- _2003年にF-115が販売終了となりますが、直接的な理由は何だったのですか。
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- 村上の発言
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SONY村上佳裕さん(以下、村上(佳)) ソニーがグリーンパートナーということで、無鉛化をはじめとした環境対策に取り組むことになったのが理由です。プロオーディオの製品は何百種類にもなりますから、主にビジネス的な観点で優先順位をつけて対応することになり、残念ながらF-115の順位は下げざるを得なかったということです。サービスパーツを用意しておけば、10年ぐらいは大丈夫だろうとの判断でした。僕らは、台風中継や「ビールかけ」中継などのアプリケーションは知っていましたが、まさかお天気情報カメラにも取り付けられていたとは知らずにいたことも、そうした判断の背景にあったことは否めません。
- 梶原の発言
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梶原 販売終了と聞いて、すぐにF-115を買いだめしました。そして本当に「お宝」のように大事に、大事に使ってきました。でも正直言うと、この段階ではまだ余裕があったんです。絶対、他社が出してくれるに違いない、何とかなるだろうと思っていましたね。でも、結果的にはダメでした。防滴マイクみたいなものはあっても、音がまったくダメだったり、信頼性に不安があったりで、F-115のように安心して使えるマイクは遂に登場しませんでした。そこでハタと困ってしまったわけです。多分当社だけでなく、他の放送局でも同様だったと思いますね。
- 村上の発言
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村上(信) 防滴にすると、音がスカスカになったり、あるいはこもったり、周波数的にいうと中低域がずっと欠けてしまうような音になってしまうんですね。F-115のような音、あるいは信頼性のある防滴マイクは出てきませんでした。その意味で、2007年のNAB(国際放送機器展)で、村上(佳)さんと梶原さんの出会いがなかったら、苦労はまだまだ続いていたことになりますよね。
- 梶原の発言
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梶原 そうそう。まさに天佑でした。村上(佳)さんとはかつてワイヤレスマイクの改善を一緒にやらせてもらったこともあり、顔見知りでした。その村上さんとラスベガスのNABの会場でバッタリ再会したんです。名刺を拝見するとプロオーディオ統括とあって、しかも「何でもおっしゃってください。やりますから」とまで言ってくれました。きっと社交辞令だったのでしょうが、このチャンスは逃すわけにはいかないと。「あります。F-115を復刻してください」と、すぐにお願いしました。こちらにとっては天佑でしたが、村上さんにとっては悪夢の再会だったかもしれません(笑)。
- 村上(佳)の発言
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村上(佳) そんなことはありませんよ(笑)。ただ驚いたのは事実でした。一つは先ほども言いましたが、お天気情報カメラへの取り付けといったアプリケーションを知らずにいたことが一つ。それから10年前後もメンテナンスフリーで運用されていたということ。私たちにとっては、まったく想定外の出来事でした。
- 村上の発言
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神田 私もまったく同感でした。防滴というのは、言ってみればちょっと水に濡れても大丈夫というレベルなんです。しかも、風雪雨の厳しい屋外環境で10年以上もメンテナンスフリーで使えるというのは何故なんだろう、どうしてそんなことができるのだろうか、逆に不思議な気持ちになりました。
村上(佳) ただ梶原さんたちの高い評価とF-115復刻に寄せる思いは、同じエンジニアとして十分に感じ取ることができました。というより、そういう熱い思いに感化されて、F-115復刻に向けてこちらの思いが高まってきたのは間違いありません。逆に、私の周囲の人間が慌てたほどでしたからね、そんなに簡単なことではありませんと。確かに簡単なことではないのですが、お客様がここまで信頼してくれて復刻に期待してくれたのですから、ソニーとしてそれに応えるのも大切なことだとF-115復刻プロジェクトをスタートさせることにしました。
- 梶原の発言
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梶原 嬉しかったですね。使う側と作る側のエンジニアの波長がピッタリと重なったという印象がありました。こうしたときには、必ずいいものができるんですよ。しかも、その作業にテストと評価という立場で参画できるわけですから、エンジニア冥利に尽きると思いました。