ZX2 Project Member’s Voice 世代を重ねることで進化した、 軸のあるプレミアムサウンド
モバイルオーディオの世界に新風を吹き込んだNW-ZX1を超え、新たなフラッグシップになったウォークマン「NW-ZX2」。ひとえに高音質を追求し、困難な自己革新に挑んだ開発メンバーに、飛躍的な進化を遂げた秘訣や、エンジニアとしてのこだわりをじっくりと聞いた。
その丸みは、頑なデザイン思想の証。高音質設計から導かれた必然の形
矢代 昇吾[デザイン]
私が考えるデザインの役割は、エンジニアによる高音質設計を受けて、その要素をいちばんいい形に落とし込んでいくということです。NW-ZX1のときは「高音質を構成する要素を、むき出しに表現したデザイン」というコンセプトを掲げて、その結果、背面がふくらんだりとかなり無骨な姿になりました。当然携帯性が要求されるモバイル機器は、フラットに作るという世の中の潮流がありますが、それとは真逆のようなスタイルに仕上げたのがNW-ZX1です。
社内でも発売するまでは本当に賛否両論でしたが、発売後はお客さまの心にはすごく響いて気に入っていただけました。正しいと信じることを貫き通して、それがユーザーの皆さんに認められるというのは、喜びはもちろんですが、何より自信とエネルギーを与えてくれます。ですから、根底にあるデザイン思想の「高音質を実現するための最高の形」というのはNW-ZX2でも引き続き、そこは揺るぎなくやるというのが私の中での大前提でした。
矢代 昇吾[デザイン]
確かにそういう声もたくさんあって、議論は白熱しました。でも、NW-ZX2では大幅な設計の進化がありましたから、それにともなってデザインも進化するのが必然なんです。そして今回の設計条件で最適なデザインを追求した結果、NW-ZX1とは異なるこのような丸みを帯びたフォルムが出てきました。
矢代 昇吾[デザイン]
高音質設計を守るため、一層の剛性の確保を考えて「サイドに丸いふくらみを持たせた肉厚なボディ」にしました。今回は大型パーツ等を多数搭載したことでサイズも大きくなり、重さも増していますが、丸みを持たせたことで手にしたときのフィット感も向上しています。
佐藤 浩朗[音質設計]
ほんとうに偶然なんですが、前回のNW-ZX1は、エッジのきいたやや硬めのサウンドにフィットする無骨なフォルム。今回のNW-ZX2は、なめらかでエレガントな音質に調和するラウンド形状になっているんですよね。
矢代 昇吾[デザイン]
NW-ZX1と同様にアンプブロックによるふくらみです。高音質を作り出すうえで最も重要なディテールであり、ZXシリーズの比類なきデザインアイコンといえますね。
矢代 昇吾[デザイン]
NW-ZX2の高音質に寄与しているシャーシ部の金メッキ銅プレートは外からは見えないのですが、その要素をデザインに生かしたくて、ささやかにフィーチャーしました。
フラッグシップモデルで高価な製品だから、高級さを表現するための「金」と捉えられる方もいるかもしれませんが・・・そうではなくて、性能の進化の象徴として、そういうパーツを使うことで音質が向上しているという事実を、この背面のW.ロゴに込めています。
矢代 昇吾[デザイン]
けっして無意味に誇張したわけではありません。アンプからヘッドホンジャックへ信号を出力する分厚いOFCケーブルが1本増えて4本になったので、それらをミニマムの大きさで包んで固定したときに、必然的にこの「径」って出てくるんですよね。
矢代 昇吾[デザイン]
これも、基本的な考え方は変わりません。作為的なデザインをせずに、丸という単純なファクターで最も使いやすい形状を探りました。
押しやすくするために大きくして、さらにボタンとサイドフレームの境界の段差を指掛かりとして機能させることで、バッグやポケットの中でも迷うことなく操作できる作りです。それから大きくはしてあるけれど、出っ張ることなくボディの一部として溶けこむフォルムになるよう調整してあります。
矢代 昇吾[デザイン]
素材は一緒なんですが、αで使っているそのものではなくて、シボ目の大きさなどをNW-ZX2用に最適化した仕様になっています。
堀本 宏樹[メカ設計]
当然、専用の金型が必要なので、NW-ZX2独自の革シボデザインをデザイナーに作ってもらいました。
矢代 昇吾[デザイン]
デザインの元にしたパターンも、本物の革の中から最も良いシボ目のものを選んで、その自然の綾のところをうまく拾うことができました。おかげで、他ではあまり見られないアナログ感のあるシボ表現に仕上がったので、とても気に入っています。
NW-ZX1と比べるとシボ目がもっと深くて、ラバーながら革のリアリティーを表現できていると思います。あと、よりグリップが効くので持ち心地がすごくいいですね。
堀本 宏樹[メカ設計]
αに求められるようなレベルのグリップ感を生む高精細なシボ目が、すごく手に馴染んでしっくりくるんですよね。
矢代 昇吾[デザイン]
背面下部のアンプブロックのふくらみとラバー、そして側面の丸みでバランスを微妙に調整して持ちやすくしました。
もしNW-ZX1のデザインをそのまま踏襲していたら・・・あれだけ角ばった形状で今回のサイズになると、持っているときに相当辛かったと思いますよ。やっぱり、ZXシリーズとして無理やり形を合わせるのではなく、それぞれのモデルに最適なプロポーションがあるので、そこを探っていくのが大切ですね。
矢代 昇吾[デザイン]
品位のある質感というか鉄の生の触感・・・どこか南部鉄器を思わせるテクスチャーですよね。
