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森貞英彦 4.AIBOは人間とコミュニケーションするロボット 開発者インタビュー
話し手 森貞英彦 Hidehiko Morisada

「ビジュアルパターン認識」機能を使ったプログラムの開発を担当

 

――ERS-7では、「AIBOカード」というAIBOとコミュニケーションができるアイテムが新しく加わりました。人がカードを見せるとそこに描かれているパターンを読みとって行動する。そこに「ビジュアルパターン認識」という機能が利用されているということですが。
森貞 ビジュアルパターン認識はAIBOカードを認識するためだけの技術ではありません。ERS-7のエナジーステーションには、ステーションポールに幾何学的なパターンが描かれていますよね。これはよく「バーコードみたい」といわれるんですが(笑)。実は、ここにもカードと同じビジュアルパターン認識が使われています。AIBOはステーションポールに描かれているパターンを読みとって、自分がいる位置を推測することで、ステーションマーカーを正確に探し出すことができる。つまり、何かに描かれているパターンを読みとることで、そこに示されている「意味」を理解することができる。それはAIBOカードのようにAIBOに対する「指示」だけじゃなくて、AIBOのいる生活環境(世界)の中で、どこに何があるかを示す「標識」のようなものとしても使えるんです。

――実際にAIBOはこの画像のパターンをどういう風に認識するのですか。
森貞 AIBOカードの目覚まし時計設定ビジュアルパターン認識の原理は、人間がモノを見て記憶したり、認識したりする仕方と似ています。人間は「何となく見たことがある」とか「何となく似ている」というような感じで、記憶や認識をしますよね。たとえば、図1のようなAIBOカード(目覚まし時刻設定)を見て記憶する場合、カードに描かれている絵の細かいところまでは全部見ていないはずです。「丸い時計がある」とか、「真ん中の時計は緑の色だ」とか、「時計の針は10時10分あたりを差している」とか、必要なところだけをピックアップして覚える。秒針があるかないかまでは見ていない。つまり、特徴的なポイントをいくつか見つけて記憶し、次にそのカードを見たときは「確かこんなカードだったな」という感じで認識をする。ビジュアルパターン認識というのは、まさにそのような「描かれているパターンの特徴点を抜き出して、その位置関係を覚える」という考えにもとづいて、画像認識を行う技術なんです。

――図1のカードでいうと、AIBOも人間と同様に、丸い時計があるとか、時計の針は10時10分あたりを差しているといた特徴点を見ているわけですか。
森貞 そうです。ただし、時計や短針・長針といった意味はAIBOにはわかりません。実際には、円、短い棒、長い棒などの画像があるということと、それらの位置関係を認識しています。そして、内蔵している画像データベースを参照して、いま見ているパターンの特徴点と同じ画像を知っている(記憶している)かどうかという処理をすぐに行います。特徴点が一致するパターンの画像が見つかれば、「この特徴の組み合わせは目覚まし時刻の設定だな」とか、「これは写真撮影だな」という具合に、個々のパターンに関連づけされている意味を理解することができるわけです。

――ステーションポールの場合はどのような仕組みになっていますか。
森貞

種明かしをすると、AIBOはステーションポールの周囲をぐるりと被っているパターンを45度ずつ分割した画像を記憶しているんです。そして、実際にステーションポールに向かった場合に、カラーカメラに映っているパターンの特徴点から、どの画像と似ているかを判断します。これによって、ステーションポールを見た瞬間に、AIBOはいま自分がどの方向にいるのかを推測することができるわけです。

どのパターンが見えているかで自分の位置がわかる

――ビジュアルパターン認識でAIBOはさまざまな意味を理解しているわけですね。
森貞 ええ。ビジュアルパターン認識の特徴は、画像を見たときにAIBOがダイレクトに反応できるという点にあります。AIBOカードでは、パターンの意味するところをその場で正確に理解し、行動することができる。AIBOにとってみれば、ビジュアルパターン認識で描かれた画像は、まるで文章で書かれた情報のようなものです。一方、人間から見ると自分が出した指示や情報を、その場で確実に理解してすぐに行動するので、「AIBOはちゃんとわかっているんだな」と思うことができます。この点では、人間とAIBOのコミュニケーションをより深めることができる技術だといえます。

――ビジュアルパターン認識を使って、AIBOは今後どんな方向に進化するのでしょうか。

森貞 壁などの特徴的なパターンが覚えられるビジュアルパターン認識は大きな可能性を秘めた技術です。AIBOカードの中に「まがれ」の指示を出すカードがありますが、上下左右の4方向を1枚のカードでAIBOに伝えることが可能です。従来の画像認識では難しかった「向き」の認識ができる。さらに、カードなどに描かれた画像だけでなく、図3のように部屋の中の好きな場所を覚えることもできます。AIBOが部屋の中を探索する中で、お気に入りの場所を見つけると、ビジュアルパターン認識を使って自分で場所を覚えるんです。今後は、場所だけでなく、好きなものも覚えことができるようになると面白いですね。私はビジュアルパターン認識というのは、現実の世界とAIBOをつなぐ「かけ橋」のような技術だと考えています。この技術を進化させることで、AIBOの知性をさらにアップすることができるはずだと、私自身もワクワクしています。

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はじめに:ロボット文化とAIBO AIBOは人間とコミュニケーションするロボット AIBOは人と人をつなぐロボット
AIBOではじまる人間とロボットの共存 AIBOは学習・成長するロボット AIBOが拓くロボット開発の世界
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