ユーザーの声に応えることで
生まれた
新時代の完全ワイヤレスヘッドホン
『WF-1000XM4』
2019年に発売され、優れたノイズキャンセリング性能や高音質で、音にこだわるファンからも高い評価を集めた完全ワイヤレスヘッドホン『WF-1000XM3』。その後継モデル『WF-1000XM4』は、これまでソニーに寄せられた多くの声や社会情勢の変化を踏まえて生み出された、新時代のための製品です。ここでは、『WF-1000XM4』の開発に携わった7名の開発担当者たちが、どのような声や想いを受けて製品を作りあげていったのかを前編・後編の2回に分けてたっぷりと語ります。
後編では、現在の完全ワイヤレスヘッドホンに求められる機能や快適さとはなんなのか、それを『WF-1000XM4』が高いレベルで満たしていることを解説します。
本坊:もちろんお使いいただけます。こうした利用状況の変化・拡大はソニーとしても把握しています。そこで『WF-1000XM4』では音楽のみならず、通話体験の向上にも力を入れています。
本坊:新たにビームフォーミング技術と骨伝導センサーを搭載することで、従来機種と比べて声だけを拾えるようにしています。これによって、周囲がざわついている場所でも相手に声だけを届け、スムーズでストレスのない音声通話をお楽しみいただけるようになりました。
神田:ビームフォーミング技術とは、特定の方向に対して感度を上げる、つまり強い指向性を持たせる技術のことです。『WF-1000XM4』ではこのビームフォーミング技術によって通話用マイクに指向性を持たせて、ユーザーの口元の音を拾いやすく、それ以外の方向からの音は拾いにくくする調整をしています。これによって周囲がうるさい場所でもユーザーの声を抽出してクリアに相手に届けられるようになりました。
もう1つの骨伝導センサーは、装着している人の体内の振動を拾うセンサーです。人間が声を発するときは音が空気を伝わる「空気伝導」と、振動が体内の骨を伝わる「骨伝導」が発生しています。先にお話ししたビームフォーミング技術は空気振動を適切に拾うためのものなのですが、『WF-1000XM4』では、さらにクリアに音を取得するために骨伝導も利用しています。体内(口内)から発生する音は頭蓋骨を振動させますが、周囲の騒音や風が骨を揺らすことはほとんどありません。この特性を利用することで、騒音下や風の強い環境下でも声の成分だけを抽出できるのです。ただし、骨伝導センサーはあくまで振動を拾うデバイスなので、振動にならない高域成分は拾いにくく、マイクと組み合わせることでより効果的に声を拾うことができます。
神田:例えばオフィスや混み合った駅のホームのように周囲がとてもうるさい場所でも、聞き返されることのないストレスフリーな会話が可能です。また、声を張り上げなくてもしっかり相手に声が伝わりますから、カフェなど、公共の場でも周囲に迷惑をかけることなく通話できます。
辻:『WF-1000XM3』では、高機能化のために本体サイズが大きくなっても身につけやすいデザインを追求しましたが、『WF-1000XM4』では高機能であっても本体サイズをコンパクトにし、装着性をこれまで以上に高めたいという思いがありました。そのためには小型軽量化だけでなく、快適な着け心地とより安定した装着感なども重要です。もちろん、見た目の良さも譲れません。これら全てを同時に成立させるべく設計担当からデザイナーまでが一丸となって生み出したのがこの形状です。
小澤:小型軽量化については、『WF-1000XM3』では音響構造部と基板の入っている部分が別々のブロックになっていたのですが、『WF-1000XM4』ではこれを一体化するなどして体積と重量を削減しています。防滴への対応や骨伝導センサーなどパーツが増えている中でこれを実現するのはなかなか大変でしたね。ただ、苦労の甲斐あって、小型化することができ、さらにセット重量は『WF-1000XM3』(各8.5g)と比べて各1.2gほど軽くなっています。
大西:『WF-1000XM3』では耳の中の3点で本体を保持する「エルゴノミック・トライホールド・ストラクチャー」という構造を採用していたのですが、『WF-1000XM4』ではさらに装着感を高めるため、点ではなく面で支える新しい構造を採用しています。開発の初期段階で、耳の内側に液体を入れて固めたような、耳の内側の形状を模したモデルを提案し、メカ設計チームと一緒に、そこにどうデバイスを入れ込んでいくかを考えました。
大西:ソニーは長年蓄積した、たくさんの耳の形状データを保有しているので、それらを使って、多くの人の耳に最適にフィットする形状がどのようなものかを検証していきました。最終段階では0.1mm違いのテストピースを何度も試作し、実際に多くの人に装着してもらう形で改良を重ねました。
