――では、2大性能のもうひとつ「装着性」へのこだわりを教えてください。
尾崎:装着性には2つポイントがあると考えていまして、1つは身に着けた時に快適であるという「装着感」。そしてもう1つは、正しい音で聴いていただくための「正しい装着状態」です。Z1Rは、装着性に関するソニーの最高技術をつぎ込んだ集大成モデルです。また、その装着性を長期にわたり維持するために、各部の素材や仕上げは堅牢性や耐久性を重視して厳選しました。
尾崎:まずイヤーパッドは、頭の凹凸にフィットするよう、三次元的な形状に立体縫製しています。しかし、理論的には多くの人の頭にピッタリ合うはずですが、実際には音質と一緒で、最後は人の感覚で確認しないと分からないところがあります。いくつかの試作品を実際に装着してもらって、誰もがいいと思うところを探り、このような形になりました。やっぱりデータだけではなく、人が最終的に身に着けての確認がとても重要です。
潮見:内部のクッションには低反撥ウレタンフォームを厚く、広い面積に使うことで、締めつける力を広範囲に均等に分散して装着感を向上させています。また、ドライバーの前面を確実に密閉することで、良質な低域再生を可能にしています。少しでも漏れてしまうと低域が聴こえないと感じるのに対して、ピタッと耳に密着している状態で装着できると、本当に低い音まで聴こえる。低い音を再生することは、例えば部屋の広さを感じられるような、空気感の再現にとって重要な要素なのです。
尾崎:また、長時間のリスニングでも快適に使えるものでありたい、そしてZ1Rを永く使ってほしい。こういった想いから、表面素材にはシープスキンを採用しました。産地を厳選した原皮を、日本の工場で、厳しい工程管理下において「なめす」ことにより、しなやかさと耐久性を両立させています。
――ヘッドバンドやハンガーなども、装着性に大きな関係がありますよね。
尾崎:ヘッドバンド部のバネ材として、メガネフレームなどに使われているβチタンに着目し、数年前から試作・開発を進めてきました。実はチタン製メガネフレームは日本が世界に先駆けて実用化したものと言われています。チタンならではの軽さに加えて、それをさらに改良して非常に広い弾性域を持たせたものがβチタンになります。弾性域が広いということは、大きく変形しても元に戻る耐久性の良い材料ということです。また、頭の大きさや形に左右されず、しなやかに曲がってフィットするため、頭を締め付ける側圧の個人差も低減します。よって、この材料こそヘッドバンドには最適な素材だと考えました。
また、ヘッドバンドカバーには、強度と耐久性を重視して牛革を採用しました。そして、ハンガーとスライダーには、安定した正しい装着状態を生み出すために、薄肉で強度が確保できるアルミニウム合金を採用しています。