1Aシリーズ 開発者インタビュー PART1

王道を超える。ハイレゾの新たな境地が導いた、
新生MDR-1の到達点

取材:岩井 喬

普遍的なデザイン性と時代に即したサウンドの両立、さらに快適な装着性をも実現させた、ソニーヘッドホンの王道をゆくMDR-1シリーズ。2012年に誕生したMDR-1Rから2年。市場ではマスター音源と同等クラスの広帯域再生が行えるハイレゾへの取り組みがより活発となり、ヘッドホンに対してもハイレゾへの対応が求められる時代となってきた。MDR-1Rそのものも非常に完成度が高く、搭載しているHDドライバーもハイレゾ音源を十分再生可能できる80kHzまでの広帯域再生を実現させていた。しかし、ハイレゾ音源の進化に際し、より時代に即したサウンドを再検討する中でまだまだ課題が潜んでいた。

その課題を乗り越え、高く評価されてきたMDR-1シリーズのサウンドクオリティをさらに一歩推し進めるため、全面的に進化を遂げたのがこの2014年秋に登場するMDR-1Aである。今回の進化点について、MDR-1Aの音響面の設計を担当した潮見俊輔氏(ソニーV&S事業本部 V&S事業部 サウンド1部 MDR設計2課)に今回の開発経緯を含めて伺ってみた。

潮見俊輔氏

ソニーV&S事業本部 V&S事業部 サウンド1部 MDR設計2課 潮見俊輔氏

「おかげさまでMDR-1Rは2012年に発売以来、世界的に好評をいただいています。音楽のコアなファン向けに満足いただけるサウンド作りを行うべく、現在の音楽シーンにおけるトレンドを盛り込んで開発されたMDR-1Rですが、昨年来快調に拡大し続けているハイレゾコンテンツに対しては、まだ追い込める余地があるのではないか、と。このハイレゾ対応へ向け、他社も参入し市場全体が盛り上がっています。5.6MHzのDSDファイルや192kHz/24bitのPCMファイルなど、ハイレゾ音源もどんどんリリースされ、情報が増えたことに由来する弱音部の再現度が高まり、音楽の持つニュアンスをより細かく描写できるようになりました。MDR-1R発売から2年を経て、その間に広がりを見せたハイレゾ再生に対するノウハウを投入して設計されたのがMDR-1Aなのです。」

MDR-1Rも80kHzまでの再生を実現し、スペック上はハイレゾ対応を果たしているが、ハイレゾ音源への適応力を見せるためにさらなる改良が施されることとなった。その核心といえるポイントが、さらに再生限界を上方へ引き延ばし、100kHzまでの高域再生を実現させる、新開発の広帯域40mmHDドライバーである。振動板の素材はMDR-1Rから継承した液晶ポリマーにアルミコートを施したアルミニウムコートLCPを用いているが、より微細な音の表現を追い求め、振動板形状についても再検討を行ったという。

ドライバー

左が従来の液晶ポリマーフィルム振動板を採用したドライバー、右がアルミニウムコートLCP振動板を使ったドライバー

「振動板をより動きやすくするため、ハイコンプライアンス化を進めました。素材や形状といったパラメーターをいろいろ変え、シミュレーションと試作を何十回も重ねてようやく求める特性を引き出せる形状を導き出せたのです。液晶ポリマーフィルム単体でも内部損失は高いのですが、単一素材では特定のポイントでピークが立つなどのデメリットもあります。そこで今回は振動板にアルミコートを施して高域における内部損失を向上させ、高い周波数でもより色付けが少なくフラットなサウンドを得られるよう工夫を施しました。これらの取り組みによって低域再現性の改善に加え、100kHzまでのワイドレンジ再生を実現できたのです。」とドライバー開発の経緯を潮見氏は語る。