アルミの仕上げはショットブラスト加工といって、粒子を当てるとザラザラになり、逆に当てないとピカピカになります。その粒子を当てる時間などを変えることで狙った表情を作り出すのですが、そのあたりの調整はメカ設計と一緒に製造現場に行って、かなり試行錯誤しました。
堀本 宏樹[メカ設計]
前面と側面の表情が違うのですが、丁寧にマスキングしながら粒子の大きさや量、吹き付ける時間、当てる角度を変えつつ何度も何度も微修正して、ようやく完成しました。驚くようなコストがかかってしまいましたが(笑)。
矢代 昇吾[デザイン]
贅沢ですよね(笑)。NW-ZX2は高価な製品ですから、ボディを保護するようにしっかり包みこんで留めるだけの、最もシンプルなデザインにしました。それと、ケースに入れたままハードウェアボタンを操作できるよう、側面に穴を開けています。穴のサイズについては、メカ設計と相談しながら押しやすさを検討して設定しました。
矢代 昇吾[デザイン]
こちらはさらにいい革で作られていて、皮革産業の歴史が古く、なめしの技術に定評のある姫路産の革を採用しました。ほんと、この背面の艶かしさがたまらないんですよね。使い込んでいくうちに手の脂がつくと味が出て、どんどん深みを増していくんです。
堀本 宏樹[メカ設計]
その背中のふくらみは、熟練の手作業でしかできない絶妙な塩梅で、NW-ZX2本体のラインに沿って丁寧に仕上げてあります。
矢代 昇吾[デザイン]
まず高さと重さに驚かれると思うんですけど、実はNW-ZX2本体と同じようにコンデンサーが入っています。
吉岡 克真[電気設計]
今回はクレードルも高音質化を図り、電源部に「OS-CON」を3個使って強化してあります。さらに、クレードル内部に外で使うような同軸ケーブルを気前よく使って、2枚の基板の間をつないでいます。USBのデジタル信号を通すときの品質が音にいちばん影響を与えるので、そこに配慮したというわけです。
矢代 昇吾[デザイン]
もうひとつの特長は、右側面の斜めに切り開かれた溝です。これによって、本体を充電しながらでも、ヘッドホン端子を差して音楽を楽しめるようになりました。たとえばソニーのMDR-Z7のプラグはかなり大きいのですが、それも問題なく差せるぐらい、余裕をもたせた広く深い凹みになっています。
なお、外側は強固なアルミで覆われていますが、本体やプラグを接続するときに傷がつかないよう、内側にはラバー素材を使っています。
田中 光謙[商品企画]
音質を最優先に、エンジニアの皆さんがこだわり抜いて設計したモデルなので、「モバイルでこんな音が出るのか!」と感動してもらえると思います。ぜひ、実際の音をご試聴ください。
佐藤 浩朗[音質設計]
NW-ZX1に続いて、さらに上をいくフラッグシップモデルを担当することができて、エンジニア冥利に尽きます。NW-ZX1とはまた趣の異なる音なので、ぜひ店頭などで試聴してみてください。そして、気に入って買っていただけたら最高です。
繰り返しになりますが、かつて愛聴していたCDを可逆圧縮ファイルにして、あらためて聴いていただくと、特にレコードを知っている世代の方々にとって懐かしい感じのサウンドを楽しめると思います。NW-ZX2はものすごく細かいところまで表現できるので、そういった格別の体験をしてもらえると嬉しいですね。
吉岡 克真[電気設計]
さきほどもお話したように、NW-ZX2は構造や基板設計を一から見直し、より自由に高音質を追求したモデルなので、聴き比べていただくとNW-ZX1との違いをはっきり感じられるはずです。
音質設計の佐藤が言ったように、CD音源を聴き直すと「こんな音が入っていたんだ!」と興奮しますし、ハイレゾ音源では極上の音質を堪能できると思います。また、別売のクレードルも音質へのこだわりをもって設計したので、ぜひ併せてご使用いただければ幸いです。
堀本 宏樹[メカ設計]
内部の部品にはこだわりにこだわり、外装にもさまざまな工夫を凝らし、苦労を重ねて作り上げた製品です。音質はもちろんですが、手にしたときの質感とか、所有する喜びなども感じながら楽しんでいただければと思います。
原田 紀[ソフトウェア設計]
ひとつ楽しみにしていただきたいのが、箱を開けて最初に電源を入れたときのブート画面とそれに続くアニメーション画面で、NW-ZX1から一新してあります。
NW-ZX1ではアクティブな感じの演出だったのですが、NW-ZX2ではこの値段相応のちょっと落ち着いた、しっとりとした演出のアニメーションに変わっています。購入されたお客さまに、そういった世界観へのこだわりも体感していただき、そして喜んでもらえたら、開発者としてこれほど嬉しいことはありません。
矢代 昇吾[デザイン]
このモデルはウォークマンブランドを背負うようなところもありますし、エンジニアもデザイナーも腕を試されるところがあるんですが・・・設計の進化がそのままデザインの進化につながって、それらが製品そのものの進化に結びつくという醍醐味を今回も味わえました。
NW-ZX1のときもそうでしたが、手前みそながら素晴らしいチームと一緒に仕事ができたことが実に誇らしいです。求められるものはシビアでしたが、ほんとうに楽しかったです。そういうポジティブな気持ちが製品のすみずみにまで行き渡って、こだわりを細部まで表現できていますので、ぜひユーザーの方にも楽しんでいただければと思います。
ウォークマンZXシリーズ
NW-ZX2
磨き抜かれた、高音質技術の結晶