法人のお客様プロオーディオ 「F-115B」誕生の軌跡

防沫マイクロホン「F-115B」誕生の軌跡|使う立場と作る立場のエンジニア同士が紡いだ奇跡の物語

製品情報

ダイナミックマイクロホンF-115B 希望小売価格 73,080円(税抜価格 69,600円)

出席者
  • 梶原 巧 さん 株式会社TBSテレビ 技術本部 技術局 プロダクション技術センター報道・中継技術 兼 編成制作本部 報道局 映像センター

  • 村上 信高 さん 株式会社 TBSラジオ&コミュニケーションズ技術推進室

  • 村上 佳裕 さん ソニー株式会社 B2Bソリューション事業本部 コンテンツクリエーションシステム事業部 プロオーディオ部 統括部長

  • 神田 宏志 さん ソニーイーエムシーエス株式会社 湖西テック設計部門 商品設計3部 2課

再び驚愕の事実との遭遇、「バケツテスト」ってナニ?

_はじめに防水性能、耐候性・耐久性については、どんなテクノロジーを使ってクリアしたのか。またそれに対する評価テストについて紹介ください。
村上の発言


二重構造のウインドスクリーン

村上(佳) 簡単に言いますと、防水・防塵性と透音性を両立させることの難しさなんです。肝となるのが、ウインドスクリーンのメッシュ構造で、水滴の大きさを計測するといったことまでして、水が入りにくく、音はすっきり通るメッシュの二重構造としていることです。各接合部にはパッキン材を使用し、水滴の侵入を防いでいます。この辺にもF-115ならではのノウハウがあったんです。もちろん、素材や塗装に至るまで環境対策をしています。先ほど村上(信)さんからあったケーブル接合部のゴム材についても、シリコン系のゴムを使い、さらに万一の際は取り外して交換ができるような構造にしました。

神田の発言

神田 二重構造のウインドスクリーンと撥水コーティングの組み合わせ、それとマイクユニット上部に防滴スクリーンを採用するといった点がポイントになっています。塗装についても、下地に静電塗装をしてから本塗装の焼付け塗装をすることで強度を上げ、優れた耐候性・耐食性を実現しました。環境対策するということは、いろいろな面で過去の技術が使えないことになるので、その辺が難しさの一つでしたね。

梶原の発言

梶原 確か1回目の試作が届いたのが2008年初頭でした。東京は雨の少ない時期でしたので、沖縄の系列局に頼んで海辺の近くの鉄柱に取り付けて耐候性のテストを行いました。本当につまらないほどに何もありませんでした(笑)。F-115の実績を考えますと、当然の結果でもあるんですけどね。
耐水性については、先ほどチラッとお話したTBS伝統の「バケツテスト」を行いました。読んで字の如く、水を入れたバケツの中に試作機を入れて中でバシャバシャとかき回してから水を切り、音を出してみるというものです。僕らの大先輩もこのバケツテストを行い、それで合格したからF-115採用を決めたという逸話が残るテストです。

神田の発言

神田 今回の開発では何度も驚かされているのですが、これもその一つでした。まさか、こういうテストがあるとは最初は夢にも思っていませんでした。結果的に、F-115Bは防滴の上のレベルである防沫相当の試験でも問題ありませんでしたが、防沫であってもとても対応できるレベルのテストでないことは言うまでもないのですが(笑)。

梶原の発言


TBS"伝統"のバケツテスト。F-115と同様、
F-115Bもクリアすることができました。

梶原 確かにJIS規格からは完全に逸脱しています。誤解のないように、ソニーが保証しているわけではないこともきちんとお話しておかないといけないでしょうね(笑)。ただ、冗談は抜きにして、ソニーの保証はなくても僕らには必要不可欠なテストなんです。F-115がクリアしたテストをF-115Bもクリアしてくれないと、安心して使うことはできません。これは僕らの感覚では、何よりも重要なことなんです。

村上(信)の発言

村上(信) そういう意味では、最初の試作は水はけがあまり良くありませんでしたね(笑)。放送機器で水はけの善し悪しが議論されるというのも妙な話ですけど、最終形ではこの辺もきっちりクリアし、さっと水を切るとすぐに元の音を再生しました。この点で間違いなくF-115を再現することができたと評価できました。

梶原の発言

梶原 僕らのテストもすごいですけど、他の放送局のバラエティ番組では、タレントさんがF-115を持ってプールに飛び込み、そのブクブクという音をオンエアで使ったという歴史的事実も残っているんです(笑)。それだけどの放送局でもF-115の耐水性を高く評価していたというか、ある意味過剰な信頼感というか思いこみがあったのだと思いますね。

村上(佳)の発言

村上(佳) そのあたりについては、立場上ノーコメントということで(笑)。ただ私たちにとっては、合格をいただいたことでホッとしたのは事実ですけど。また、F-115というマイクに込められた私たちの先輩の技術やノウハウを、次の世代に継承することができた意義も大きかったと思います。