――ユーザーの“より高い期待”に応えるポイントが、まだまだありそうですが。
尾崎:Z1Rでは、通常のステレオ接続用ケーブルに加え、バランス接続が可能なケーブルも同梱しています。バランス接続では、より低歪で立体的な音が体験できるようになります。
潮見:そして今回、φ4.4mmのバランス標準プラグを採用しました。これまでヘッドホンのバランス接続にはいろいろな種類の端子が混在していて、お客様にとって決して好ましい状況ではありませんでした。
このような状況の中、2016年に日本の電子情報技術産業協会(JEITA)がステレオヘッドホン用バランス接続の規格としてφ4.4mmのプラグを規格化しました。 各社のヘッドホン専門家が集まって決めた規格ということもあって、音質、強度のバランスが良く、ヘッドホン用途としては、最適な端子といえます。ジャックを1本にまとめているので、ホームオーディオだけでなく、ポータブルオーディオとしても搭載しやすいサイズなのもポイントです。
尾崎:また、KIMBER KABLE®社と協力して開発したヘッドホンケーブルを用意し、ケーブル交換のご要望にもお応えしています。ケーブルがヘッドホン自体の音の性格を根本的に変えてしまうことはありませんが、ケーブルの選択によって音が変わるのも事実です。
――デザイン面にも、強いこだわりを感じますね。機能美みたいなものが直感的に伝わってくる。
矢代:全体のデザインコンセプトは、音をつくっている本質的な要素を最大化して、それ以外の要素を削ぎ落とすということです。初めてお客様が見た時に「音が良さそうだ」と感じ、「なぜ音がいいのか伝わる」デザインにしたいと思いました。例えば、ハンガーは軽量化のためにかなり細く削っていますが、貧弱に見えてしまうと品位というものは崩れてしまいます。一方で、強度を保つために必要な軸が入っている部分などは、すごくたっぷりとした造形にしています。必要があるところは極端にそぎ落とさず、然るべき厚みを残す。そういうメリハリをつけながら、フラッグシップに値する品位を大切にしました。
矢代:ソニーのロゴも、普段はハウジング上に載っているのですが、ハウジングの均等な通気性をとにかく侵さないために、ヘッドバンド部に移動させています。
尾崎:スライダーのクリック音やスライダーのポジションを示す目盛りも小さなこだわりです。カメラもシャッター音で高品質さを感じますよね。同じように、ヘッドホンのスライダーを動かす時のクリック音も大事な要素の1つだと思うのです。
矢代:本革を使った部分にも相当なこだわりがあります。本革を使った製品は世の中にいろいろありますが、革の品位が表現されているものは、なかなかありません。例えば高額な腕時計の革ベルトって、すごく盛り上がりのある厚みを持っていて、革であることを感じさせますよね。今回、それを再現するために随分と手をかけました。端面は擦れるので、強度を高めるために端面で革を折り返し、裏側まで生地を巻き込んで縫製しています。すごい数の試作を重ねました。
――収納しているケースにも目を引かれたのですが。
尾崎:お客様から、「ヘッドホンは使用していない際に形が不安定で保管に困る」という声を多くお聞きしました。また、身に着けるものなのでほこりを被るのも避けたいと考え、専用ケースを設定しました。このケースで保管していただくことで、ヘッドバンド部のクッションやイヤーパッドがつぶれることも防げます。ケーブルがついたまま収納できる設計で、使い勝手のよさも考えています。
矢代:Z1Rを永く大事に使っていただくために、このハードケースも本体同様、品位を意識しながら心を込めて設計しました。例えば、表面の素材は合皮ですが、その縫い目の方向にもこだわり、正面から見た時の美しさを追求しました。ほかにも、ケース内の金字の表面加工や、シリアルナンバーなども、フラッグシップモデルらしい品位を演出する要素だと思います。
尾崎:一見、とてもシンプル。だからこそ、細部の作り込みが重要で難しい。ヘッドホン本体と同じくらい苦労したのではないでしょうか。自画自賛ですが、どこに出しても恥ずかしくないような、単なる付属品ではない本当に美しいケースになったと、私たちは自負しています。
――そんな高品位なヘッドホンやケースをつくれるバックボーンには、やはり「Made in Japan」があると。
潮見:はい。音に関係のある材料、例えば音響レジスターやドライバーユニットのアルミニウムコートLCP、マグネシウムドーム、マグネット、これらすべてが日本製です。音響レジスターの原料は先ほどお話ししたようにカナダ産の針葉樹なのですが、日本で製造することにこだわっているのは、やはりその品質の高さからです。
尾崎:組み立てに関してもそうです。レコーディングスタジオで使われている“プロのための機器”を多く手がけている工場で製造していますが、プロを相手にしているがゆえに、この工場は日ごろから音楽制作現場からの厳しいフィードバックにさらされています。また、この工場は従業員の勤続年数が長く、熟練作業者が多いことも大きなポイントです。これらによって鍛錬された高い技術力や厳しい品質管理基準が確立されているのです。そこにはやはり、一人ひとりの強い責任感、固い連帯意識という、日本人の気質があるのだと思います。 例えば、組み立て工程では「とにかく組むことを優先し、評価や検査を品質担当にまかせる」という姿勢はなく、組み立ての最中でも問題を見つけたら、その場で設計スタッフに確認する。それによって小さな問題も見逃さないことが、ソニーの商品クオリティーを生み出しているのだと思っています。
―では最後に、MDR-Z1Rをどのようなジャンルやユーザーにお薦めしたいですか。
潮見:このヘッドホンは、ジャンルやユーザーを限定しません。どのような音楽も楽しんで聴いていただけるものになったと思います。特にクラシックがとか、ジャズがといったジャンルにはとらわれず、ロックやEDMまで幅広いジャンルの音楽を聴いて音質調整をしています。音楽を愛するすべてのお客様にお使いいただき、ぜひ私たちが目指した「空気感」を体験していただきたいと考えています。