床爪:安定性が増し、快適な着け心地になりましたよね。
大西:そうして生まれた耳内の空間に多くのデバイスを凝縮して搭載し、装着時に耳の外に飛び出す部分をできるだけ押さえるようにしています。この際に工夫したのが、ノイズキャンセリング処理に重要なマイクを耳の壁に当たらないようにすること。試行錯誤の末、珠間切痕(じゅかんせっこん)というくぼみの部分にマイクを配置したのですが、結果としてソニーの技術力の高さを表現するアクセントにもなってくれたと感じています。
辻:『WF-1000XM3』もノイズキャンセリング用マイクの部分をデザイン上のアクセントにしていましたが、『WF-1000XM4』ではそれ以上にこの部分を美しく表現することにこだわりました。個人的にもとても気に入っているところです。
大西:軽く、飛び出しが小さくなることで、重心が身体の中央に寄り、頭を動かした際に振られる感じを抑えたことも大きな改善点だと思います。これはフィットネスやジョギングなどの軽運動をしている時に効いてきますよ。
小澤:先ほどの音響の話に挙がっていた新しいノイズアイソレーションイヤーピースもそうした装着安定性向上に貢献しています。
本坊:幅広いお客さまから高い評価を受けた先代モデル『WF-1000XM3』ですが、それゆえに一部のお客様からは「雨の日でも気にせず使いたい」「風が強い日でも風の音を気にせずに音楽を楽しみたい」といった、悪天候でも安心して使えるようなアップデートを求める声をいただいていました。
これを受けて『WF-1000XM4』では、まずJIS防水保護等級IPX4*相当の防滴仕様を実現することで雨中でも安心して音楽を楽しめるようにしました。さらに自動風ノイズ低減モードを追加することで、強い風が吹く日でも没入感を損なわないようにしています。
* JIS防水保護等級IPX4とは、あらゆる方向からの飛沫に対して本体性能を保護するものです。
小澤:ランニング、エクササイズ中の汗や、突然の雨で濡れてしまったというシチュエーションを想定しています。このような利用シーンではより安心して楽しんでいただけます。シャワーの直撃や水洗いには対応していません。仕様としては「防滴」となりますので、お手入れ等は取扱説明書をご参照ください。
小澤:『WF-1000XM4』の優れた音響性能と防滴仕様を両立させるのが大変でしたね。音質観点では微細な空気をコントロールするためにも空気が通りやすい構造が有利なのですが、防滴観点では水が内部に侵入しないよう空気の通り道を塞ぐ必要があるんです。そこで音響担当のメンバーと初期構想から密接にやり取り・試作することでこれを実現しています。
床爪:周囲のノイズを打ち消してくれるノイズキャンセリング機能ですが、風が強いところで使うと不快な「風ノイズ」がユーザーに聞こえてしまうことがあります。これを低減するための機能が自動風ノイズ低減モードです。
床爪:ノイズキャンセリング機能は、本体のマイクでノイズを拾い、それとは逆位相のノイズキャンセル信号を生成することでノイズを打ち消す仕組みです。ところがこれを風が強いところで使うと、マイクに風が当たってノイズキャンセル信号が乱れてしまうのです。これが風ノイズの原因です。『WF-1000XM4』の自動風ノイズ低減モードは、マイクに風が当たっているのを検知すると自動的にノイズキャンセリング方式を変更して風ノイズが発生しにくいようにしてくれるというもの。全自動で切り替わるので、意識していただく必要はありません。屋外で使うことが多い方には効果を実感していただけると思います。
辻:『WF-1000XM4』では、好評をいただいているタッチ操作を継承しつつ、ヘッドホンがお客様の状態をくみ取って、自動で最適な設定に切り替えるスマート機能をいくつも追加しています。たとえば、ヘッドバンド型の人気モデル『WH-1000XM4』で高い評価を受けている「スピーク・トゥ・チャット」を完全ワイヤレスヘッドホンでは初めて実現しました。
床爪:「スピーク・トゥ・チャット」は、音楽再生中にユーザーが声を発すると自動的に再生中の音楽を一時停止し、さらに相手の声をマイクで取り込んで聞きやすくしてくれるというもの。これによって、手を使うことなくヘッドホンをしたまま会話を始めることができます。自宅での作業中に家族に話しかけるときや、カフェで注文をするとき、コンビニで買い物をするときなど、ちょっとした会話をしたいときにお使いいただくと便利です。
機能としてはヘッドバンド型の『WH-1000XM4』に搭載されているものと同じなのですが、これを完全ワイヤレスヘッドホンの形状で実現するのがかなり大変でした。『WH-1000XM4』では左右のハウジングに搭載された複数のマイクを使ってユーザーの発話を検出しているのですが、『WF-1000XM4』では形状の違いから同じ方式では実現できませんでした。