MDR-1Aではハイレゾへのさらなる対応というミッションに加え、"バランス接続"への対応という新たなテーマにも挑んでいる。MDR-1Rもケーブル着脱式となっていたが、今回は着脱式左右独立グラウンドケーブルを取り入れることで、チャンネル間のセパレーションを改善させている。さらにオプションで用意されたバランス接続用ケーブルMUC-S20BL1と、同時発売となるバランス接続対応のポータブルヘッドホンアンプPHA-3を組み合わせることで、よりノイズの影響を受けにくいクリアで鮮度の高いサウンドを楽しめるようになった。また付属ケーブルでは伝送ロスを抑えることができる銀コートOFC導体を用いているがMUC-Sシリーズの別売ヘッドホンケーブル群は往路と復路の導体を互いに撚り合わせたツイストペア構造を取り入れており、電流によって発生する磁界をキャンセル、損失の少ない伝送が行える。そして本機におけるバランス接続のポイントについて潮見氏は次のように語っている。
「上位モデルのMDR-Z7でもバランス接続に対応していますが、MDR-1Aではケーブルが片出しですので、バランス接続時でもより取り回ししやすいメリットがあります。」

MDR-1シリーズで高く評価された点の一つに優れた装着性が挙げられるが、このMDR-1Aではさらに装着時の快適さを追い求めているという。従来からのイヤーパッドが内側に倒れ込む構造を採用したエンフォールディングストラクチャー、ハウジングの回転軸を内側に向けることで装着安定性を向上させたインワードアクシスストラクチャーは踏襲しているが、大きく変わったのは形状そのものも違う、エルゴノミック立体縫製イヤーパッドだ。

低反撥ウレタンフォーム写真

「イヤーパッド内部のクッション素材である低反撥ウレタンフォームは本来断面が四角い素材ですが、従来の縫製方法ではクッションに予め内部応力を与える状態で縫製していました。MDR-1Aでは立体縫製を採用し、四角い形状を保ったまま包み込んでいます。結果としてつぶれしろを従来より多くとることができ、装着したときにより柔らかく感じられるんですね。そしてもう一つはエルゴノミック形状の採用です。人の耳の後ろにはくぼみがあり、均一な厚みのイヤーパッドでは装着したときにそのくぼみから空気が漏れてしまうのです。これは音漏れにもつながりますし、低域再現にも影響があるので、後頭部の下側を厚くしてフィットしやすい形状としました。」と潮見氏。

この装着性の改善にはデザインからの取り組みもかなり反映されているとのこと。ヘッドバンドのカーブ形状やバンド幅についても再検討を実施するなどしており、フォルムのイメージは従来からのMDR-1シリーズを踏襲しているが、ほぼすべての部品を設計し直しており、金型から作り直したため、MDR-1Rと細かく見較べると全く違うプロダクトへと進化しているのだ。この部品一つ一つに対し、できるだけ軽く設計を行った結果、トータル15gの軽量化を実現したという。ヘッドバンドの幅もスリムにまとめることで見た目の軽さにもつなげており、よりデザインも洗練された印象を受ける。このデザインワークを担当した桑尾重哉氏(ソニー Professional Servicesクリエイティブセンター スタジオ2 APデザインチーム1)にも開発エピソードを伺ってみた。

桑尾重哉氏

ソニー Professional Servicesクリエイティブセンター スタジオ2 APデザインチーム1 桑尾重哉氏

「MDR-1A開発に当たり、デザインに関しても相当な議論がありました。ソニーのヘッドホンの"王道"を目指して開発されたMDR-1R、さらに翌年発表されたMDR-10シリーズのデザインへと繋げてきた中で、原型となるデザインを変えるべきなのか、と。基本のデザインを大きく変えずにブラッシュアップを重ねていくことはデジカメや携帯の世界でも多くありますがそれらと同じように、あえて継続することで商品の一貫したイメージやメッセージをお客様に届けていくことが今回は最適だ、と最終的には判断しました。もちろん全く同じということではなく、時代性や技術に応じた進化を取り入れるためにすべての部品の構成を見直しています。特徴でもあるハンガーのデザインをより際立たせるために、従来の1部品構成から2部品構成に変更し、さらにヘッドバンドへスムーズにつながるような滑らかな断面形状に変更したことでソリッド造形感がより高まったと思います。さらにハイレゾ対応をシンボリックに見せるために、ケーブルジャック部先端にアルミの切削部品を用いた金リングをあしらいました。ケーブルのプラグ部も前回はシンプルな円柱形状だったのですが、今回はローレットを刻んで、より金属の表情、素材感を生かす形に変更しました。ヘッドホン本体とケーブルを繋げる際に金属同士がカチっと重なることで感じられる、品位の高さには気を遣いましたね。スライダーのステンレスの質感にも気を配っています。ステンレスの持つ光沢に落ち着きのあるダークグレーの色味を加えることで、スライダーを伸ばした時にも一体感が出るようにまとめました。さらにハウジングの内側の見え方にも気を配っていまして、ドライバーのプロテクターのデザインにも手を入れて、音質と強度さらに見栄えの点でも納得のゆくものとしています。」
そしてMDR-1Rと外観上大きく異なるのがハウジングをはじめとする塗装の仕上げである。ブラックモデルではMDR-Z7と同じく、一眼レフカメラの高級機などで用いられているプロット塗装を採用し、質量感や高級感が得られるフィニッシュとした。一方、シルバーモデルは大幅に色合いを変更。より高級感を得られるよう、落ち着きのある暗めの配色としている。ハンガー部は塗装処理していたものを蒸着処理に変更。ヘッドバンドやイヤーパッドの色味もさらに濃く深い、シックなダークブラウンに変更し、高い品位を持たせている。

