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高村成一 3.AIBOはひとりで行動する自律ロボット開発者インタビュー
話し手 高村成一 Seiichi Takamura

「アイボーン」や「ピンクボール」などの画像認識や制御プログラムの開発を担当

 

――ERS-7では新しい遊び道具として「アイボーン」が登場しました。AIBOはアイボーンで自然に遊びますが、実際AIBOにはどのように見えているのですか。
高村 基本的には、アイボーンも初代AIBO「ERS-110」からあるピンクボール同様にピンクの色を見て認識していますが、ピンクボールとアイボーンを見分ける必要があるため、ERS-7では画像認識能力を向上させています。ピンクボールは図1のように「色」で見分けていましたが、ERS-7では色だけでなく、円(ピンクボール)、三角(アイボーンの側面)、棒(アイボーンのくわえ部分)の3つを「形状」で見分ける能力を備えています。ERS-7では、AIBOが成長すると口にくわえたアイボーンをひょいと投げて、ピンクボールに当てたりという、ロボットとしてはかなり独特で複雑な動きをしますが、これも画像認識能力がアップしたからできることなんです。
AIBOが見ている世界

――具体的には、どうやってピンクボール(円)、アイボーンの側面(三角)、アイボーンのくわえ部分(棒)を見分けているのですか。
高村 図2のような「円形度」という“丸らしさ”の尺度を使って、モノの形を見分けています。カラーカメラに映っているピンク色の領域の面積と、周囲の長さの比率を計算することで、円ならピンクボール、三角ならアイボーンの側面、棒ならアイボーンのくわえ部分というように認識します。人間もモノを見たときに「これは○○だから……」という感じで、よく考えてから理解しますよね。それと同じようなプロセスをAIBOも行っているわけです。
円形度

――カラーカメラでモノを見る。次に、それが何かを画像処理の技術で認識する。それによってAIBOは、いま自分が見ている世界を理解でき、自律行動をすることが可能になるわけですね。
高村 さまざまな認識能力がアップすれば、その分だけAIBOは、知性を持ったよりユニークな存在へと進化できる。そうした可能性を広げて行きたいという想いを込めて、画像処理の技術に取り組んでいます。もう少しアイボーンとピンクボールの形状認識のハナシをさせてもらうと、円形度の計算をする際に、図3のような「補填」という処理を行っているのですが、これはAIBOがモノの形を正しく認識するために、とても重要な技術なんです。

――歴史的な絵画や壁画などを修復して、元の状態に近づけるようなイメージですか。
高村 そうですね。カメラに映った画像は部屋の中の照明の具合や光の角度によって、ボールの表面に光が映り込んで白飛びして見えたり、陰になった部分が黒く見えたりしてしまいます。虫食い状態のリンゴのようになっているピンクボールの画像に対して、そのまま円形度の計算を行うと、理論値から大きく離れた結果になってしまい、場合によってはAIBOが「これはボールじゃない」と判断してしまうことになる。そのため、カラーカメラに映った画像を補填という画像処理で整えてから認識を行います。また、実際には補填に加えて「膨張」と「収縮」という技術も使っているのですが、そのようにAIBOはリアルタイムで画像処理を行なっているため、円形度の計算で正しい結果を得ることができ、間違って認識することが少なくなるんです。
AIBOの補填処理

――ところで、円形度の計算を行なうアイボーンの側面にあるピンク色の模様は、三角形というよりも三つ葉のクローバーに近いデザインになっていますが。
高村 実は、ここでも補填の技術が使われています。三つ葉のクローバーの画像に補填処理をかけることで、AIBOにはこれが正三角形として見えているんですよ。補填のおかげで、本当の三角形にこだわらなくても、AIBOに認識をさせることが可能になり、その結果デザインに自由度を持たせることができた。丸みを帯びたの三つ葉のクローバーのデザインには、こんな秘密があるんです。

――AIBOはアイボーンを認識するためにさまざまな計算を行なっているのですね。
高村 アイボーンを見つけるだけでなく、AIBOは直前に見ていたモノが何で、その距離がどれくらいだったかということを記憶しています。だから、例えばくわえる瞬間など近づきすぎてアイボーンをカメラが見失ったときでも、短期記憶からアイボーンの位置や状態を推測するプログラムも働いている。AIBOが自然にアイボーンをくわえて遊ぶ裏側では、こういう見えないところにも、さまざまな工夫があるんです。ちなみに、アイボーンをくわえた後は、AIBOがいろいろなアクションを見せてくれますよ。上達すると数十種類のアクションを見せてくれますので、楽しんでいただきたいですね。


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