OPEN-R(Open Architecture for Entertainment Robot)とは、エンターテインメントロボットの世界を広げるためにソニーが開発したアーキテクチャーです。アーキテクチャーとは「設計思想」という意味で、この場合は、エンターテインメントロボットを構成するハードウェア、およびソフトウェアの仕組みを定めたものです。実際に、AIBOはもちろんのこと、2足歩行ロボットであるQRIOも、OPEN-Rを使って開発されています。
OPEN-Rの特徴は、ハードウェアやソフトウェアを、モジュールと呼ばれる部品単位で分割して扱うところにあります。ソフトウェアの場合、モジュール単位に分割して、部品として作ったプログラムのことを「オブジェクト」と呼びます。図にあるように、AIBOのソフトウェアは小さなオブジェクトが複数集まり、それらが同時並行的に、協調しあいながら動くことで実現されています。1人1人が作業分担を持ち、普段は別々の仕事をしながら、必要なときに連絡をとりあい、情報交換をすることで全体として機能する、会社組織のようなイメージです。実は、人間や動物のように、同時にさまざまな処理を行いながら自律行動ができるエンターテインメントロボットを作るには、このようなソフトウェアの仕組みが必要になるのです。
人間でも、犬や猫などのペットでも、何かの遊びに熱中している最中に背後から名前を呼ばれると、遊びを中断して声がした方向を振り向くことができます。つまり「遊びをする」という行為と同時に「周囲の音を聴く」という行為を同時に行っているのです。人間や動物のように自然なふるまいができるロボットを作るためには、身体の各部分を別々に制御するようにし、何かの作業を行っている最中でも、別の何かを感知したら、とっさにその重要度を判断し対応をするという能力が必要です。
家電製品に代表される機械は、一般的に単機能なものが多く、動作中は同時に1つのことしかできないものがほとんどです。パソコンのような高度な情報機器になると、マルチタスク機能を備え、インターネットでホームページの閲覧をしながら、同時にワープロで文書作成をするといったことが可能です。ただしその場合も、処理に関する判断はほとんど使用者である人間が行います。これに対して、AIBOのような自律ロボットの場合は、生活空間の中を自分の脚で動き回りながら、さまざまな情報をリアルタイムに取得し、自分で処理(理解・判断・対応)をし続けなければなりません。
このように「常に複数のことを考えながら自律行動をする」という、高度な機械としてのロボットを実現する“下地”となっているのがOPEN-Rです。OPEN-Rがハードウェアやソフトウェアを分割し、ぞれぞれの部品が協調しあう形のアーキテクチャーを採用している根底には、このような考え方があるのです。 |