周産期医療ネットワークと医療人養成プログラムの充実を図りたい。 宮崎大学では、以前から宮崎県全体の周産期医療のレベル向上に努めている。大学病院の周産母子センターに設置されたビデオ会議システム。 宮崎県の周産期*死亡率は非常に低く、厚生労働省の統計によると2006年では出生1000人に対し3.6人と、全国1位の生存率を誇ります。これは、大学病院の産婦人科を中心に、県立延岡病院や宮崎市郡医師会病院、県立日南病院などの拠点病院、その地域の開業医の間で、高次の治療を必要とするハイリスク母体や新生児について、密に連絡がとれる体制を整えた結果です。今後は、この結果に甘んじることなく、宮崎県全体の周産期医療のレベル向上を目指しています。さらに、文部科学省が公募した「地域医療等社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム」に申請。医学部が申請した「産婦人科医小児科医が連携した医療人養成プログラム」を申請した結果、優れた取り組みとして採択されました。 こうした背景を受け、宮崎県内全域を網羅した周産期医療ネットワークのさらなる充実と、医療人養成プログラムの成果をあげるために、ビデオ会議システムを導入しました。(池ノ上教授) *妊娠22週以降の胎児期と生後7日未満の新生児期をあわせた時期を指す
多地点接続と、情報の伝達にふさわしい映像・音声品質が決め手。 パソコンデータに加え、文献などを活用して説明する 私は当初、周産期医療ネットワークのために、高額なシステムを導入する必要はないと考えていました。電話でも十分ではないかと思っていたのですが、金子准教授の「“映像”が加わることで、お互いの表情が分かって行き違いが減るのではないか。さらに、資料をその場で提示しながら遠隔会議を行うことで、理解が深まる可能性が高い」という意見に、なるほどと頷ける面がありました。そこで、大学病院の周産母子センターと複数の拠点病院をビデオ会議システムで接続し、遠隔カンファレンスを開催することにしました。多地点接続が行えること、症例などを報告するために、パソコンデータのほかに紙のカルテや文献なども映像として送受信できること、講演会などイベントにも活用できること、コスト面など、いくつかの要件をあげて機種の選定を行いました。デモなどで映像や音声の品質を確認したところそのクオリティーに満足し、かつ当大学の要件を満たす最適のシステムだと判断して、ソニーのビデオ会議システムを選択しました。(池ノ上教授)6拠点にシステムを導入。パソコンと紙の両資料の活用も考慮。 大学病院の産婦人科、小児科、周産母子センター、各拠点病院の合計6拠点(8ヶ所)に、ハイパフォーマンス・スタンダードモデルのPCS-G50とデータソリューションボックスをそれぞれ導入しました。ビデオ会議画面は液晶モニターに、パソコン画面の映像はデータプロジェクターを通してスクリーンに投影しています。2つのモニターを使っているので、お互いの表情を確認しながら、細かい症例の検討ができ、快適にコミュニケーションを行っています。(金子准教授)
カンファレンスでは、資料として、パソコンのほかに紙のカルテや文献、メモなども使用します。緊急性の高い重篤患者のカルテやメモをすぐさま電子カルテ化するのは困難なため、各書類をカメラで映してそのまま送受信できる書画カメラが役立ちます。パソコン画面と資料映像の切り替えはAnycastStationで行えるので、とても簡単に操作できます。 指導医の教育・診療レベルの維持と向上。 大学病院と県内拠点病院を接続し、症例の情報共有を行う。院内の産婦人科と周産母子センターを接続し、連携体制を整える。 毎週月曜日に行うモーニングカンファレンスでは、大学病院の産婦人科と各拠点病院を接続し、小児科の布井教授と高木講師も参加して症例の検討を行います。カンファレンスには医師や医学生のほか、1次施設にあたる開業医が参加することもあります。宮崎県の場合、多くの妊婦は1次施設で出産しますが、リスクが伴う場合には地域拠点病院へ、さらにリスクが高い場合には大学病院へと移送されます。妊婦の初期段階を正確に把握している開業医がカンファレンスに参加することで、必要な情報をその場で共有できますし、全体の知識の向上にもつながります。 また、胎児期から新生児期にいたるまでの連携体制を整えるため、大学病院内で産婦人科と周産母子センターを接続し、カンファレンスを毎朝行います。以前は、周産母子センター内に数名のスタッフが残らなければならないため、全員参加のカンファレンスはできませんでした。現在では、ビデオ会議を使用することで全員が参加できますし、カンファレンス中に周産母子センター内で緊急事態が起きた場合でも、すぐに対応できます。この点は大きなメリットだと思っています。 また、カンファレンスには医学生も参加しているため、プレゼンターはビデオ会議システムを通じて、わかりやすく伝える工夫をしています。これによって、プレゼンテーションスキルの向上にも効果があり、様々なメリットを実感しています。(池ノ上教授) 県外の周産期施設とも接続し、相互教育やレベル向上を目指す。 優れた産婦人科医の育成を目指し、ビデオ会議システムを有効活用。 今後は、未設置の拠点病院にも順次設置し、周産期医療ネットワークをさらに充実させる予定です。さらに、当大学の教室員が赴任している大阪の国立循環器病センター周産期科や千葉県社会保険船橋中央病院周産期センター、アメリカのカリフォルニアアーバイン校とも、ビデオ会議で接続する計画です。県外に展開することで、現場の状況や技術などの情報共有による相互教育につながり、互いの施設のレベル向上が期待できます。当大学では、今後も地域医療を重んじながら、診療や研究面で世界に通用する産婦人科医の育成を目指します。そのためにも、ビデオ会議システムを有効に活用していきたいですね。(池ノ上教授)
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