「装着性と音質の両面に改善効果をもたらすエルゴノミック立体縫製イヤーパッドもデザイン面からは縫製ラインが目立たないようにしてほしいとリクエストを出しました。さらにパーツごとに金型のパーティングライン(合わせ目)も目立たないよう、エンジニアと何度もやり取りを重ねて細部の仕上がりにも気を遣っています。全体のフォルムで力を注いだポイントとしては、ヘッドバンドからハンガー、ケーブルに繋がるラインを一体感ある形にまとめて、ソリッドかつシンプル、そして力強い表現となるようにしています。」と語る桑尾氏。「MDR-1R以上の高みを目指してより完璧なデザインにまとめた」と自信に満ちた表情を見せる。「どこから見ても美しい隙のないデザイン、ヘッドバンドを広げて装着しても、ハウジング中部を見ても美しく見えるところを目指しました。」と結ぶ桑尾氏。元々高い次元で完結していたMDR-1Rを超えるべく、一から構成を見直し、一切妥協のない取り組みの積み重ねによってMDR-1Aはさらに一段ステップを上がり、より普遍的な存在へと押し上げられたようだ。

MDR-1A開発を振り返り、その困難な道のりについて、潮見氏がプロダクトに込めた思いを語ってくださった。
「MDR-1AはMDR-1Rからの正統進化を目指していますので、これまで多くのリスナーの方々から評価されていたモデルを超えるというのがやはり一番のプレッシャーでしたし、大変なところでしたね。低域のキレや解像度をさらに高め、中高域については好評だったボーカル帯域の温かみを維持しました。100kHzまで特性が広がりましたが、なにより可聴範囲内でのサウンド変化が大きいですよね。バスドラムのレスポンスや声の明るさ、音像のダイレクト感。高域ではハイハットシンバルの消えざまなど、ハイレゾ音源の世界は、圧縮音源やCD音源よりも微細な音を正確に表現できるという特徴があるので、そこをしっかり再現できる設計を目指しました。」

MDR-1AのサウンドはMDR-1Rからの進化、よりハイレゾと親和性の高い解像感、音ヌケの良さを獲得し、高密度で存在感あるボーカル音像を堪能できるサウンドに仕上がっている。MDR-1Aは普遍性の高い"王道"という役割を与えられた新生MDR-1として、『サウンド・装着性・デザイン』をさらなる高みへと引き上げる優れたプロダクトとなっているようだ。

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商品情報

  • ステレオヘッドホン

    MDR-1A

    広帯域HDドライバーユニットが低域から100kHzの超高域までを再生。
    耳を包み込むような快適な装着感のステレオヘッドホン

  • ステレオヘッドホン

    MDR-1ADAC

    ソニー独自の高音質デジタルアンプ「S-Master HX」を搭載。ウォークマン(R)やXperia(TM)などとのデジタル接続で高品位なハイレゾリューション・オーディオを再現

  • ヘッドホンケーブル

    MUC-S20BL1

    MDR-1Aをより高音質で楽しめるバランス接続に対応したヘッドホンケーブル

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