ZX2 Project Member’s Voice 世代を重ねることで進化した、 軸のあるプレミアムサウンド
モバイルオーディオの世界に新風を吹き込んだNW-ZX1を超え、新たなフラッグシップになったウォークマン「NW-ZX2」。ひとえに高音質を追求し、困難な自己革新に挑んだ開発メンバーに、飛躍的な進化を遂げた秘訣や、エンジニアとしてのこだわりをじっくりと聞いた。
まず、オーディオ回路ありき。常識外れのアプローチが可能にした、規格外の仕様
まずは、ヘッドホン出力のLCフィルターに採用された「大型コイル」の利点を教えてください。
佐藤 浩朗[音質設計]
NW-ZX1でもじゅうぶん大型のコイルだったのですが、NW-ZX2専用のものを新たに作ってさらに大型化しました。普通はヘッドホンアンプでは使わないような、スピーカー出力用に用いるようなサイズです。そのサイズ通り、巻かれているコイルの線径が太いので直流抵抗値がずっと低くなり、それによって低域の豊かさや高域の伸びやかさが変わってきます。
堀本 宏樹[メカ設計]
これも難儀な部品でした(笑)。見た目は剛性感があるんですが、この部品が収まっているアンプブロックは内部の空間が広いので、しっかり固定しておかないと基板がたわんだり、落下時などにコイルが筐体にぶつかって割れてしまうといった事態が予想されるので・・・。
いろいろな箇所を補強しつつ構造を再度検討して、微調整の連続の末になんとかクリアしましたが、ほんとうに悩まされた案件でしたね。
佐藤 浩朗[音質設計]
この抵抗器は、一般的な板状の形ではなく円筒状のものです。抵抗体の幅を一定にすることで、熱雑音の発生を大幅に抑えられるというメリットがあります。これにより音が本当に伸びやかになって、特に高域の透明感を出すことが可能になりました。
コスト的にはひじょうに厳しかったのですが、やっぱりこの音質には変えられません。据え置き型のアンプで使われているような高性能部品ですね。
吉岡 克真[電気設計]
アンプからヘッドホンジャックへの出力がL/R各1本、計2本の線材があるので、戻りであるグラウンドも同様に計2本必要だと考えました。L/Rを分離することでチャンネルセパレーションが向上し、抵抗値も半分になります。
佐藤 浩朗[音質設計]
ステージの広さや演奏者の立ち位置、ボーカルの口の開き具合などを正確に感じ取れます。大げさではなくて、本当にすごい臨場感です。
吉岡 克真[電気設計]
NW-ZX2ではオーディオ回路の配置を最優先に考え、それに必要なスペースを確保することを大前提に開発されたからです。具体的には、NW-ZX1の基板をベースに、大型パーツを含めオーディオ回路をブラッシュアップした音質原理試作を行い、顕著な音質向上効果が得られることをはじめに確認しました。
この試作基板により、商品企画・デザイナー・メカ設計担当にも、さらなる高音質化に必要な条件を納得してもらい、サイズを大きく厚くすることにGOサインが出たので、このように大型パーツを採用することができました。
佐藤 浩朗[音質設計]
NW-ZX1のときは、それまで個人的にウォークマンを改造してきたノウハウをつぎこみましたが、今回はプロジェクトメンバー全員で音質向上の検討ができたのがうれしかったです。本当にNW-ZX1の成功のおかげで、いろいろな部署からの助力をスムーズに受けることもできて、開発者として感謝の気持ちでいっぱいです。
吉岡 克真[電気設計]
NW-ZX1はコの字型の基板なので、その一部が細く狭くなり、オーディオブロックとデジタルブロックのパターンがかぶってしまう場所がありました。そうすると、メモリーなど頻繁にアクセスするエリアのすぐ横にオーディオの信号も通ることになるので、いくぶん影響を受けてしまうんです。
もちろんNW-ZX1のときも、できるだけ分けようとしたのですが、どうしても干渉するエリアができてしまいました。NW-ZX2ではそこに改良を加え、CPUやメモリーのあるデジタルブロックが完全に分離するよう設計し、オーディオブロックにまったく干渉しないレイアウトになっています。
堀本 宏樹[メカ設計]
シャーシの銅プレートがシールドケースのような役割を果たして、デジタルブロック全体をドームのようにすっかり覆っています。これによって、デジタルブロックから生じるノイズを外に漏らさず、オーディオブロックへの侵入を徹底的に防ぐ構造になっています。
堀本 宏樹[メカ設計]
一般的に構造体の場合、円形や正方形のシンプルな並びになっていると構造的には安定します。そういうわけで、電気設計からのオーダーはメカ設計として確かに厳しいものでしたが、両方にとって理想の配置になるよう、こちらからも積極的に解決策を提案しました。
「内から外に向かって仕様を決める」という今回の設計思想を、電気設計とメカ設計で共有できた象徴的なケースだと思います。
吉岡 克真[電気設計]
ご覧のようにオーディオアンプ部のコンデンサーとコイルは完全に左右対称になっていて、そこからヘッドホンラインに信号がスムーズに進みます。メカ設計には苦労をかけましたが、思い通りの理想的なレイアウトになりました。
佐藤 浩朗[音質設計]
「高純度無鉛高音質はんだ」というものなのですが、これも実はNW-ZX1の基板を使って試作を行いました。全箇所のはんだをこれに変えたら、低域・中域・高域のすべてにおいて透明感や柔らかさが際立って、今回狙った上品な印象のサウンドになりましたね。
佐藤 浩朗[音質設計]
NW-ZX2は基本的にハイレゾプレーヤーなんですが、44.1kHz系クロックによってCD音源の明瞭感・定位・音場が向上するので、より楽しめるようになります。加えて、DSD音源は44.1kHzの倍数の176.4kHzにリニアPCM変換するので、こちらも効果抜群です。
吉岡 克真[電気設計]
NW-ZX1のときはハイレゾ用の48kHz系クロックを用いて最適な演算処理を行っていたのですが・・・。今回はオーディオ回路の面積を広くとれたおかげで44.1kHz系クロックも載せることができ、その結果、CD音源もDSD音源もびっくりするぐらい音が良くなりました。なお、それぞれのクロックには、NW-ZX1のものよりも大型で位相ノイズが少ない部品を使用しています。
原田 紀[ソフト設計]
クロックが2個あるとソフトウェア制御は面倒になります。ソースが変わるたびに、44.1kHz系と48kHz系を切り替えなきゃいけないので。
佐藤 浩朗[音質設計]
おかげさまで、20年ぐらいずっと聴いているCDのはずなのに「こんな音が入っていたんだ」ってハッとすることがありました。ぜひ、昔聴いていたアルバムなどを聴き直してみてください。きっと新しい発見があると思います。
ウォークマンZXシリーズ
NW-ZX2
磨き抜かれた、高音質技術の結晶