床爪:今回は新規に開発したボイスピックアップテクノロジーによりユーザーの発話をセンシング。そこから、ソニー独自のAI技術によりユーザーの発話とそれ以外のノイズを高精度に判別します。これによって、「スピーク・トゥ・チャット」を完全ワイヤレスヘッドホンでも実現することができました。いろいろな環境でお使いいただけるようにするために、学習データを大量に集めたり、さまざまな条件でテストをしたりするのが大変でしたね。
坂根:『WF-1000XM3』では、ボイスアシスタント機能を起動する際は、タッチパネルを押下した状態で行う必要がありましたが、『WF-1000XM4』では、手を使わずに声で「Alexa」や「OK Google」と言うだけで、スマートフォンのボイスアシスタントを呼び出すことができます。
辻:これによってさまざまな操作をハンズフリーで行えるようになります。洗い物をしながら聴きたい音楽を再生したり、天気を調べたり……。手が空かない時、とっさの時に音声で操作できるのはとても便利ですよ。
大西:はい。『WF-1000XM4』では、世界的な意識の高まりを受けて、プラスチックフリーパッケージを採用しています。この製品の開発初期にユーザーに対してデザイン調査を行ったところ、多くの方が環境問題を意識し、企業や作り手にも対応を求めていることがわかりました。そこで『WF-1000XM4』ではソニー独自のオリジナル ブレンデッド マテリアルを利用し環境に配慮したパッケージを新開発。パッケージだけでなく、製品をキズから守る保護シートなどにもプラスチックを用いず、完全な脱プラを実現しています。
坂根:国内外で市場調査をしたところ、あまりに多くの情報が記載されたパッケージや説明書はむしろ購買者に響かないということがわかりました。環境に配慮した設計ポリシーを持った商品を買いたいという声も多く、それも背中を押してくれましたね。
なお、環境配慮素材の採用にはコスト面の課題があります。これが足かせにならないよう、梱包時のデッドスペース削減や取扱説明書の削減・電子化など、商品全体での小型化を徹底し、セット単体だけでなく、梱包部材面積を減らすことでコスト減を図りました。梱包サイズの小型化は輸送時や保管時の環境負荷低減にも寄与できたと言えると思います。
本坊:『WF-1000XM4』は、業界最高のノイズキャンセリングによって、今までにない静寂な世界への変化をお楽しみいただける製品です。ぜひソニーストア店頭などで、その感動を体験していただきたいですね。その際には、ぜひ自分のお気に入りの楽曲をお持ちこみいただき、聴き慣れた音がどのように再現されるかを味わっていただければうれしいです。
神田:本製品のノイズキャンセリング機能は私が担当したのですが、その私自身が使って驚くほどの性能に仕上がっています。この製品が、皆さんの音楽に没入して過ごす時間を増やし、日々の生活を豊かにしていくお役に立つことを祈っています。
辻:はい。ノイズキャンセリングヘッドホンなので、ノイズのない静寂体験をぜひ体感していただきたいのはもちろんですが、使いやすくなるよう細かい工夫をたくさん散りばめています。お手に取って「最新の完全ワイヤレスヘッドホンってこんなに便利になっているんだ!」と実感していただけるとうれしいです。
床爪:『WF-1000XM4』には「スピーク・トゥ・チャット」のような快適性を高める機能が多数搭載されています。これによって、ヘッドホンを長時間、日常的に身につけている方にとっては、とても使いやすい製品になったのではないでしょうか。その快適さを一人でも多くの方にご体感いただきたいです。
小澤:私も、あらゆる面で進化した『WF-1000XM4』の高性能を、快適な着け心地と安定した装着感で使ってほしいという想いで設計しました。新たに対応したJIS保護等級IPX4相当の防滴仕様によって使えるシーンもより幅広くなっています。ぜひ、いろいろな場所でお使いいただきたいですね。
大西:この製品では耳の曲線をトレースしたような形状の実現にこだわりました。それによって実現した、快適な着け心地とフィット感をまずお試しいただきたいです。その上で、新しい充電ケースにも力を入れました。ポケットに入れて持ち歩きやすい形状、サイズを追求したので、ケースと一緒にいろいろな場所に持ち歩いてください。
坂根:『WF-1000XM4』はソニーの持つ技術を惜しげもなく盛り込んだ製品です。この1年半ほどで世の中が大きく様変わりし、働き方や日々の暮らし方が変わってしまいましたが、この製品があれば、そうした新しい日常を楽しく、豊かに、快適に過ごすことができると思います。さらに、この製品では環境対応という点でも大きく一歩を踏み出しました。これによって持続可能な社会への貢献という点にも寄与できたと自負しています。