- _音質面で最も苦労された点は、またブレークスルーとなったテクノロジーは何ですか。
-
- 村上の発言
-
村上(佳) F-115が販売終了になった一番の理由は、当時はマイクユニットの無鉛化ができなかったことでした。そこで今回はマイクユニットを新規に開発するところからスタートしたのですが、これが最大の難関でした。それと、マイクというのは、基本的に補正回路などを付けることができないので、材質や部品によって、あるいはその組み合わせによって音が変わります。どこをいじっても音がコロコロ変わってしまうわけです。その辺を熟知したサウンドエンジニアでないと、微妙な音づくりというのはできません。その意味で、ブレークスルーとなったのは、やはり開発スタッフの経験と耳ということになるのではないでしょうか。
- 神田の発言
-
神田 結果的に、F-115BのマイクユニットはF-115のそれより大きくなりました。そのためクッション性を含めた構造面での検討をしてから、振動系の改善による音づくりを進めるという手順にしました。振動板のフィルムの厚みであるとか、ドームの補強、コイルの重さといった要素から音をチューニングしていくわけです。また、マイクユニットの径が大きくなったことで、原理的に感度を上げることができるのですが、その余裕分を周波数特性のバランス調整に活用しました。つまり、高域は元々出るのですが、併せて低域も出るような形にしています。基本的にトライアル&エラーで、微妙なバランスを調整したと言えます。
- 村上(信)と神田の発言
-
村上(信) 二度目の試作機については、音は非常に改善されたのですがショックノイズが大きくて、これでは使えないといった評価をしたこともありましたね。
神田 あれは、振動系を重くした結果でした。F-115の音に近づけるために重くしたのですが確かに手で持ったときや置いたときのショックノイズが大きく、実使用には適していませんでした。そこで、アルミに銅が付着した高級素材をコイルに使用することで、軽量化と音質を両立させました。
- 村上(信)の発言
-
村上(信) 確かに次の試作では、劇的に改善されました。最終形に至る試作も、3回か4回ぐらいで済んだ記憶があります。これだけのスピードでできたのも、双方にF-115と同じ音で同じ指向性、同じ周波数と同じ感度という具体的なターゲットがあったからだと思います。音という、非常に微妙な世界ながら、共通の言語、共通のイメージがあったことで初めて可能になったのではないかと思います。
- 梶原の発言
-
梶原 そうですね。設計自体は、環境対策もあって実質的にはゼロからのスタートだったと思うのですが、そういう条件下では完成までが非常に早かったと思います。それはやはり、目指すところがF-115の復刻という共通の目標があったからだと思います。何にせよ、使う側と作る側が同じ思いで一つの製品を作り上げた今回のプロジェクトというのは、昨今のモノ作りの状況の中では奇跡的なことだと思っています。そこに参画できて本当に良かったと思っています。
- 村上(佳)の発言
-
村上(佳) それは私たちも同様です。今回の経験で培ったノウハウを後輩たちに伝えていくとともに、ビジネスの観点でもF-115Bの新しいアプリケーションを積極的に開拓していきたいと思っています。